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第7話

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勇者の聖剣



 部下の消失を目の当たりにし、ゾギアは顔を歪める。

 リューマはゾギアの剣を押し返し、一度距離を取った。


「な? 『傲慢』は命取りだろ? 人間ってのは、あんたが思うよりずっと利口で強いぜ」


 そう語る彼の後ろに、ミレイユ、ユーリス、フリムが集合する。

 ゾギアは、歯をギリッと噛み締める……が、すぐにそれを緩め、


「ふん……貴様の言うことも、一理ある」


 くんっ、と何かを手繰り寄せるように、手を振るった。

 すると、これまでの攻防で地面に落ちた鏃(やじり)や鉄の欠片が、カタカタと動き始め……

 フリム、ミレイユ、ユーリスの両手と両足に集まり、ガチッと拘束した。


「なっ……!」


 鋼鉄でできた、重い枷(かせ)。

 フリムが怪力で振り解(ほど)こうとしても、ビクともしない。


「『黒鉄(くろがね)の大尉(オルディン)』と呼ばれた私が、何の策もなしに鋼鉄をばら撒いていると思ったのなら、それこそ『傲(おご)り』だ。私はこの時を待っていた……貴様らがゲオルグを倒し、最も油断するその瞬間をな」


 そして……ゾギアは、かざした手のひらを、ぎゅっと握った。

 その動きに連動するように、フリムたちの手足を縛る鋼鉄がギリギリと絞まり始める。


「きゃあっ……」

「ぐっ……!」


 苦痛の声を漏らすミレイユとユーリス。その手から、長杖(スタッフ)と長剣が零れ落ちる。

 フリムだけは、痛みを堪えながら辛うじて大剣を握っていた。


「さて。交渉だ、リューマ。このままこいつらの手足を千切られたくなければ、〝鍵〟をよこせ」


 フリムは、はっと顔を上げる。

 そうか……ゾギアの目的は、自分たちを人質にすること。

 リューマはフリムたち人間を見捨てることができないと、これまでのやり取りでわかったから。


「駄目です、リューマさんっ! 勇者の〝聖剣〟が奪われたら、それを使って大勢の人が殺されるはずです!」


 必至に訴えるフリムに、リューマは答えない。

 その間にも枷(かせ)はどんどん収縮していく。

 

 ギシギシと軋む、フリムたちの骨。

 漏れる苦悶の声。


 それを耳にし、リューマは……


「……はぁ。わかったよ。あんたに〝鍵〟を渡す。だから、それ以上痛くするのはやめてやってくれ」

「リューマさん!」


 フリムが悲痛な声で叫ぶが、リューマは無視し、背負った鞘に手を伸ばす。

 そして──黄金の戦斧(せんぷ)を、引き抜いた。


 呼び名の通り、それは〝鍵〟の形をしていた。

 虹色の光を帯びながら、眩い輝きを放っている。


「ほらよ。これがお目当ての〝鍵〟──『黄金神(グルヴェイグ)の宝斧(ほうふ)』だ」


 リューマは躊躇(ちゅうちょ)なく、それをゾギアに渡す。

 ゾギアは〝鍵〟が本物であることを確認し、満足げに頷いた。


「……それでいい」


 同時に、フリムたちを絞め付ける枷(かせ)の収縮が止まった。

 が、未だ拘束はされたまま。

 あまりにあっさり〝鍵〟を明け渡したリューマに、ミレイユが声を荒らげる。


「馬鹿……そんなことをしたら、これまでの苦労が水の泡じゃない!」

「そうだぞ、リューマ! 〝聖剣〟は僕の物だと約束しただろう⁈」

「そんな約束した覚えはない」


 ユーリスの訴えをばっさり斬り捨て、リューマは背を向けたまま、


「だって……あんたらの腕が千切れたら、誰が俺の武器を借りてくれるんだよ?」


 顔だけをこちらに向け、困ったように笑った。

 その表情に、フリムは予感する。


(リューマさん、もしかして……何か考えがある?)


 〝鍵〟を手にしたゾギアは、魔王城を取り巻く結界へと歩み寄る。

 そして、〝鍵〟を結界の壁面に差し込み……捻った。


 パキパキと響く、卵の殻が割れるような音。

 やがて──


 ──パリィンッ……!


