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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第1話

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閃光のハルバード



 フリムは背負っていたハルバードを手にし、走る。


 御者(ぎょしゃ)が逃げ出し、馬が暴れる中、トロールは大きな手で荷台の幌(ほろ)を破き、中をあらためた。

 そこに積まれているのは、売り物と思しき剣や槍。

 やはり、奴の狙いは武器だ。


「止まりなさい!」


 トロールに近付き、フリムが叫ぶ。


「これ以上、人々の武器を狙うのはやめなさい! 反省して行動をあらためるというのなら、わたしも手出しはしません!」


 いつものように、誠実に呼びかけてみる。

 が、返ってきたのは……


「…………グゥゥ……!」


 言葉ではなく、攻撃だった。

 空気をヒュンッと唸らせ、飛んでくる鋭利な鎌。

 フリムが回避すると、鎌の先が地面を抉(えぐ)った。


「そうですか……ならば、倒すのみっ!」


 フリムはハルバードを構え、駆け出した。


 強度に不安があるため、力を加減しながら突きを放つ。

 それでも、その一撃は熟練の槍使いと比べても引けを取らないほどに鋭い。


 しかし、鎌を引き寄せたトロールが、フリムの突きを鎌の刃で弾き返した。

 前回戦った時にも感じたが、巨体の割に反応が速い。


 鎖鎌という武器は厄介ではあるが、鎌を投げさせなければどうということはない。

 フリムは投げる隙を与えないよう、間髪入れずに突きを繰り返した。


(上から見下ろされている分、攻撃が読まれやすい……っ!)


 弾かれ続ける攻撃。

 この巨体に致命傷を与えるには心臓を狙うか、頭部を破壊するしかないが……分厚い胸板をひと突きで貫くことはできそうにないし、頭部を狙うのも高さ的に難しい。


 一撃必殺は無理。

 ならば、足や胴体を攻撃し、徐々に弱らせ、動きを鈍らせるしかない。

 もちろん、都度回復していくので、それを上回る速さで攻撃し続けなければならない。


(こんな時、仲間がいたら……状況はだいぶ違うんだろうなぁ……!)


 手を休めないまま、フリムは歯ぎしりする。


 傭兵たちの中には、討伐部隊やパーティを組み、複数人で依頼をこなしている者も多くいる。

 しかしフリムの場合、馬鹿力で武器や公共物を破壊しまくる恐れがあるため、他人に迷惑をかけないよう単独行動を選んでいるのだ。


(こんなわたしだけど、誰かの役に立ちたい。誰かの故郷を、平和な生活を、護れる人間になりたい。だって、わたしにはもう……取り戻せないものだから)


 まもなく日が沈む。

 ぶつかり合う鎌と槍穂が火花を散らし、夕焼け空に溶ける。


 辺りが完全に闇に沈めば、そこは夜目の利くモンスターの独壇場だ。

 日没までに、何としてでも仕留めなくては。


 フリムの業(わざ)が、研ぎ澄まされていく。

 次第に鋭く、速く、無駄のない突きに練られていく。

 それに、ハルバードは応えた。

 折れる気配はない。

 むしろ、フリムの力をしっかり乗せ、トロールの四肢を攻撃してくれている。


 ウォーハンマーと同じ……この武器も、信じられないくらいに強靭だ。

 ならば……


(遠慮なく、全力を叩き込むっ……!)


 と、渾身の突きを放とうとした、その時。


「あっ……!」


 ハルバードの斧の部分に、鎖鎌がぐるりと巻き付いた。

 そのまま、ぐいっと引っ張られる。

 身体が持ち上がりそうになるが、フリムは足を踏ん張り、なんとか耐えた。


(どうしよう……動きを封じられた……!)


 よくよく考えれば、鎖鎌を相手に、突起の多いハルバードはかなり分(ぶ)が悪い。

 こんな風に引っかけられて持ち上げられてしまえば、一巻の終わりだからだ。

 それなのに何故、リューマはこの武器を勧めたのか……

 フリムは、彼の言葉を思い出す。


『これなら距離を取りながら攻撃ができるし、鎖を絡め取ることもできる。それに……』


 それに……何だったのだろう。

 とにかく、リューマとしては鎖を絡め取ることに利点があると考えているようだ。

 つまりこの状況は、ピンチではなくチャンスなのかもしれない。


(もしかして……こうして絡め取って、トロールと綱引きしろってこと⁈)


 確かに、このハルバードは驚くほど頑丈で、切れ味も申し分ない。

 ここまでの攻防で、そのことは身をもって実感している。

 全力を込めて引っ張れば……鎖鎌を引き千切ることすらできるかもしれない。


「くぅっ……!」


 持ち上げられそうになるのを堪えながら、フリムは力いっぱいハルバードの柄(え)を引く。


 今までの武器ならば、この時点で壊れていた。

 けれど、この武器は違う。

 このハルバードは、きっと……わたしの力を、思う存分発揮させてくれる。


「わたしは……この武器を、信じる……っ」


 フリムの手に、額に、血管が浮き立つ。

 瞳が、赤紫に輝く。


「負けないっ……わたしは、もう……絶対に、負けない……っ!」


 ……刹那。

 ハルバードの先端が、光を放ち……


 ──バチバチバチィイッ!


 空(くう)を裂くような音を立てながら、明滅した。


 それは……電撃。

 雷(いかずち)の魔法に似た電撃が発生し、夕闇の中、閃光を放っている。


 その光は、絡み付いた鎖をヘビのように這い……

 トロールの身体を感電させた。


「グガガガガガァッ……!」


 呻きながら、巨体を振動させるトロール。

 太い腕の痙攣が鎖鎌からハルバードへと伝わり、反動でフリムの身体が宙に持ち上げられた。

 同時に、絡み付いていた鎖が切れた。

 フリムは空中で一回転し、ハルバードを構える。


「これで……おわりですっ!」


 落下の勢いを利用し、フリムは──トロールの脳天を突き刺した。


 頭蓋骨をも貫通する強烈なひと突き。

 巨大な頭部がビリビリと震える。


「グ……ガ……!」


 トロールは、目玉をぐるんっと回し……

 白目を剥きながら、その巨体を、ずしんと横たえた。


 フリムがすとんっと着地した直後、トロールの身体が塵となり、消えていく。

 残されたのは千切れた鎖鎌と、下顎の牙二本だけ。


 ……終わった。

『鎖鎌のトロール』を、討伐した。


「…………はぁぁ」


 疲労感が一気に押し寄せ、フリムは握ったハルバードに体重を預けた。


 気付けば太陽が沈み、夜の帳(とばり)が下りている。

 訪れた暗闇の中、ハルバードが放つ雷光だけが、眩(まばゆ)く輝いていて……


「……………………」


 フリムはそれを……呆然と見上げた。



 

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