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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第7話

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覚醒



 リューマの腹と胸を突き刺し、背中へと貫通する硬い鋼鉄。

 その先端から、紫色の血が滴る。


(………………………………うそ)


 フリムの頭が、真っ白になる。

 リューマは口から血を噴き出しながら、ガクッと膝をついた。


「よもやここまで愚かだったとは……偶然生き残り、人間にすり寄ることでしか生きられなかったが故、思考まで人間に毒されたか」


 ゾギアは、リューマが背負う鞘に近付き、手を伸ばす。


「『蟒蛇神(アガースラ)の鞘』……万物を飲み込む強欲な器。その性質を利用して武器を持ち出していたのか。〝焔(ほのお)を纏いし剣(つるぎ)〟も、この中にあるはずだ」


 そうして、鞘の中を調べようとする。


「…………だめ」


 フリムは、半ば無意識に声を漏らし、



「リューマさんに…………触らないで‼︎」



 瞳を赤紫に光らせたかと思うと──


 ──バキィッ……‼︎


 手足を拘束する鋼鉄の枷(かせ)を、引き千切った。


「…………!」


 驚愕するゾギアだが、次の一瞬で、フリムが眼前に迫っていた。

 目にも留まらぬ速さで振り下ろされる大剣。

 その鋭利な一閃が、ゾギアの右腕を切断した。


「ぐっ……⁈」


 腕を押さえ、後退するゾギア。

 フリムはリューマを護るように、彼の前に立ち塞がった。


「貴様……あの拘束を、どうやって……⁈」

「解(と)いてください‼︎」


 ゾギアの問いかけを遮り、フリムは吠える。


「リューマさんを貫く槍の魔法、解(と)いてください! でないと、わたし……あなたを許しません‼︎」


 重心を落とし、大剣を構えるフリム。

 ゾギアは困惑しながらも、鼻で笑う。

 

「ふっ。誰が貴様のような下等生物に許しを請うか!」


 ゾギアが手をかざし、鉄球を放つ。


 フリムは逃げない。

 迫りくる数十の鉄の塊を前に、精神を研ぎ澄ませ……

 大剣を振るい、すべて斬り捨てた。


 あまりの速さに、音が置き去りになる。

 遅れてきた風圧を受け、ゾギアは目を見張る。


「ちっ……それもその武器の能力(ちから)か……⁈」


 今度は槍が数十本、顕現する。

 容赦なく飛来するそれらを、やはりフリムは大剣で斬り、叩き、弾いた。


 が、さらにもう二本、ゾギアが放つ。

 それはフリムの背後にいるリューマを狙ったもので……


「っ……!」


 フリムは咄嗟に大剣を伸ばし、一本を弾いた。

 しかしもう一本は防ぎ切れず、彼女の肩をザクッと斬り裂いた。


「フリム!」


 リューマが叫ぶ。

 が、フリムはなおも彼を護るように大剣を構えた。


「……やはり理解できない。貴様は何故、その男を庇う?」

 

 ゾギアが、真上に手を掲げる。

 すると……これまでとは比べ物にならないほどに巨大な鉄球が、頭上に出現した。


「その男は魔族……我々と同じ、人間どもの敵だ。拘束が解(と)けたのなら、そいつを置いて逃げるべきであろう?」


 太陽を遮り、暗い影を落とす黒い塊。

 ミレイユとユーリスの顔が、絶望に染まる。

 

「……十秒だけ猶予をやる。その男を渡せ。そうすれば、貴様らが逃げ帰るのを許してやろう。もし、渡さないというのなら……貴様らは全員、この黒鉄(くろがね)の下敷きだ」


 ゾギアが、愉悦の声で選択を迫る。


 いくらこの大剣が鋭利で頑丈でも、この大きさの鉄球を斬ることはできない。

 落下すれば……死は免(まぬか)れない。

 それでも、


「逃げるわけがないでしょう⁈」


 フリムは、迷わずに答える。


「リューマさんはリューマさんです! 魔族だとか人間だとか関係ない! 魔族にだっていい人はいるし、人間にだって悪い人はたくさんいる! わたしはそのことを……痛いほどに知っている!」


 ──刹那。

 フリムの周りを、何かが漂い始める。


 それは、熱源。

 蛍のような光を帯びる、赤い火の粉。


「魔族だから、人間だからと決めつけるのは間違っています! 許し合わなければ、認め合わなければ、争いは永久になくならない……だから!」


 ──ボゥッ!


