閃光のハルバード
フリムは背負っていたハルバードを手にし、走る。
御者が逃げ出し、馬が暴れる中、トロールは大きな手で荷台の幌を破き、中をあらためた。
そこに積まれているのは、売り物と思しき剣や槍。
やはり、奴の狙いは武器だ。
「止まりなさい!」
トロールに近付き、フリムが叫ぶ。
「これ以上、人々の武器を狙うのはやめなさい! 反省して行動をあらためるというのなら、わたしも手出しはしません!」
いつものように、誠実に呼びかけてみる。
が、返ってきたのは……
「…………グゥゥ……!」
言葉ではなく、攻撃だった。
空気をヒュンッと唸らせ、飛んでくる鋭利な鎌。
フリムが回避すると、鎌の先が地面を抉った。
「そうですか……ならば、倒すのみっ!」
フリムはハルバードを構え、駆け出した。
強度に不安があるため、力を加減しながら突きを放つ。
それでも、その一撃は熟練の槍使いと比べても引けを取らないほどに鋭い。
しかし、鎌を引き寄せたトロールが、フリムの突きを鎌の刃で弾き返した。
前回戦った時にも感じたが、巨体の割に反応が速い。
鎖鎌という武器は厄介ではあるが、鎌を投げさせなければどうということはない。
フリムは投げる隙を与えないよう、間髪入れずに突きを繰り返した。
(上から見下ろされている分、攻撃が読まれやすい……っ!)
弾かれ続ける攻撃。
この巨体に致命傷を与えるには心臓を狙うか、頭部を破壊するしかないが……分厚い胸板をひと突きで貫くことはできそうにないし、頭部を狙うのも高さ的に難しい。
一撃必殺は無理。
ならば、足や胴体を攻撃し、徐々に弱らせ、動きを鈍らせるしかない。
もちろん、都度回復していくので、それを上回る速さで攻撃し続けなければならない。
(こんな時、仲間がいたら……状況はだいぶ違うんだろうなぁ……!)
手を休めないまま、フリムは歯ぎしりする。
傭兵たちの中には、討伐部隊やパーティを組み、複数人で依頼をこなしている者も多くいる。
しかしフリムの場合、馬鹿力で武器や公共物を破壊しまくる恐れがあるため、他人に迷惑をかけないよう単独行動を選んでいるのだ。
(こんなわたしだけど、誰かの役に立ちたい。誰かの故郷を、平和な生活を、護れる人間になりたい。だって、わたしにはもう……取り戻せないものだから)
まもなく日が沈む。
ぶつかり合う鎌と槍穂が火花を散らし、夕焼け空に溶ける。
辺りが完全に闇に沈めば、そこは夜目の利くモンスターの独壇場だ。
日没までに、何としてでも仕留めなくては。
フリムの業が、研ぎ澄まされていく。
次第に鋭く、速く、無駄のない突きに練られていく。
それに、ハルバードは応えた。
折れる気配はない。
むしろ、フリムの力をしっかり乗せ、トロールの四肢を攻撃してくれている。
ウォーハンマーと同じ……この武器も、信じられないくらいに強靭だ。
ならば……
(遠慮なく、全力を叩き込むっ……!)
と、渾身の突きを放とうとした、その時。
「あっ……!」
ハルバードの斧の部分に、鎖鎌がぐるりと巻き付いた。
そのまま、ぐいっと引っ張られる。
身体が持ち上がりそうになるが、フリムは足を踏ん張り、なんとか耐えた。
(どうしよう……動きを封じられた……!)
よくよく考えれば、鎖鎌を相手に、突起の多いハルバードはかなり分が悪い。
こんな風に引っかけられて持ち上げられてしまえば、一巻の終わりだからだ。
それなのに何故、リューマはこの武器を勧めたのか……
フリムは、彼の言葉を思い出す。
『これなら距離を取りながら攻撃ができるし、鎖を絡め取ることもできる。それに……』
それに……何だったのだろう。
とにかく、リューマとしては鎖を絡め取ることに利点があると考えているようだ。
つまりこの状況は、ピンチではなくチャンスなのかもしれない。
(もしかして……こうして絡め取って、トロールと綱引きしろってこと⁈)
確かに、このハルバードは驚くほど頑丈で、切れ味も申し分ない。
ここまでの攻防で、そのことは身をもって実感している。
全力を込めて引っ張れば……鎖鎌を引き千切ることすらできるかもしれない。
「くぅっ……!」
持ち上げられそうになるのを堪えながら、フリムは力いっぱいハルバードの柄を引く。
今までの武器ならば、この時点で壊れていた。
けれど、この武器は違う。
このハルバードは、きっと……わたしの力を、思う存分発揮させてくれる。
「わたしは……この武器を、信じる……っ」
フリムの手に、額に、血管が浮き立つ。
瞳が、赤紫に輝く。
「負けないっ……わたしは、もう……絶対に、負けない……っ!」
……刹那。
ハルバードの先端が、光を放ち……
──バチバチバチィイッ!
空を裂くような音を立てながら、明滅した。
それは……電撃。
雷の魔法に似た電撃が発生し、夕闇の中、閃光を放っている。
その光は、絡み付いた鎖をヘビのように這い……
トロールの身体を感電させた。
「グガガガガガァッ……!」
呻きながら、巨体を振動させるトロール。
太い腕の痙攣が鎖鎌からハルバードへと伝わり、反動でフリムの身体が宙に持ち上げられた。
同時に、絡み付いていた鎖が切れた。
フリムは空中で一回転し、ハルバードを構える。
「これで……おわりですっ!」
落下の勢いを利用し、フリムは──トロールの脳天を突き刺した。
頭蓋骨をも貫通する強烈なひと突き。
巨大な頭部がビリビリと震える。
「グ……ガ……!」
トロールは、目玉をぐるんっと回し……
白目を剥きながら、その巨体を、ずしんと横たえた。
フリムがすとんっと着地した直後、トロールの身体が塵となり、消えていく。
残されたのは千切れた鎖鎌と、下顎の牙二本だけ。
……終わった。
『鎖鎌のトロール』を、討伐した。
「…………はぁぁ」
疲労感が一気に押し寄せ、フリムは握ったハルバードに体重を預けた。
気付けば太陽が沈み、夜の帳が下りている。
訪れた暗闇の中、ハルバードが放つ雷光だけが、眩く輝いていて……
「……………………」
フリムはそれを……呆然と見上げた。





