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【電子書籍化】元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業します!  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第1話

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二刀流のオーク



 ここラトゥリアの街は、二百年前、〈勇者〉と〈魔王〉の戦いの舞台となった地だ。

 街のはずれにあるタシナの森の奥には、魔王が当時の領主から奪い、拠点にした城──『魔王城』が今も残されている。


 現代においてモンスターと呼ばれるものたちは、かつて魔王に忠誠を誓っていた魔族たちの成れの果て。

 だから、魔王軍の根城であったタシナの森にはモンスターが多く出没するのだが……

 近頃、この森のモンスターたちが、武器商人の馬車を襲撃する事件が相次いでいた。


 当初、ギルドは「武器商人ばかりが狙われたのは偶然だ」と考えていた。

 何故なら、モンスターには知性がないから。


 魔族だった頃の野心と狡猾さを失い、唯一残された闘争本能だけを頼りに彷徨う哀れな存在。

 それが、モンスター。

 特定の人間ばかりを襲うような知能など、持ち合わせてはいないのだ。


 しかし、偶然と呼ぶにはあまりにも被害件数が多い。

 加えて、モンスターたちは商人だけでなく、討伐に訪れた傭兵からも武器を奪うようになっていた。


 明らかに、人間が持つ『武器』を狙っている。

 その目的は、何なのか。

 モンスターたちは、かつての魔族のような知性を取り戻しつつあるのか。


 その謎を調査するためにも、タシナの森に蔓延(はびこ)るモンスターを討伐する必要がある。

 フリムが取り逃がした『鎖鎌のトロール』も、今回新たに依頼を受けた『二刀流のオーク』も、人間の武器を狙う特異な個体の一部だった。




(──依頼内容によれば、出現場所はこの辺りのはず)

 

 ラトゥリアの街を離れ、フリムはリューマに借りたウォーハンマーを手に、タシナの森へとやってきた。

 馬車が行き交う街道から一歩立ち入るだけで、森の厳かな静寂に包まれる。

 

 依頼内容に記された場所は、廃墟となった猟師小屋の周辺だった。

 フリムはウォーハンマーの柄(え)をぎゅっと握り、表情を引き締め、森の中を進む。

 

(リューマさんに言われるがままにこのハンマーを借りちゃったけど……わたし、ハンマーの柄を折ったこともあるんだよね。今回も馬鹿力のせいで折っちゃわないか心配……)


 しかし、今はこれ以外に得物(えもの)がない。

『二刀流のオーク』を倒して報酬を得なければ武器も買えないし……空腹も満たされない。


 フリムの腹が、「ぐるきゅぅう」と情けない悲鳴を上げる。

 とりあえず、壊さないよう慎重に扱いながら討伐しなくては。


(にしても……この森、何度来ても不気味だなぁ。二百年前からほとんど手つかずで、国も細部までは探索できていないって話だし)


 昼間とは思えない薄暗さの中、フリムはぶるりと身震いする。


 やがて、目指していた猟師小屋が見えてきた。

 その周囲だけ木々が伐採されているため、陽の光が差し込んでいる。

 今のところ、モンスターの姿は見当たらないが……


(……いや。小屋の向こうに、何かいる……!)


 ガサガサという、草をかき分ける微かな音。

 フリムはウォーハンマーを構え、気配を殺し、そっと近付いた。

 その表情が、いつもの気弱なものから、徐々に戦士の顔付きへと変わっていく。


 足音と呼吸を最大限に殺し、猟師小屋の向こうを覗くと……読み通り、人ならざる者がいた。

 トロールよりも一回り小さい──と言っても、フリムより頭二つ分は大きいが──豚のような顔が特徴の、オークだ。

 小屋の裏に座り込み、壁に生えたキノコを食べている。

 その背には、交差するように負(お)われた二本の長剣があった。


 ……間違いない。『二刀流のオーク』だ。

 食事に夢中で、こちらの気配には気付いていない。

 このまま背後から奇襲をかければ、討伐は容易いのかもしれないが……


(そういう卑怯なやり方は、できればしたくない)


 なら、どのように仕掛けるべきか。

 フリムが迷っていると……突然、頭上でカラスが「カァ!」と鳴いた。

 思わずビクッと震えるフリム。

 その反動で足元の小枝を踏んでしまい、「パキッ」と音が鳴った。

 

 オークの耳が反応する。

 そして、豚のような鼻先をこちらに向け……ばちっと、フリムと目を合わせた。


(わわっ、バレちゃった……! なら、仕方がないっ!)


 フリムは小屋の陰から飛び出すと、オークの正面に立ち、声を上げた。


「わたしの名はフリム! 傭兵ですが、無駄な殺生は好みません! そちらが危害を加えない限り、わたしも手を出すつもりはありません! どうしますか⁈」


 このセリフは、フリムにとってお決まりのものだった。


 魔族は、人間によく似た生き物だったという。

 言葉を話し、武器を用いた武術を極め、文化的な社会を形成する知的生物。

 二百年前は戦争になってしまったが、人間に似ているのなら、言葉でわかり合うこともできたはずだ。

 

 だからフリムは、その魔族の成れの果てであるモンスターにも声をかけ、敬意を示す。

 人間同様、話し合いで解決できるのなら、それが一番いいからだ。

 しかし、そのような誠意ある問いかけに対し、オークは……


「……ブオォォオオオッ!」


 知性のない獰猛(どうもう)な鳴き声で答えるのみだった。

 これもいつものこと。

 モンスターが理性的な返答をしてくれたことなど、一度たりともない。

 

 それどころか、オークは腕を交差し……背中に負った鞘から長剣を二本、抜き放った。

 フリムの目が、鋭く変わる。


「そうですか。なら……参りますっ!」



 

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