 大剣に、焔(ほのお)が灯る。

 ゆらゆらと陽炎(かげろう)を漂わせながら、眩(まばゆ)く燃える。


「リューマさんを助け、ミレイユさんとユーリスさんを解放するというのなら、わたしはあなたを許します! さぁ……どうしますか⁈」


 燦然(さんぜん)と輝く、焔(ほのお)の大剣。

 その姿はまさに、勇者の伝説にある〝焔(ほのお)を纏いし剣(つるぎ)〟で……


「貴様……その剣は……!」


 戦慄するゾギアの瞳にも焔(ほのお)が映る。

 それを見つめながら、フリムは……大剣に宿る魔族の精神(おもい)を感じていた。



『──我が名は「終焔神(ロキ)」……崇高なる戦士よ、我が力、ここに貸そう』



 終焔神(ロキ)……これは、『終焔神(ロキ)の大剣』。


(ありがとう、終焔神(ロキ)さん。リューマさんを護るために、その力、お借りします!)


 フリムは、大剣を掲げる。

 鉄球により差した影が、紅蓮(ぐれん)に照らされる。


「人間と魔族はわかり合える……これがその証拠です! ゾギアさん、わたしはあなたともわかり合いたい‼︎」


 もう一度、心の底から呼びかける。

 だが……ゾギアは、歯を軋ませ、


「人間のことなど……わかりたくもない!」


 吐き捨てた。

 そのまま両手を上げ、


「時間だ。選択を誤ったこと、あの世で後悔するがいい‼︎」


 その手を、振り下ろした。


 連動するように、鉄球が落ちてくる。

 ミレイユが「フリム!」と叫び、ユーリスが汗を垂らす。


 確実に近付く死の匂い。

 その中において、リューマは、


「よっ、と」


 フリムの身体を、抱き上げた。

 そうして高く跳躍すると、


「任せたぜ、フリム!」


 彼女を、空中へと放り投げた。


 鉄球に迫りながら、フリムは大剣を振りかぶる。

 そして──


「たぁぁあああああああああああああっ‼︎」


 ゴウッ! と空気を唸らせながら──

 巨大な鉄球を────斬った。



 焔(ほのお)が宙を裂き、閃(ひらめ)く。

 剣身に纏う灼熱が、冷たい黒鉄(くろがね)をジュワッと溶かし……


 ──ズパンッ‼︎


 二つに、分断した。


 崩れるように溶解する鉄球。

 落下の軌道は、ミレイユやユーリスから外れた。


 そのことを確認し、フリムは再度大剣を構え……

 こちらを見上げるゾギア目がけて、下降する。


 それに気付いたゾギアが、全身を鋼鉄の鎧で覆った。

 硬度を極限にまで上げた、鉄壁のアーマー。


 だが、フリムは止まらない。

『終焔神(ロキ)の大剣』の力を、信じているから。



「これで──終わりです‼︎」



 フリムは腕を突き出し……


 ──ザンッ……‼︎


 ゾギアの胸を、真っ直ぐに貫いた。


「がぁッ……‼︎」


 ゾギアの口から、血と焔(ほのお)が噴き出す。

 大剣は鎧を貫通し、心臓を穿(うが)ち……その脈動すらも焼き切った。


「ぐっ…………新たなる、王……‼︎」


 ゾギアは、虚空に手を伸ばすと……

 その言葉を最後に、真っ黒な塵となって……風に消えた。



 

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