鎖鎌のトロール
『アルヘナポルク』での食事を終え、フリムは再び『貸し武器屋リューちゃん』を訪れた。
相変わらず少年たちが列を成し、アゼリアの孫娘・リスタがそれを捌いている。
「リューマさん!」
「おう。飯食ってきたのか?」
「はいっ、とっても美味しかったです! それより……」
ずいっ。
と、フリムはウォーハンマーを突き出し、
「この武器、すごいです! わたし、馬鹿力なのが悩みだったんですが、このハンマーはびっくりするくらい頑丈で!」
「まぁ、そういう風にできているからな」
「次は、鎖鎌を使うトロールを討伐したいんです! またぴったりな武器があれば貸してもらえませんか⁈」
興奮気味なフリムに対し、リューマは相変わらず気力に欠ける目でまばたきすると、
「……あるぜ。待ってろ、今出してやる」
不敵に笑い、空の鞘に手をかけ……
ウォーハンマーの時と同じように、何もない口から、ハルバード──穂先が斧状になった槍を取り出した。
「相手が鎖鎌を使うなら、こいつが適任だろう」
「って、さっきも思ったんですが、それどうやって出しているんですか⁈ そんな長い武器、どう考えてもその鞘には収まりませんよね⁈」
「ちぃとばかし長いが、扱えるか?」
「無視⁈」
思わずツッコむも、リューマは取り合うつもりがないのか、「ん」とハルバードを突き出す。
手品のタネを知りたいところではあるが、フリムは仕方なく受け取ることにした。
「はい、扱えます。けど……どうしてハルバードなんですか?」
「これなら距離を取りながら攻撃ができるし、鎖を絡め取ることもできる。それに……」
「それに?」
「……いや。とにかく、その相手にはこれが最適だ。ということで」
サッ。
と、リューマは契約書を取り出し、
「ほい、新しい契約書。そっちのウォーハンマーは返却でいいな?」
「あっ、はい」
フリムは流れるようにウォーハンマーを返却し、ハルバードの契約書にサインをし……最後に二千ゼリンを支払った。
「確かに。んじゃ、健闘を祈るぜ」
金をしまいながら、リューマが笑う。
フリムは、借り受けたハルバードを見上げ、
(とんとん拍子で借りちゃったけど……こんな優美で華奢な武器、わたしが使って大丈夫かなぁ?)
三日月型の美しい穂先を目に映しながら、早くも不安を覚えるのだった。
◇◆◇
そうしてフリムは、本日三度目となるタシナの森へと足を踏み入れた。
しかし、念入りな捜索も虚しく、『鎖鎌のトロール』は見つからないまま日が暮れ……
仕方なく、その日の討伐は断念し、翌日出直すことにした。
が、その後三日が過ぎても、『鎖鎌のトロール』は現れなかった。
捜索範囲を広げてみるが、他のモンスターに出くわすばかりで、肝心の本命が出てこない。
別の討伐対象を倒したため、報酬を受け取ることはできたが……それでもフリムは、どうしても『鎖鎌のトロール』を諦め切れなかった。
一度対峙しているからこそわかる。
あれには、他のモンスターにはない〝なにか〟があった。
致命傷を与えづらい強靭な肉体。
その巨体から繰り出される猛烈な攻撃。
それらを抜きにしても、なにか……意志や目的を持って動いているような、不思議な感覚があった。
それは、『二刀流のオーク』も同じ。
奴の動きには、妙な冷静さがあった。
モンスターには知性も理性もないはずなのに……やはり、人間の武器を狙うモンスターには、これまでにない変異が起きているのだろうか?
そのような懸念があるからこそ、フリムは『鎖鎌のトロール』を野放しにしたくなかった。
自分がやらなくても、他の傭兵や魔導士が倒すのかもしれない。
けれど、せっかく自分の全力を発揮できそうな武器に出会えたのだ。
今まで悔しい思いをしてきた分、街の平和に貢献したい。
それに……
(あと三日以内に返さなくちゃ、リューマさんに殺されるっ……! このハルバードを借りている内に、ケリをつけないと……!)
……という意味での焦りも、大いにあった。
そうして迎えた、捜索五日目。
その日も朝からタシナの森を歩き回ったが、出会うのは別のモンスターばかりで、本命には行き当らなかった。
もしかすると、活動拠点をこの森から別の場所に移したのだろうか?
だとすれば、今ごろ別の街のギルドに討伐依頼が入っていたり……?
「街に戻って、一度ルルさんに聞いてみようかな……」
もうすぐ日没。
フリムはため息をつきながら森を出て、夕焼けに染まる街道を歩いた。
すると、後ろから馬車が近付く音が聞こえてきた。
フリムは端に寄り、馬車を先に行かせる。
人を運ぶ乗り合い馬車ではなく、物資を運ぶ荷馬車だ。
ギルドから聞いた話によれば、まさにあのような馬車がモンスターの標的になっているのだとか。
(こんな時間にこの場所を通るなんて、危ないなぁ。じきに日が暮れて真っ暗になるだろうし……ただでさえモンスターの出没が多い場所なのに)
などと、徐々に離れていく馬車を見つめていると……
──ビリィッ……!
森の中から何かが飛び出し、馬車の幌を引き裂いた。
それは──鎖。
鈍色に光る鎖が馬車の荷台に伸び、グンッと引いて……馬車を横転させた。
いななく馬と、地面に転がる御者。
その横、森の奥からのっそり現れたのは……
見上げるほどに大きな身体を持つ、トロール。
緑色の皮膚に、赤く濁った相貌。
下あごはしゃくれ、二本の牙が覗いている。
間違いない……あの日倒し損ねた、『鎖鎌のトロール』だ。
(いた……ついに見つけた……!)





