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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第7話

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磁界神の劔



 魔族相手に遠慮はいらない。

 フリムは全身の筋肉を滾(たぎ)らせ、突進する。


「たぁっ!」


 ブォンッ、と唸る大剣。

 しかし、先ほどと同じく鉄の盾が出現し、フリムの剣戟(けんげき)を弾く。


 そのことは予想していた。

 フリムはすぐに手首を返し、別の角度から二発目を叩き込んだ。

 が、それも弾かれる。


 三発、四発、五発……人間離れした速さと威力で連続攻撃を繰り出す。

 それでも、

 

「……耳障りだ」


 すべて盾に弾かれた後、フリムの目の前に鉄球が出現した。

 剣を上段に構えているため、胴がガラ空きだ。

 向かいくる鉄球が、フリムの身体にあえなく直撃する……寸前で、


「よっと」


 リューマが大鎌を回し、鉄球をスパッと、真っ二つに斬った。


「リューマさ……!」


 礼を述べようとして、フリムは声を詰まらせる。

 リューマの頭上に、岩のような鉄の塊が顕現し、落下し始めていたから。


(危ないっ‼︎)


 思考が声になる前に、リューマが動く。

 大鎌を素早く取り回し、重く硬い鉄の塊を、スパスパッと軽やかに斬り刻んだ。


 その斬撃の余波により、頭上の樹々までもが切断される。

 細切れになった鉄と樹が、リューマたちの周りにバラバラと落ちてきた。


「『鼬月神(イヅナ)の大鎌』……使用者をも斬り刻む、〝斬れすぎる鎌〟か」


 リューマの大鎌を見つめ、ゾギアが言う。

 リューマは「へぇ」と笑って、


「あんたはあまり武器庫の武器を使っていなかったはずだが……こいつを知っているってことは、斬られた記憶でもあるのか?」

「いや、部下が使っていたのだ。村中の人間の首を狩り、一人残らず殺した後、斬るものがなくなり……最後には自らの首も、その鎌に斬られていた」


 言いながら、ゾギアは宙に手を躍らせる。

 すると、彼の目の前に、両刃の剣が現れた。

 鏡のような剣身を持つ、見るからに切れ味の良い剣。これも魔法で生み出したのだろう。


「この通り、私に『魔神器(ファルズボルグ)』は不要だ。むしろ、気難しい魔族の精神が宿る武器など邪魔でしかない。そのようなものを何故、貴様は持ち出した?」


 両刃の剣を手にし、ゾギアが問う。

 リューマは鼻を鳴らすと、大鎌を肩に担ぎ、


「『魔神器(ファルズボルグ)』──〈気高き武具の魔族〉たちは、崇高な精神を持つ使い手を求めている。だから、人間のいる街に連れ出してやっただけだ」

「……その『崇高な使い手』というのが、人間だと?」

「ああ。こうして人間たちに力を貸しているのが、何よりの証拠だ」


 リューマの視線が、ユーリスとミレイユに向く。

 二人は『磁界神(マグネス)の劔(つるぎ)』と『守護神(ゲニウス)の長杖(ながつえ)』の能力を余すことなく発揮し、ゲオルグと戦っていた。


「人間側も強力な武器を使えて大満足。この相互利益を商売にしない手はないだろ?」

「それが、貴様が『魔神器(ファルズボルグ)』と共に人間界へ留まる理由か?」

「そ」

「……理解できんな」


 ゾギアが剣を構える。

 そこへ、フリムがすかさず斬りかかり、動きを封じる。


「ふむ……人間にしては速いが、『魔神器(ファルズボルグ)』の能力を発揮できていないようだな?」


 気にしていることを指摘され、フリムは「ぐさっ!」と傷付く。


「言われちゃったじゃないですかリューマさんっ! ほんとにこの武器でいいんですか⁈」

「だいじょぶだ。たぶん」

「たぶん⁈」


 などと言い合っている隙に、ゾギアが剣を押し返す。

 そして横薙ぎの一太刀を浴びせてくるので、フリムは大剣で受け止め、後退した。


 続けてゾギアが、魔法で無数の鏃(やじり)を放つ。

 リューマが間に入り、大鎌を回転させて弾くが、そこにゾギアの斬撃が繰り出される。


 組み合うリューマを助けようと、フリムが大剣を振り下ろす。

 しかし、目の前に鉄の盾が現れ、あえなく防がれた。


 リューマがゾギアの剣を振り切るも、すぐに魔法攻撃を放たれる。

 それをフリムが大剣で防ぎ、裏からリューマが大鎌を振るうが……巨大な鉄塊が再び頭上に出現した。


 リューマの大鎌がそれを斬り裂いている隙に、ゾギアが接近。剣を突き出す。

 間一髪のところで、リューマの大鎌が剣の切っ先を受け止める。

 そのまま両者は、再び組み合った。


(剣による近接攻撃と、魔法による遠距離攻撃、そして防御……まるで隙がない……!)


