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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第1話

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鎖鎌のトロール



『アルヘナポルク』での食事を終え、フリムは再び『貸し武器屋リューちゃん』を訪れた。

 相変わらず少年たちが列を成し、アゼリアの孫娘・リスタがそれを捌いている。


「リューマさん!」

「おう。飯食ってきたのか?」

「はいっ、とっても美味しかったです! それより……」


 ずいっ。

 と、フリムはウォーハンマーを突き出し、


「この武器、すごいです! わたし、馬鹿力なのが悩みだったんですが、このハンマーはびっくりするくらい頑丈で!」

「まぁ、そういう風にできているからな」

「次は、鎖鎌(くさりがま)を使うトロールを討伐したいんです! またぴったりな武器があれば貸してもらえませんか⁈」


 興奮気味なフリムに対し、リューマは相変わらず気力に欠ける目でまばたきすると、


「……あるぜ。待ってろ、今出してやる」


 不敵に笑い、空(から)の鞘に手をかけ……

 ウォーハンマーの時と同じように、何もない口から、ハルバード──穂先が斧状になった槍を取り出した。


「相手が鎖鎌を使うなら、こいつが適任だろう」

「って、さっきも思ったんですが、それどうやって出しているんですか⁈ そんな長い武器、どう考えてもその鞘には収まりませんよね⁈」

「ちぃとばかし長いが、扱えるか?」

「無視⁈」


 思わずツッコむも、リューマは取り合うつもりがないのか、「ん」とハルバードを突き出す。

 手品のタネを知りたいところではあるが、フリムは仕方なく受け取ることにした。


「はい、扱えます。けど……どうしてハルバードなんですか?」

「これなら距離を取りながら攻撃ができるし、鎖を絡め取ることもできる。それに……」

「それに?」

「……いや。とにかく、その相手にはこれが最適だ。ということで」


 サッ。

 と、リューマは契約書を取り出し、


「ほい、新しい契約書。そっちのウォーハンマーは返却でいいな?」

「あっ、はい」


 フリムは流れるようにウォーハンマーを返却し、ハルバードの契約書にサインをし……最後に二千ゼリンを支払った。


「確かに。んじゃ、健闘を祈るぜ」


 金をしまいながら、リューマが笑う。

 フリムは、借り受けたハルバードを見上げ、


(とんとん拍子で借りちゃったけど……こんな優美で華奢な武器、わたしが使って大丈夫かなぁ?)


 三日月型の美しい穂先を目に映しながら、早くも不安を覚えるのだった。




  ◇◆◇




 そうしてフリムは、本日三度目となるタシナの森へと足を踏み入れた。

 しかし、念入りな捜索も虚しく、『鎖鎌のトロール』は見つからないまま日が暮れ……

 仕方なく、その日の討伐は断念し、翌日出直すことにした。


 が、その後三日が過ぎても、『鎖鎌のトロール』は現れなかった。

 捜索範囲を広げてみるが、他のモンスターに出くわすばかりで、肝心の本命が出てこない。

 別の討伐対象を倒したため、報酬を受け取ることはできたが……それでもフリムは、どうしても『鎖鎌のトロール』を諦め切れなかった。


 一度対峙しているからこそわかる。

 あれには、他のモンスターにはない〝なにか〟があった。


 致命傷を与えづらい強靭な肉体。

 その巨体から繰り出される猛烈な攻撃。

 それらを抜きにしても、なにか……意志や目的を持って動いているような、不思議な感覚があった。


 それは、『二刀流のオーク』も同じ。

 奴の動きには、妙な冷静さがあった。


 モンスターには知性も理性もないはずなのに……やはり、人間の武器を狙うモンスターには、これまでにない変異が起きているのだろうか?

 そのような懸念があるからこそ、フリムは『鎖鎌のトロール』を野放しにしたくなかった。


 自分がやらなくても、他の傭兵や魔導士が倒すのかもしれない。

 けれど、せっかく自分の全力を発揮できそうな武器に出会えたのだ。

 今まで悔しい思いをしてきた分、街の平和に貢献したい。

 それに……


(あと三日以内に返さなくちゃ、リューマさんに殺されるっ……! このハルバードを借りている内に、ケリをつけないと……!)


 ……という意味での焦りも、大いにあった。




 そうして迎えた、捜索五日目。

 その日も朝からタシナの森を歩き回ったが、出会うのは別のモンスターばかりで、本命には行き当らなかった。


 もしかすると、活動拠点をこの森から別の場所に移したのだろうか?

 だとすれば、今ごろ別の街のギルドに討伐依頼が入っていたり……?


「街に戻って、一度ルルさんに聞いてみようかな……」


 もうすぐ日没。

 フリムはため息をつきながら森を出て、夕焼けに染まる街道を歩いた。


 すると、後ろから馬車が近付く音が聞こえてきた。

 フリムは端に寄り、馬車を先に行かせる。


 人を運ぶ乗り合い馬車ではなく、物資を運ぶ荷馬車だ。

 ギルドから聞いた話によれば、まさにあのような馬車がモンスターの標的になっているのだとか。


(こんな時間にこの場所を通るなんて、危ないなぁ。じきに日が暮れて真っ暗になるだろうし……ただでさえモンスターの出没が多い場所なのに)


 などと、徐々に離れていく馬車を見つめていると……


 ──ビリィッ……!


 森の中から何かが飛び出し、馬車の幌(ほろ)を引き裂いた。


 それは──鎖。

 鈍色(にびいろ)に光る鎖が馬車の荷台に伸び、グンッと引いて……馬車を横転させた。


 いななく馬と、地面に転がる御者(ぎょしゃ)。

 その横、森の奥からのっそり現れたのは……

 見上げるほどに大きな身体を持つ、トロール。


 緑色の皮膚に、赤く濁った相貌。

 下あごはしゃくれ、二本の牙が覗いている。

 間違いない……あの日倒し損ねた、『鎖鎌のトロール』だ。


(いた……ついに見つけた……!)



 

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