はじめてのレンタル
店主の男は、緩い口元をニッと吊り上げ笑う。
「まいどあり。んで、武器の希望は? 普段なに使ってんの?」
「長剣が多いですが、大剣を使っていたこともあります。双剣に斧、槍なんかもひと通り使えます」
「へぇ、すごいな。そういう流派の出身なのか?」
「いえ、もとは国の正規軍にいたのですが、ちょっといろいろあって……今はフリーの傭兵をやっています」
フリムは視線を泳がせ、汗を流す。
彼女は、十歳の頃から国の正規軍にいた。
そのため、剣や槍の正統な型は身に付いている。
しかし、当時もその怪力で武器を壊しまくり、モンスター討伐の現場で適当に拾った武器を使うこともままあった。
だからこそ、フリムはあらゆる武器を使いこなせるのだが……軍の武器や施設を度々壊し、モンスターより始末書と向き合う時間が増えたため、最終的にクビになったのだ。
「んじゃ、ひと通りなんでも使えるんだな。敵は?」
「へっ?」
「傭兵ってことは、ギルドで討伐依頼を請け負っているんだろ? 今回はどんなモンスターが相手なんだ?」
店主の赤い瞳が、スッと細められる。
その品定めするような視線に、フリムはドキッとしつつ、考える。
もちろん、剣を折られた『鎖鎌のトロール』にリベンジしたいが、とにかく今は資金が必要だ。
比較的難易度の低い依頼を先にこなし、新しく買う武器代の足しにしたい。
その前に、ご飯も食べたい。
たしか、ギルドの依頼の中に『二刀流のオーク』の討伐依頼があったはずだ。
トロールよりは相手にしやすい。まずはそちらを討伐して、報酬をもらうとしよう。
「二本の長剣を携えたオークです。最近、武器商人ばかりを狙うモンスターが増えていて……奴もその内の一体みたいです」
「ああ、そういやアゼリアがそんなことを言っていたな。モンスターが商人の馬車を次々に襲っているって」
店主はぶつぶつ言いながら、傍らに置いていた中身のない鞘を手に取る。
そして、剣を抜くような素振りをしたかと思うと……
次の瞬間、彼の手に、重厚なウォーハンマーが握られていた。
その名の通り、戦いに適した巨大なハンマーだ。
銀色に輝く頭の部分にはトゲトゲしい装飾が施され、見るからに重そうである。
フリムはぎょっとする。
何故、空っぽの鞘から武器が?
というより、鞘の形状からして、こんな巨大な武器が収まるはずがない。
一体、どうやって取り出したのか……
驚きのあまり口をぱくぱくさせるフリムに、店主はずいっとウォーハンマーを突き出し、
「その相手にはこいつが最適だ。けっこうデカいが、扱えるか?」
と、やはり緩い声音で言う。
それよりも、それをどうやって出したのか、手品のタネを知りたいところなのだが……
とりあえずフリムは、ずっしり重いその武器を受け取る。
もっとも、剛腕のフリムには大した重さには感じてないが。
「は、はい、いけます」
「よーし。こいつで剣戟を防ぎながら、隙を突いて殴れ。そうすりゃ一発だ」
一発、って……そんなにうまくいくだろうか?
確かに、握った限りではかなり丈夫そうだし、攻撃力も高いのだろうが……
などと考えている内に、店主がサッ、と機敏に動き、
「んじゃ、気が変わらねぇ内に契約といこう。内容を読んで、下にサインしてくれ」
契約書とペンを、差し出した。
と言っても、その内容は、『契約書』と呼べるのか怪しいくらいに簡素だった。
記されているは、たったの三行。
『借用した武器は目的に沿って使用し、転貸したりしないこと。
契約締結日を含む七日以内に必ず返却すること。
守らなければ殺す。あと、罰金五百万ゼリン。』
……その最後の一行に、フリムは戦慄する。
「あ、あはは……『殺す』っていうのは、さすがに誇張表現というか……冗談ですよね?」
「冗談なワケないだろ。契約書だぞ? 嘘があったら大問題だ」
「いやいやいや、『殺す』の二文字の方が大問題ですよ! っていうか、先に殺しちゃったら罰金払えなくないですか⁈」
「まぁ、七日を過ぎた時点で返さなければ、俺が手を下さずとも死ぬからな。たぶん」
「へっ……?」
「罰金は死んだ後に遺産からいただく。だから、この記載順で合ってんだよ」
耳の穴をほじりながら、かったるそうに答える店主。
フリムはわけがわからず、唖然とする。
(七日以上返却しなければ死ぬ武器って、どういうこと⁈ 持ち手に毒でも仕込まれてる⁈ はっ。まさか……呪われた武器だったりして……!)
などと脳内で狼狽えまくるが、店主が契約書をぺしぺしと叩き、
「んで、どーすんの? 借りるの? 借りないの?」
と、結論を催促するので……フリムは、諸々を天秤にかけた結果、
「………………借ります」
「なら、そこにサインしてくれ」
言われるがまま、契約書の下部にサインをするフリム。
大丈夫。ちゃんと七日以内に返せばいいだけ。
そう自らに言い聞かせ、手の震えをなんとか抑えた。
ふと、サイン欄の下に、貸し主の名が書かれていることに気付く。
『貸し武器屋リューちゃん代表 リューマ』
この無気力且つ物騒な店主の名は、リューマというらしい。
だから、店の名前が『リューちゃん』。今さらながら、酒場のような店名である。
「書けたな。んじゃ、契約成立だ。今日を含めた七日以内に必ず返せよ?」
「わ、わかりました。……ちなみに」
フリムは、胡坐をかくリューマの膝の上に置かれたカードを指さし、
「先ほど描かれていた、その絵は……一体、何ですか?」
リューマが何を描いていたのか気になり、聞いてみた。
リューマは、「ああ」とカードを見下ろし、
「虫の絵だ」
「む、虫の絵?」
「そ。別の街で商売してた時、暇つぶしに虫の絵をカードに描いて売ってみたら、ガキどもに意外と人気でな。この街でもやってみようと思って」
言いながら、掲げたその絵は……図鑑から切り取ったかのように細密であり、同時に芸術性を感じさせられる色彩で、美しく描かれていた。
「う……うまぁっ!」
「いちおう、『虫はかせ検定一級』と『色彩アート検定一級』の資格を持っているからな。せっかくなら、商売に生かさないと」
なんて、聞いたことのない資格を眠たげな口調で羅列するリューマ。
本当に、どこまでが冗談でどこからが本気なのかわからない男だ。
「そんなことより、早く討伐に行った方がいいぜ。返却期限は刻一刻と迫っているんだからな」
「はっ。そうだった!」
リューマに言われ、フリムはしゃきっと背筋を伸ばす。
そして、借り受けたウォーハンマーをしっかり手にし、
「では、お借りします! 七日以内にちゃんと返しにきますね!」
「おう。頑張れよ~」
リューマの適当な応援を背に、フリムは『二刀流のオーク』の討伐依頼を受注すべく、ギルドへと向かった。





