フリズモス神殿
「──それで……リューマさんのお店って、ピッケルとかもあったりします?」
ギルドを出たその足で、フリムは『貸し武器屋リューちゃん』へ急行した。
借りていた『動きが一.五倍ほど速くなる長剣』を返却するついでに、丈夫な採掘道具を借りられないか尋ねてみたのだ。
リューマはスタンプカードに判を押しながら、今日も今日とて気怠げに答える。
「あるっちゃあるけど……今回はどんな依頼を受けてきたんだ?」
「『魔劫結晶』っていう鉱石の採掘依頼です。フリズモス神殿の中にたくさんあるらしくて」
それを聞いた瞬間、リューマはぴくっと、僅かに反応し……
「ふぅん……なら、話は早い」
言いながら、空の鞘に手を伸ばし……光と共に、一振りの武器を抜き放った。
毎度タネのわからない手品ではあるが、今回はその仕組みよりも、顕現したものの方にフリムの疑問が向いた。
てっきりピッケルを取り出すのかと思えば、リューマの手に握られていたのは……
「さ……湾刀?」
「そうだ。今回はこいつを持っていってほしい」
差し出されたそれを、フリムは意外に思いながら受け取る。
刀身の反った、片刃の剣……軍の騎兵がよく用いるようなサーベルだ。
当然、鉱石の採掘には向いていない。
それなのに何故、これを貸し出すのか……
という疑問を視線から感じたのか、リューマは胡坐をかきながらフリムを見上げ、
「確かに採掘には向かないが……そいつを使うと、めちゃくちゃいいことがある」
「いいこと? って、何ですか?」
「そいつはな……『魔劫結晶』の在り処を、教えてくれるんだよ」
………………いやいやいや。
「さすがにそんな都合のいい武器、あるわけ……」
「これが本当なんだなぁ。悪いこた言わねぇから、持っていってみろよ」
「えぇ……?」
「結晶の採掘が目的とはいえ、神殿内にはモンスターもいるんだろ? それがあれば結晶の在り処がわかる上に戦闘にも対応もできる。しかも、知っての通り頑丈だから、ピッケルみたいに使ったって問題はない。一石三鳥だと思わないか?」
それは…………言われてみれば、確かにそうかも。
「さらに言えば、軽くてかさ張らない。腰に差せば両手が空くから、結晶をたっぷり抱えて持ち帰れるぜ? ほら、一石四鳥になった」
「借ります!」
即決。
リューマの弁舌にまんまと言いくるめられ、フリムはしゅばっ! と手を上げた。
その真っ直ぐな瞳を、リューマはしたり顔で見つめる。
「まいどあり。んじゃ、いつもの契約書な」
サインをし、二千ゼリンを支払い、契約成立。
フリムはサーベルを腰に差すと、
「ありがとうございます、リューマさん! それじゃあ、いってきます!」
元気に手を振って、フリズモス神殿へと旅立っていった。
それに、リューマが「気をつけてな~」と手を振り返していると……
「あのコ……チョロすぎて、いつかこっぴどい詐欺に遭わないか心配ね。リューちゃん?」
今日も今日とて、虫カードの売り子をしているリスタが、大人びた口調で言った。
リューマは、首の後ろをぽりぽりと搔きながら、
「まぁ……詐欺だと気付かないまま、ゴリ押しで乗り切りそうな気もする」
フリムに対する所感を、無気力に述べるのだった。
◇◆◇
──ラトゥリアの街から馬車に乗り、フリムは北西に位置するフリズモス神殿へと辿り着いた。
森の中に聳える、四角い白亜の建造物。
石を積み上げた壁に、幾何学模様が彫られた柱。
神殿と呼ぶに相応しい、旧時代を感じさせる造りだ。
(ここがダンジョンと化した神殿……この森は、魔王城のあるタシナの森と繋がっているんだ)
フリムは東の方角を見つめる。
魔王城とそう離れていないため、この神殿は魔王軍に奪われたのだろう。
そして、魔王討伐後、モンスターが蔓延る迷宮と化した。
(モンスターは最悪倒せるからいいとして……魔法のトラップって、一体どんなのが仕掛けられているんだろう?)
そう考えながら入り口に近づくと……薄暗い神殿の中から、バタバタという足音が聞こえてきた。
フリムは咄嗟に警戒する。
と、二人組の男が飛び出してきて、
「うわぁぁあああっ!」
「最悪だ! こんなところ二度と来るか!」
などと喚きながら、どこかへ走り去ってしまった。
恐らく、この神殿の最奥を攻略しようと立ち入った者なのだろうが……服がボロボロだったため、冒険者なのか盗賊なのかは見分けがつかなかった。
フリムは、震える。
きっと、恐ろしいモンスターに出くわしたか、厄介なトラップに引っ掛かり、逃げ帰ったのだ。
もしかすると、自分も……同じ目に遭うかもしれない。
(……ううん、わたしにはリューマさんに借りたこのサーベルがある。『魔劫結晶』の在り処に導いてくれるって言っていたし、きっと大丈夫だよね!)
そう自分に言い聞かせると、フリムは拳を突き上げ、
「『魔劫結晶』をいっぱい持ち帰って、報酬をたっぷりもらうぞー!」
気合を新たに、神殿内へと足を踏み出した。





