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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第1話

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はじめてのレンタル



 店主の男は、緩い口元をニッと吊り上げ笑う。


「まいどあり。んで、武器の希望は? 普段なに使ってんの?」

「長剣が多いですが、大剣を使っていたこともあります。双剣に斧、槍なんかもひと通り使えます」

「へぇ、すごいな。そういう流派の出身なのか?」

「いえ、もとは国の正規軍にいたのですが、ちょっといろいろあって……今はフリーの傭兵をやっています」


 フリムは視線を泳がせ、汗を流す。


 彼女は、十歳の頃から国の正規軍にいた。

 そのため、剣や槍の正統な型は身に付いている。


 しかし、当時もその怪力で武器を壊しまくり、モンスター討伐の現場で適当に拾った武器を使うこともままあった。

 だからこそ、フリムはあらゆる武器を使いこなせるのだが……軍の武器や施設を度々壊し、モンスターより始末書と向き合う時間が増えたため、最終的にクビになったのだ。


「んじゃ、ひと通りなんでも使えるんだな。敵は?」

「へっ?」

「傭兵ってことは、ギルドで討伐依頼を請け負っているんだろ? 今回はどんなモンスターが相手なんだ?」


 店主の赤い瞳が、スッと細められる。

 その品定めするような視線に、フリムはドキッとしつつ、考える。


 もちろん、剣を折られた『鎖鎌のトロール』にリベンジしたいが、とにかく今は資金が必要だ。

 比較的難易度の低い依頼を先にこなし、新しく買う武器代の足しにしたい。

 その前に、ご飯も食べたい。

 

 たしか、ギルドの依頼の中に『二刀流のオーク』の討伐依頼があったはずだ。

 トロールよりは相手にしやすい。まずはそちらを討伐して、報酬をもらうとしよう。


「二本の長剣を携えたオークです。最近、武器商人ばかりを狙うモンスターが増えていて……奴もその内の一体みたいです」

「ああ、そういやアゼリアがそんなことを言っていたな。モンスターが商人の馬車を次々に襲っているって」


 店主はぶつぶつ言いながら、傍らに置いていた中身のない鞘を手に取る。

 そして、剣を抜くような素振りをしたかと思うと……


 次の瞬間、彼の手に、重厚なウォーハンマーが握られていた。


 その名の通り、戦いに適した巨大なハンマーだ。

 銀色に輝く頭の部分にはトゲトゲしい装飾が施され、見るからに重そうである。

 

 フリムはぎょっとする。

 何故、空っぽの鞘から武器が?

 というより、鞘の形状からして、こんな巨大な武器が収まるはずがない。

 一体、どうやって取り出したのか……

 

 驚きのあまり口をぱくぱくさせるフリムに、店主はずいっとウォーハンマーを突き出し、


「その相手にはこいつが最適だ。けっこうデカいが、扱えるか?」


 と、やはり緩い声音で言う。

 それよりも、それをどうやって出したのか、手品のタネを知りたいところなのだが……

 

 とりあえずフリムは、ずっしり重いその武器を受け取る。

 もっとも、剛腕のフリムには大した重さには感じてないが。


「は、はい、いけます」

「よーし。こいつで剣戟(けんげき)を防ぎながら、隙を突いて殴れ。そうすりゃ一発だ」


 一発、って……そんなにうまくいくだろうか?

 確かに、握った限りではかなり丈夫そうだし、攻撃力も高いのだろうが……

 

 などと考えている内に、店主がサッ、と機敏に動き、


「んじゃ、気が変わらねぇ内に契約といこう。内容を読んで、下にサインしてくれ」


 契約書とペンを、差し出した。


 と言っても、その内容は、『契約書』と呼べるのか怪しいくらいに簡素だった。

 記されているは、たったの三行。



『借用した武器は目的に沿って使用し、転貸したりしないこと。

 契約締結日を含む七日以内に必ず返却すること。

 守らなければ殺す。あと、罰金五百万ゼリン。』



 ……その最後の一行に、フリムは戦慄する。


「あ、あはは……『殺す』っていうのは、さすがに誇張表現というか……冗談ですよね?」

「冗談なワケないだろ。契約書だぞ? 嘘があったら大問題だ」

「いやいやいや、『殺す』の二文字の方が大問題ですよ! っていうか、先に殺しちゃったら罰金払えなくないですか⁈」

「まぁ、七日を過ぎた時点で返さなければ、俺が手を下さずとも死ぬからな。たぶん」

「へっ……?」

「罰金は死んだ後に遺産からいただく。だから、この記載順で合ってんだよ」


 耳の穴をほじりながら、かったるそうに答える店主。

 フリムはわけがわからず、唖然とする。


(七日以上返却しなければ死ぬ武器って、どういうこと⁈ 持ち手に毒でも仕込まれてる⁈ はっ。まさか……呪われた武器だったりして……!)


 などと脳内で狼狽えまくるが、店主が契約書をぺしぺしと叩き、


「んで、どーすんの? 借りるの? 借りないの?」


 と、結論を催促するので……フリムは、諸々を天秤にかけた結果、


「………………借ります」

「なら、そこにサインしてくれ」


 言われるがまま、契約書の下部にサインをするフリム。


 大丈夫。ちゃんと七日以内に返せばいいだけ。

 そう自らに言い聞かせ、手の震えをなんとか抑えた。


 ふと、サイン欄の下に、貸し主の名が書かれていることに気付く。


『貸し武器屋リューちゃん代表 リューマ』


 この無気力且つ物騒な店主の名は、リューマというらしい。

 だから、店の名前が『リューちゃん』。今さらながら、酒場のような店名である。


「書けたな。んじゃ、契約成立だ。今日を含めた七日以内に必ず返せよ?」

「わ、わかりました。……ちなみに」


 フリムは、胡坐(あぐら)をかくリューマの膝の上に置かれたカードを指さし、


「先ほど描かれていた、その絵は……一体、何ですか?」


 リューマが何を描いていたのか気になり、聞いてみた。

 リューマは、「ああ」とカードを見下ろし、


「虫の絵だ」

「む、虫の絵?」

「そ。別の街で商売してた時、暇つぶしに虫の絵をカードに描いて売ってみたら、ガキどもに意外と人気でな。この街でもやってみようと思って」


 言いながら、掲げたその絵は……図鑑から切り取ったかのように細密であり、同時に芸術性を感じさせられる色彩で、美しく描かれていた。


「う……うまぁっ!」

「いちおう、『虫はかせ検定一級』と『色彩アート検定一級』の資格を持っているからな。せっかくなら、商売に生かさないと」


 なんて、聞いたことのない資格を眠たげな口調で羅列するリューマ。

 本当に、どこまでが冗談でどこからが本気なのかわからない男だ。


「そんなことより、早く討伐に行った方がいいぜ。返却期限は刻一刻と迫っているんだからな」

「はっ。そうだった!」


 リューマに言われ、フリムはしゃきっと背筋を伸ばす。

 そして、借り受けたウォーハンマーをしっかり手にし、


「では、お借りします! 七日以内にちゃんと返しにきますね!」

「おう。頑張れよ~」


 リューマの適当な応援を背に、フリムは『二刀流のオーク』の討伐依頼を受注すべく、ギルドへと向かった。



 

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