採掘依頼の受注
「──たぁああっ!」
林の中に、フリムの声がこだまする。
閃く剣戟。
フリムが振るった鋭い一太刀により、オークの胴体が分断され──
醜い呻き声と共に、塵となって消えた。
オークが手にしていた短剣と、牙だけが地面に落ちる。
それを確かめてから、フリムは……握っている剣を見た。
翼のような形の鍔と銀色の刃が美しい、見事な長剣──なのだが。
刀身には竜巻のような風がシュルシュルと纏い、フリムの髪を揺らしている。
これを握っていると……何故か動きが一.五倍ほど速くなる。
言わずもがな、リューマの貸し武器屋で借りた剣だ。
この長剣のおかげで、フリムは六日間で十件以上の討伐依頼を達成した。
今しがた倒した『短剣のオーク』も、その内の一体だ。
(いや……頑丈だし、切れ味も抜群だし、武器としてありがたさしかないんだけど……動きが速くなるって何⁈)
散々使っておきながら、フリムはぞっとする。
そして、思い出す。リューマに言われた言葉を……
『俺が貸し出す武器の中には、魔族の精神が入っている。つまりこの武器そのものが魔族の身体……だから傷付いたそばから修復するし、滅多なことじゃ壊れない』
……つまり、刃を取り巻く風も、動きの加速も、この武器に宿る魔族の能力。
そう考えると、身震いがした。
だからきっと、『七日以内に返さないと死ぬ』のだ。
武器の中の魔族に取り殺されるから。
なんて恐ろしい……早いところ返却しよう。
フリムは戦利品である短剣と牙を拾い、急いでラトゥリアの街へと戻った。
そして、ギルドで精算し、報酬をゲット。
そのまま『アルヘナポルク』の食堂へ行き、大量の料理を注文し……
ぺろりと食べ終えたところで、
「──まっ、この武器のおかげでお腹いっぱい食べられるし、なんでもいっか♪」
腹が満たされた瞬間、武器の怖さなど完全に忘れてしまうのだった。
「あんたは毎度毎度、本当によく食べるねぇ。作り甲斐があるよ」
空になった食器を片付けながら、宿の女将アゼリアが言う。
毎日のように昼食を食べに訪れているため、すっかり顔馴染みになっていた。
フリムは「えへへ~」と照れ笑いしてから、遠慮がちにアゼリアを見上げ、
「あのぉ……アゼリアさん? その……メニューの中に、カエルを使ったお料理なんて、あったりします……?」
「か、カエル?」
思いっきり顔を顰められ、フリムは慌てて手を振り、
「い、いえっ、なんでもないです! あ、あはは……」
と、笑って誤魔化した。
──とにかく。
リューマが貸し出す武器は奇妙ではあるが、そのおかげで討伐依頼を達成できている。
二千ゼリンで七日間使えるから、その間に依頼をこなしまくれば、かなりコスパがいい。
こんなに財布の中身が潤っているのは、傭兵業を営んで以来初めてだった。
何せ今までは依頼の度に武器を壊し、報酬のほとんどを武器の買い替えに充てていたのだから。
(ちょっと怖いけど……これからもリューマさんのところで武器を貸してもらおう)
そう思いながら、フリムは『アルヘナポルク』を後にし、すぐ近くにあるギルドのテントを潜る。
そして、次なる依頼を受けるべく、カウンターに声をかけた。
「すみません。新しく入った依頼は何かありますか?」
すると、ギルドの受付嬢ルルが、愛想のいい笑みを浮かべて依頼書の束を捲った。
「フリムさん、いつもありがとうございます。そうですね……モンスターの討伐依頼は、現在ゼロ件です」
「えっ、ゼロ?」
「はい。というのも、ここ数日でフリムさんがかなりの依頼をこなしてくださったので……先ほど精算した『短剣のオーク』の討伐で一旦落ち着いてしまったようです」
フリムは驚く。
依頼がないということは、それだけ街が平和になったということ。
例の武器ばかりを狙うモンスターの件も一段落し、住民としては喜ばしい限りだが……
傭兵としては、依頼がなくなるのは死活問題である。
「何か……モンスターの討伐以外に、割のいい依頼はありませんか⁈」
このままでは元の極貧生活に逆戻りだ。
フリムはカウンターにしがみ付くように懇願する。
ルルは「えぇと……」と依頼書を捲り──ある一枚に目を留めた。
「でしたら、こちらはいかがでしょう? 放棄されたフリズモス神殿での採掘依頼です」
「神殿での、採掘依頼?」
差し出された依頼書をフリムが覗き込む。
同時に、ルルが説明する。
「フリズモス神殿は、北西にある歴史的建造物です。かつては聖エレミア教会の一大拠点でしたが、二百年前に魔王軍に占拠され……現在ではモンスターが蔓延るダンジョンと化しています」
その噂は、フリムも聞いたことがあった。
希少な魔導書や、歴史的価値のある聖遺物が残されている可能性が高く、傭兵だけでなく冒険者や盗賊までもがこぞって攻略を目指しているのだとか。
しかしながら、無尽蔵に湧くモンスターと、至る所に仕掛けられた厄介な魔法トラップのせいで、その最奥には誰も到達できていないのだそうだ。
「でも、この依頼は神殿の内部調査じゃなく、『採掘依頼』なんですね?」
「はい。依頼内容は、『魔劫結晶』の採掘──特殊な鉱石で、フリズモス神殿内部で多く見られるそうです」
『魔劫結晶』……聞いたことのない鉱石だ。
依頼主を見てみると、『魔導士ミレイユ』と書かれていた。
もしかすると、魔導士の間では有名な研究対象なのかもしれない。
報酬額は、持ち帰った結晶の重さによって変わるようだ。
両手いっぱいに抱えて持ち帰れば、三万ゼリンほどもらえそうである。
さいわい、硬いものを砕くのは得意だし、重い石をたくさん持ち帰れる腕力もある。
フリムにうってつけの依頼と言えよう。
断る理由は、ない。
フリムは、その目にヤル気を漲らせ、
「わたし、この依頼、引き受けます!」
ルルに向け、高らかに言った。





