おかわりっ!
フリムは、『二刀流のオーク』から回収した牙と折れた二本の剣を、ギルドのカウンターに提出した。
すると、受付嬢のルルが、討伐の依頼書と照合し……
「……確かに。『二刀流のオーク』討伐完了を承認いたします。依頼達成、おめでとうございます」
艶やかな茶髪をさらりと揺らしながら、微笑んだ。
そのままルルは、依頼書に『完了』のスタンプをばんっと押す。
「こちらの牙はお持ち帰りいただくこともできますが、ギルドで買い取り、討伐報酬と合わせて精算することも可能です。いかがいたしますか?」
「清算で!」
「かしこまりました。では、合わせて二万二千ゼリンのお支払いです。こちらに受け取りのサインを」
報酬受け取りのサインをし、ルルに礼を述べ、フリムはギルドのテントを出た。
そして、手にした二万二千ゼリンを見つめる。
……やった。久しぶりに、討伐依頼を成功させた。
それもこれも、リューマに借りたこのウォーハンマーのおかげ。
フリムは、報酬を大事に財布へしまうと、
「リューマさぁぁああんっ!」
すぐそこにある『貸し武器屋リューちゃん』に直行した。
「なんなんですか、この武器っ! わたしの全力を受け止めるどころか、めちゃくちゃすごい力を発揮して……って⁈」
と、武器についての説明を求めようとしたのだが……
リューマの店は、十歳前後の少年たちに取り囲まれ、異様な雰囲気を醸し出していた。
「はいはーい! 超かっこいい虫カードを買いたい人は並んでくださーい!」
しかも、リューマの隣に一人、販売員が増えている。
二つに結った茶髪に翠色の瞳を持つ、愛らしい少女。歳は七歳くらいだろうか。
わらわらと群がる少年たちを誘導するよう、威勢のいい声を上げている。
「これは……一体、どういう……」
「おう、あんたか。おかえり。どうだった?」
フリムに気付き、ゆるっとした口調で尋ねるリューマ。
フリムは、顔をやや引き攣らせて、
「おかげさまで、依頼を達成することができました」
「ほー。そりゃあよかったな」
「それより……この状況は何なんですか? 何故、貸し武器屋に男児たちが……?」
「言っただろ? 俺が描いた虫の絵、結構売れるんだよ。ご覧の通り大盛況だ」
「そちらの可愛らしいお嬢さんは……?」
「こいつはリスタ。ここの宿屋の孫娘だ。売り子をやりたいっていうからやらせてる」
敷き布の上にだらっと座りながらリューマが答えると、売り子の少女──リスタがこちらを向き、
「リューちゃん。これ、値段設定考え直した方がいいよ。こっちのミズタマカミキリとコウテツオオカブトが同じ百ゼリンだなんてもったいないもん。虫のレア度に合わせて、二倍から三倍の値段にしない?」
などと、純真そうな見た目にそぐわない商魂を覗かせる。
フリムが目を点にしていると、リスタも彼女に気付き、
「あ、もしかしてリューちゃんのお客さん? よかったらウチの宿を利用して! これ、割引券!」
と、色の付いた紙切れを差し出した。
フリムは慌てて手を振り、
「ごめんね。わたし、この街に住んでいるから、宿に泊まる必要はないんだ」
「なら、こっちの割引券! 宿泊しなくても一階の食堂で食事ができるのよ! リューちゃんのお客さんなら、さらにおまけしてあげるから!」
と、別の色の券を差し出してくる。
さすが商売人の子。客の動線を引くことに一切のためらいと隙がない。
この街に住んでだいぶ経つが、宿屋『アルヘナポルク』で食事ができることは知らなかった。
ちょうどお腹もペコペコだし……この割引券を使わせてもらうとしよう。
「ありがとう。早速行ってくるね!」
「えへへ。まいどあり~」
フリムは割引券を受け取ると、すぐ横にある玄関から『アルヘナポルク』へと入った。
──受付カウンターにいた白髪の老婦に「宿泊ではなく食事のみ」であることを告げると、奥にある食堂へ案内された。
席に座り、メニューを開く。
主な客層が傭兵であるためか、ボリューミーでスタミナいっぱいの料理が数多く揃っていた。
限界を超えた空きっ腹が「ぐるきゅぅう」と悲鳴を上げる。
フリムはしゅばっと手を上げ、注文する。
「すみません! ここからここまで、ぜんぶください! パン大盛りで!!」
メニューを指すフリムに、オーダーを取りに来た白髪の女性が、ぎょっとした顔をする。
「ぜんぶって、かなりの量になるけど……後からお連れさまが来るのかい?」
「いいえ、わたし一人です! あ、あとこの割引券、使えますか?」
「ああ。あんた、リューマのところで案内されたのか。ウチの孫娘、なかなか商売上手だろ?」
割引券を見て、ニヤリとする女性。
『孫娘』ということは、この女性がリスタの祖母であり、この宿の主のようだ。
「えへへ。ちょうどお腹が空いていたので、まんまと誘導されてしまいました」
「あっはは、そりゃあいい。あたしゃこの宿の女将でアゼリアってんだ。お望み通り美味いメシをたらふく食わしてやるから、気に入ったら今後もひいきにしとくれよ?」
そう言ってウィンクをすると、カウンターの向こうへと消えて行った。
リスタ同様、商売上手なようだが、面倒見のよさそうな人だった。
(口ぶりからして、リューマさんと親しいみたいだったけど……最近まであの場所に『貸し武器屋』なんてなかったんだよね。どういう関係なんだろう?)
などと考えている内に、アゼリアが料理を運んできた。
「おまちどう。ウーヴァ牛の岩塩ステーキに、グルーニ豚のバターソテー。エラフィ鹿のブラウンシチューに、フリフラ鳥の丸焼き。それに、大盛りのパンと……こいつはサービスのフルーツだ」
湯気を上げながら、ずらりと並ぶ大皿たち。
フリムは目を輝かせ、よだれを垂らす。
「わぁ……おいしそう! いっただっきまーす!!」
まずはシチューから。ちぎったパンを浸し、頬張る。
すると、
「……んんんっ! おいひいっ!」
続いて、グルーニ豚のバターソテー。
ナイフで切り、バターソースを絡めていただく。これも美味。
次に、フリフラ鳥の丸焼き。
皮はパリッと香ばしく、肉は柔らかくてジューシー。
最後に、ウーヴァ牛の岩塩ステーキ。
絶妙な焼き加減と岩塩の塩味が、肉の旨味を最大限に引き出している。文句なしに美味い。
「ふぁあ……し、しあわせぇ……っ」
フリムは涙を浮かべる。
ここ最近はずっと金欠だったため、思う存分食べられるのは久しぶりだった。
しかも、どれも驚くほどに美味い。値段も良心的。
こんな店があるのなら、もっと早くに知りたかった。
それもこれも、リューマに借りたこのウォーハンマーのおかげだ。
異常なまでに頑丈で、異様な力を発揮する奇妙な武器ではあるが……これを借りたからこそ『二刀流のオーク』を討伐できたし、その報酬でこんなに美味しいご飯にもありつけた。
(こんな丈夫な武器、見たことがない……他の武器も、わたしの馬鹿力を受け止めてくれたりするのかな?)
フリムは、壁に立てかけたウォーハンマーを見る。
本命の『鎖鎌のトロール』は未だ逃がしたまま。
腹ごしらえをしたら、もう一度リューマの店に行き、相談してみよう。
……と、その前に、
「すみません、アゼリアさん! この四品、すべておかわりお願いします!」
あっという間に空になった皿を前に、フリムは笑顔で手を上げた。





