どうぞごひいきに
「──リューマさんっ!」
翌朝。
フリムは、ハルバードを手に『貸し武器屋リューちゃん』を訪れた。
「おう。どうだった? 『鎖鎌のトロール』、倒せたか?」
相変わらず気怠げに尋ねるリューマ。
その気の抜けた顔に、フリムはハルバードを突き出し、
「倒しましたけど、これ! この武器! なんかビリビリ〜ってなったんですけど! どういうことですか⁈」
鬼気迫る表情で、問い詰める。
本当ならば昨日のうちに聞きたかったのだが、街に戻りギルドへ報告し、その後に来てみたら、リューマはもう店じまいしていて、いなかったのだ。
「この一晩、気が気じゃなかったんですよ⁈ 外に置いておくわけにもいかないから部屋に置いたものの、寝ている間に電撃を喰らったらどうしようって!」
そう訴えるフリムの目には、うっすらクマが浮かんでいる。
「電流を纏う武器なんて聞いたことがないですよ! まるで、おとぎ話に出てくる伝説の武器……これは一体、何なのですか⁈」
血走った目を近付けられるも、リューマはまばたきするのみ。
そして、
「そうか……あんた、やはり認められたのか」
「……へっ?」
「ウォーハンマーを貸した時にも、何か感じなかったか? こう、自分の能力だけじゃない、特別な何かを」
言われて、思い出す。
地面にクレーターを作り、地震を発生させるほどの衝撃を……
「あれ、やっぱりわたしの馬鹿力だけじゃなく……あのウォーハンマーの能力……⁈」
「そう。あんたは武器の中にいるモノに認められた。だから今回も、ハルバードの特性である電撃を放てるようになった。相手が鎖鎌を使うっていうから、ワンチャン発動すれば感電狙えんじゃね? と思って貸したが……やるじゃん」
という、わけのわからない解説をするので、フリムは喉を鳴らしながら聞き返す。
「武器の中にいる、モノ……? それって……」
「──魔族だよ」
目を見開くフリム。
リューマは、緩く笑い、
「俺が貸し出す武器の中には、魔族の精神が入っている。つまりこの武器そのものが魔族の身体……だから傷付いたそばから修復するし、滅多なことじゃ壊れない」
「なっ……!」
「魔族は精神生命体。精神の強さで序列が決まる。軟弱な精神の者は容赦なく殺すが、気高く強い精神を持つ者には敬意を払う。あんたは武器の中の魔族に、『気高き精神の持ち主』だと認められた。だから能力を貸してもらえたんだ」
それは……妄言としか思えない言葉だった。
だって、魔族は二百年前、〈魔王〉が倒されるのと同時に精神崩壊し、すべてモンスターに成り果てたはず。
なのに何故、武器の形で現存していて……それを、この人が貸し出しているのか。
しかし同時に、納得もしてしまった。
フリムの怪力にびくともしない頑強さと、不思議な能力……中に魔族がいるというのなら、説明がつく。
手にしたハルバードを見上げ、ぞぞぞっと慄いていると、
「リューちゃんの武器、魔族が入ってんの⁈ まじやべーじゃん!」
と、例の虫カードを買いに集まっていた少年たちが、面白がるように言った。今日も今日とて大盛況だ。
「そうだぞー? だから悪いことすんなよ? そのカードよそで転売してんの見つけたら、武器持ってオシオキに行くからな」
「やべー! こわー‼︎」
なんてやり取りを見る限り、本当に魔族が入っているのか怪しいところだが……
「……ま、とにかくあんたは、武器に認められた崇高な精神の持ち主ってことだ」
言いながら、リューマは懐から小さなカードを取り出す。
「えっと、あんたの名前は……」
「ふ、フリムです」
「そうそう。フ、リ、ム、っと……ほい」
カードにフリムの名前を書き、そのまま差し出した。
そして、口の端をニッと吊り上げて、
「ウチのスタンプカード。選ばれしお客さんのみに渡す、特別なモンだ。今後もごひいきに」
そう、柔らかに言った。
その笑みに、フリムは警戒心を溶かされてしまい……手を伸ばし、カードを受け取る。
得体の知れない、謎の店主。
魔族が宿るという奇妙な武器。
しかし、その強靭さと能力は確かなもので……上手く使えば、自分にぴったりかもしれなくて。
フリムは、スタンプカードをしっかり手にすると、
「……はい。また来ます」
少しの期待を滲ませながら、頷いた。
「ところで……このスタンプカード、ぜんぶ貯めると何があるんですか?」
「一回の貸し出しでスタンプ一つ。五十個貯めたら……」
「貯めたら……?」
「この…………超激レア・コウテツオオカブトのキラキラカードをやる」
「うわっ、いらなッ!」
やっぱり、魔族が宿っているとか、ウソかもしれない。
胡散臭い店主の笑みを見つめ、フリムは「はぁ」と、ため息をつくのだった。