 灰色の結界が砕け、魔王城の封印は、完全に解かれた。


 露わになった廃城に、ゾギアがゆっくりと足を踏み入れる。


「二百年ぶりの古巣よ……すっかり朽ち果てているな」


 フリムたちが緊張の面持ちで見つめるが、リューマだけはなおも無気力な眼差しでその様を眺めていた。


「愚かなる魔王と人間の勇者が最後に戦ったのは……この場所であったはずだ」


 ゾギアは音もなく浮遊し、城の二階──正面にあるバルコニーへと降り立つ。

 そこに、一振りの長剣が付き立っているのが、フリムにも見て取れた。


 恐らくあれが、勇者ルドヴィグが遺(のこ)した〝焔(ほのお)を纏いし剣(つるぎ)〟。

 魔王すらも葬る、人類最強の剣だ。


「ふっ、これが勇者の〝聖剣〟か……人類の叡智を集結させ造り上げたであろう武器を、こんな場所に遺(のこ)すとは。人間とはつくづく理解し難い生き物だ」

 

 ゾギアは、一度リューマたちを見下ろす。

 そして、見せつけるようにして……その剣を、抜き放った。


「はは……! これさえ手に入れば、あのお方の覇道は確かなものに……‼︎」


 だが……そこで、ゾギアは絶句する。


 何故なら、〝聖剣〟の先が…………ばっきりと折れていたから。


 それどころか、その剣は〝聖剣〟と呼ぶにはあまりに平凡で……

 三流の傭兵が使っているような、ありふれた安物の剣にしか見えなかった。


「ば……馬鹿な。勇者の〝聖剣〟が、こんな粗末なもののはず……」


 ゾギアは剣を放り投げ、辺りを探す。


「どこだ……この城のどこかに、〝焔(ほのお)を纏いし剣(つるぎ)〟が……!」


 しかし、血眼(ちまなこ)になって探そうと、それらしき剣は見つからない。

 その様を、フリムは困惑しながら見上げた。


「くそっ……どういうことだ⁈」


 ゾギアはバルコニーから飛び降り、リューマの胸倉を掴む。


「まさか、それも貴様が持ち出したのか……⁈ よこせ! 今すぐに‼︎」

「落ち着けよ。勇者ルドヴィグが愛用していた剣なら、さっきあんたが抜いたアレで間違いないぜ?」

「ふざけるな! あんな三流品が勇者の剣なわけ……」

「本当だよ」


 リューマは、不敵に笑い、


「ルドヴィグは、現代(いま)でこそ『勇者』と呼ばれているが、元はただの傭兵だ。だから、あの安物の剣一本でここへ乗り込んできた。酔狂(すいきょう)なヤツだろ?」


 面白がるように、言った。

 ゾギアは、こめかみに血管を浮き上がらせ……

 怒りのままに、リューマを殴った。


「リューマさんっ‼︎」


 フリムが叫ぶ。

 リューマは、口の端から血を流しながらゆっくりと起き上がり、


「この城が封印されていたのは、ルドヴィグの〝聖剣〟を護るためじゃない。単純に、俺が『黄金神(グルヴェイグ)の宝斧(ほうふ)』ごと武器をすべて持ち出したからだ。〝鍵〟を持ち出せば、自動的に城に防護魔法が発動する……そういう風に魔王サマが作っていたからな」

「減らず口を……‼︎」


 ガッ! と、蹴り飛ばされるリューマ。

 フリムの鼓動が、バクバクと加速する。


(リューマさん、本当は強いのに、わたしたちが人質に取られているから抵抗できないんだ……!)


 倒れるリューマの胸倉を、ゾギアは再び掴み、


「ならば何故、魔王は倒された⁈ 私はこの目で確かに見たのだ! 勇者が振るう剣から焔(ほのお)が上がり、それにより魔王が倒されるのを……あのような武器は見たことがない。人類が生み出した究極の兵器に違いない!」

「ははっ。あんたって本当に……何にもわかっちゃいないんだな」


 リューマは、笑う。

 赤い瞳を、月のように細めて。


「魔王が死んだのは、武器が強かったからじゃない。勇者の精神が、魔王のそれを遥かに上回るくらいにデカく、高潔だったからだ」

「なっ……」

「俺たち魔族の死は、精神の死……相手に心の底から『負け』を感じた時、初めて精神(ほんたい)ごと消えてなくなる。あんたらが恐れるべきは、御大層な武器なんかじゃない。〝魔王すら上回る精神を持つ人間〟そのものだ。それがわからないあんたらには、世界征服なんて一生かけたってできやしねぇよ」


 真っ直ぐな、リューマの言葉。

 ゾギアは、憤りに身体を震わせ……


 ──ザンッ……‼︎


 顕現した二本の槍で、リューマの身体を貫いた。



 

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