 戦慄するフリムの前で、リューマの大鎌とゾギアの剣がギリギリと迫り合う。


「貴様の実力は認めているが、所詮はただの武器庫番……試し切りの練習相手であった貴様と、戦場で数多(あまた)の人間を葬った私とでは、積み上げた経験値が違う」


 ゾギアは、赤い瞳をスッと細める。


「今一度問おう。リューマ、我々と共に来ないか? 勇者の遺(のこ)した〝焔(ほのお)を纏いし剣(つるぎ)〟さえ手に入れば、人間など恐るるに足りん」


 その言葉をリューマは……「はっ」と笑い飛ばす。


「『武器は不要だ』と豪語しておきながら、勇者の剣を求めるとは。あんた、言ってることがめちゃくちゃだぜ? それに、その言い方……まるで人間を恐れているみたいだ」

「吐(ぬ)かせ。この私が人間どもを恐れるはずがない──見ろ」


 ゾギアの視線が、ゲオルグの方を向く。

 フリムもそちらを見遣ると……ユーリスが、苦悶の表情を浮かべていた。


『磁界神(マグネス)の劔(つるぎ)』を使い、ゲオルグを引き寄せ、素早い剣捌きで腕を斬り落とすユーリス。

 しかし、相手を引き寄せるということは、こちらの懐に飛び込ませるということ。

 ゲオルグは笑いながら、改造したバトルアックスでユーリスの腹を殴った。


「がはっ……!」


 呻きながらよろめくユーリス。

 ミレイユはゲオルグの前に防壁を展開し、ユーリスを護った。


「ユーリス! 大丈夫⁈」


 ミレイユが叫ぶも、ユーリスには応える余裕がない。

 恐らく同じような攻撃を何度も受けているのだろう。


「キシャシャッ。人間は脆くて不憫だナァ」


 斬り落とされた腕を拾い、繋ぎ合わせるゲオルグ。


「オレを殺(や)りたいなら心臓か脳を狙えって言ってるだロ? ま、それで肉体が朽ちても精神は死なないんだけどナ。お前らは一生かかってもオレたち魔族には勝てないってことダ!」


 響き渡るゲオルグの高笑い。

 それを聞き、ゾギアも勝ち誇った笑みを浮かべる。


「ゲオルグは元兵長……隊長ですらない兵卒だ。その程度の実力であっても、人間どもはこうも簡単に嬲(なぶ)られる。そんなか弱い生物を相手に、我々はどう恐怖すればいいのだ?」


 フリムはユーリスを案ずる。

 加勢に行きたいが、リューマ一人にゾギアの相手をさせるわけにもいかない。


(どうしよう……このままじゃユーリスさんが……!)


 だがそこで、リューマが落ち着いた声で言う。


「あんたら……二百年前から何も学んじゃいねぇな」

「……何?」

「己の強さを信じ、誇ることは間違いじゃねぇ。俺たち魔族は、そうした精神力が強さに繋がる。だが……」


 ニッ。と、リューマは口の端を吊り上げて、



「──『傲慢』。これを強さと履き違えるヤツは、残念ながら長生きできねぇよ」



 直後。

 ミレイユが、呪文を口にした。


「──赤き鋼鉄(メタレヴマ)!」


 呼び出したのは、鋼鉄の防壁。

 だが、それが顕現したのは……遥か上空だ。


「あァ? お前、何を……」


 ゲオルグが眉を顰(ひそ)めた刹那、ユーリスが『磁界神(マグネス)の劔(つるぎ)』を振るい、ゲオルグの身体を引き寄せた。

 しかしゲオルグは、馬鹿にしたように笑う。


「ハッ。一つ覚えの能なしガ! 磁石ごっこはもう飽き飽きなんだヨ!」


 そして、ゲオルグはバトルアックスを手放した。

 歪(いびつ)に改造された斧の頭部が、重々しく地面に突き刺さる。


「キシャシャッ! これでその磁石剣の能力は無意味になったナ! さぁ、ここからは魔法で嬲(なぶ)り殺してや……」


 ……という、得意げなセリフの途中で。

 ゲオルグの身体がグンッと、ユーリスに引き寄せられた。

 ゲオルグの表情に、焦燥が走る。


「なっ……斧は手放したのに、なゼ……⁈」

「気付いていなかったの?」


 くすっと、ミレイユが笑う。


「ユーリスがあなたの身体を切断する。それを、あなたが再び繋ぎ合わせる……その度に私は、あなたの断面から〈鋼鉄の精霊〉の気を流し込んでいたのよ?」

「はァ……⁈」


 つまり、バトルアックスを手放そうとも、『磁界神(マグネス)の劔(つるぎ)』の干渉を受けるということ。

 ゲオルグの身体そのものが、鋼鉄の性質を孕んでいるから。


「『守護神(ゲニウス)の長杖(ながつえ)』……その身に直接〈鋼鉄の精霊〉を纏わせることで、鎧のように防御力を向上させることもできるみたい。その性能を応用させてもらったの」


 引き攣るゲオルグの顔を、ユーリスが覗き込む。

 額同士が付きそうな距離にまで引き寄せたのち、ユーリスは爽やかに笑って、


「心臓か脳を狙えと言ったな! 忠告、感謝する!」

「な、何ヲ……!」

「では、その両方を潰すのはどうだろうか! 例えば……このような具合だ‼︎」


 そのまま、『磁界神(マグネス)の劔(つるぎ)』を振りかぶり……


「──反転‼︎」


 叫んだ。


 その命(めい)に従い、劔(つるぎ)の磁界が反転する。

 引き寄せられていたゲオルグの身体は、爆発的な反発の力を受け……

 文字通り、吹っ飛んだ。


 磁力に圧(お)され、身動きすら取れないまま、ゲオルグは上昇する。

 向かう先に待ち構えるのは……ミレイユが顕現した鋼鉄の防壁だ。


「クソッ……ゴミ虫ガァァアアッ‼︎」


 情けない叫び声を上げながら、ゲオルグの身体は……防壁に叩き付けられた。


 グチャッ! と潰れる肉体。

 脳も心臓もただの肉片と化し、紫色の体液の中で綯(な)い交ぜになっている。


 そうして、再生しないまま黒い塵となり……虚空へと消えていった。



 

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