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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第1話

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地を震わすハンマー



 フリムはウォーハンマーを構え、駆け出した。

 同時に、オークも向かってくる。


 左右の腕を素早く振るう二連撃。

 それをフリムはハンマーの頭部で冷静に受け止める。


 続けて、オークが右の剣で突きを放ってくるが、フリムはギリギリまで引き付け、躱(かわ)す。

 そしてウォーハンマーを振りかぶり、オーク目がけてスイングした。

 

 もちろん、全力は出さない。柄(え)を折ってしまいそうで怖いからだ。

 そのため、充分な速度が出ず、オークは後退してそれを避けた。


 直撃はしなかったものの、ハンマーの先の槍状になった部分がオークの腕を掠めた。

 皮膚から紫色の血液を滴らせる。

 しかし……その傷は、すぐに塞がった。


 魔族──もといモンスターは、精神生命体だ。

 肉体を持ってはいるが、それはあくまで容(い)れ物。

 本体は精神なので、この程度の傷はすぐに回復されてしまう。


 ならば、傭兵たちはどのようにモンスターを討伐しているのか。

 それは、人間が死ぬレベルの致命傷を負わせることで、肉体を破壊しているのだ。


 首を刎(は)ねる。

 頭や心臓を潰す。

 あるいは、多量に出血させる。


 回復に膨大なエネルギーを費やす損傷を与えれば、モンスターは肉体を保てなくなり、塵となる。

 これが、フリムたちの目指す『討伐』だ。


 容(い)れ物が滅んでも本体である精神は健在なので、厳密には不可視の存在になるだけ。

 数十年経てば、やがて肉体を取り戻し、復活する。

 それでも、復活するまでの間は安寧が保たれる。

 モンスターが世に蔓延って二百年、人類はそうして討伐を繰り返してきた。

 

(やっぱり、もっと速さを出さなきゃ避けられる……でも、柄(え)を折るのが怖いし……!)


 フリムの脳裏に、リューマと交わした契約が蘇る。


『契約締結日を含む七日以内に必ず返却すること。

 守らなければ殺す。あと、罰金五百万ゼリン。』


 七日以内に返却できたとしても、折れた状態で返せば罰金を求められることは必至だ。

 あの人、なんだかお金にがめつそうだったし。


 とにかく、剣戟(けんげき)を防ぎながら、隙を見て攻撃するしかない。

 フリムは再びウォーハンマーを構え直す。

 オークも姿勢を低くし、二本の剣を構え……「ブモォオオッ!」と鳴きながら駆けてきた。


(きっとまた、右と左の順で二連撃がくる。その後の僅かな隙で攻撃を叩き込めば……)


 ……と、攻撃に備えていたのだが。


 ちょうどその時。

 フリムの目の前に、一匹の毛虫が糸を伸ばし、上から「ぷらーん」とぶら下がった。

 

 目の前で揺れる、うねうねした身体。

 全身をびっしり覆う、黒い毛。

 

 フリムは……毛虫が、大の苦手であった。


「…………い」


 脊椎反射的な速さで、フリムはウォーハンマーを思いっきり振り上げ──



「いやぁぁぁあああああああああっ!!」



 ──全力で、振り下ろした。


 そこに、運よく──オークにとっては運悪く──オークが迫っており、繰り出していた二本の剣ごと、叩き潰した。


 惜しみのないフルスイング。

 オークの頭蓋骨をかち割る感触に手首が震え、フリムは我に返る。


(や……やっちゃった……! こんな力を込めたら、絶対に柄(え)が折れて……!)


 ……と、思ったのだが。


 ウォーハンマーは折れるどころかフリムの手に吸い付いたまま……光を発した。


 それに驚いたのも束の間。

 振り下ろされたハンマーの頭部がオークを地面に叩き付けるのと同時に……


 ──ボゴォオオッ!!


 足元に、巨大なクレーターが生まれた。

 

 それだけではない。

 周辺の地面が波打つように揺れ、あちこちに亀裂が走り……すぐ側にある猟師小屋が倒壊した。


 まるで、地震。

 フリムは反動で持ち上がった足を着地させ、その余震を感じ……

 ビリビリと痺れる手でハンマーを上げると、潰されたオークがクレーターの中心で沈黙していた。


 そのまま、オークは──黒い塵となって霧散した。

 残されたのは折れた二本の剣と、鋭い牙。


 モンスターは、牙や角などの固い部分を残して消える。

 この素材をギルドに提出することで、討伐が証明されるのだ。


「…………」


 フリムは、言葉を失う。


 全力を出したにも関わらず、このハンマーは壊れなかった。

 それどころか、地面を陥没させ、地震を起こし、猟師小屋まで倒壊させた。


 これは、フリムの怪力によるものなのか。

 それとも……この武器が発揮した力なのか。


 いずれにせよ、そこいらの武器とは比べ物にならないほどに頑強だ。

 こんなすごい武器を、たった二千ゼリンで貸し出しているなんて……


(リューマさんて……一体、何者?)


 ……その時。フリムの足元を、先ほどの毛虫がにょこにょこと通過した。

 咄嗟に片足を上げながら、フリムは思う。


 とりあえず、撤退しよう。

 戦闘の気配を察知し、他のモンスターが集まってくるかもしれない。


 フリムはオークの素材を回収すると、ウォーハンマーを一度見上げ……しっかりと背負い、タシナの森を後にした。



 

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