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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第7話

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黒鉄の大尉



「うわわわわっ!」


 それが開戦の合図となった。

 フリムは転がるように攻撃を回避する。


「よくわからないけれど、あなたは味方ってことでいいのね⁈」


 ミレイユが魔法で防壁を展開しながらリューマに投げかける。


「決まってんだろ。俺はいつだって金ヅ……お客さまの味方だ」

「今『金ヅル』って言いかけましたよね⁈」

「そんなことより〝聖剣〟は僕が手にする! リューマ、〝鍵〟を僕にくれ!」

「ユーリスさんは黙っててください‼︎」「ユーリスは黙ってて‼︎」


 爽やかに鏃(やじり)を躱(かわ)すユーリスに、ぴしゃりとツッコむフリムとミレイユ。

 四人は同時に着地し、ゾギアとの距離を取った。


 刹那、ゾギアの首が、ずるっと滑る。

 まだ完全には接合していないらしい。

 ゾギアは不快そうに頭を押さえ、首を元の位置に戻した。


 その隙に、リューマは背負った鞘から武器を取り出す。

 ミレイユ用の長杖(スタッフ)と、ユーリス用の長剣だ。


「ほい、武器チェンジ。後で貸し出し費用きっちり請求するからな」

「はぁ⁈ なんで替えるのよ⁈」

「あいつを相手にするならこっちのが断然いい。黙って使え」

「ふむ。〝聖剣〟を手にするためだ、仕方がない!」


 新しく渡された長杖(スタッフ)と長剣を手にする二人。

 それを見て、フリムは自分を指さす。


「リューマさんっ。わたしにも最適な武器、何かありませんか?」

「いや、あんたはそのままそれを使え」

「え……」


 フリムは今一度、手にした大剣を見つめる。


 深紅(しんく)に縁取られた、漆黒の大剣。

 いつもリューマが使っていた大剣だが、未だその能力(ちから)は不明のまま。


 しかし、リューマが「使え」というのなら、それが最適なのだろう。

 フリムはぎゅっと握り直し、「わかりました」と答えた。


 そこで再び、ゾギアが手を掲げる。

 今度は拳大の鉄球がいくつも顕現し、豪速で飛んできた。

 が、フリムたちが避ける前に、ミレイユが魔法を発動する。


「──赤き鋼鉄(メタレヴマ)‼︎」


 鋼鉄の防壁が顕現し、鉄球を受け止めた。

 ガンガンと耳障りな衝突音を奏でながらも、防壁はしっかりと鉄球を防ぐ。

 

「なるほど……防御魔法を強化する長杖(スタッフ)なのね」

「『守護神(ゲニウス)の長杖(ながつえ)』。あんたには防御を頼みたい」


 ミレイユの言葉にリューマが返す。

 それを耳にしながら、フリムとユーリスは防壁の左右から素早く飛び出し、ゾギアに斬りかかった。


「たぁああっ!」

「はぁああっ!」


 気合が重なる。

 常人離れした速さだったが、振るった刃(やいば)はゾギアに届かなかった。

 何故なら、二人の目の前に鉄の盾が現れ、剣戟(けんげき)を防いだから。


(魔法の展開が速いっ……!)


 弾かれた衝撃により、フリムの手に痺れが走る。


 通常、魔導士が魔法を使うには、長い呪文の詠唱や魔法陣の用意が必要になる。

 その行程はロッドや魔道具で省略可能だが、それでも発動(はつどう)呪(しゅ)による〈精霊〉への呼びかけは欠かせない。

 これまでのミレイユのように。


 しかし、そのセオリーを無視するように、ゾギアは発動(はつどう)呪(しゅ)なしに魔法を展開している。

 恐らく、魔族が精霊と同じ精神生命体だからだ。

 人間にとって不可視の存在である精霊を、彼らはいとも簡単に感知し、操る。


 魔族……姿はほとんど同じなのに、人間とはまるで違う。

 考え方も、生き方も、性質も。

 けれど……


(リューマさんみたいな魔族だっている……ならば……!)


「わたしは……無用な争いは好みません!」


 フリムは胸に手を当て、ゾギアに言う。


「あなたが手を引くというのなら、わたしも手出しはしません! こちらは四人。多勢に無勢を強いるのは、わたしの信条に反します! こうして言葉が通じるのですから、話せばわかり合えるはずです!」


 和解を求める誠実な言葉。

 それに、ゾギアは一瞬、驚いたように眉を上げる。

 だが、


「多勢に無勢? はっ……誰に向かって口を利いている?」


 手を止めるどころか、再び、かざした。

 すると、地面に突き刺さっていた斧──先ほどゲオルグが落としたバトルアックスが変形し始めた。

 鈍色(にびいろ)の鉄が刃(やいば)を覆い、ハンマーのような武器へと改造される。


「虫ケラが何匹群れようと、私の脅威になどなり得ない。ゲオルグ」

「はイ!」


 調子を取り戻したのか、ゲオルグが颯爽と飛んでくる。

 そして、改造されたバトルアックスを地面から抜き、得意げに掲げた。


「キシャシャッ! さすがは『黒鉄(くろがね)の大尉(オルディン)』と呼ばれたゾギアさマ! 三流以下の『魔神器(ファルズボルグ)』が見事に大変身ダ!」

 

 黒鉄(くろがね)の大尉(オルディン)──その二つ名が示す通り、ゾギアは〈鋼鉄の精霊〉を使役する魔法に長(た)けているらしい。

 歪(いびつ)な姿に変えられたバトルアックスを目にし、フリムは胸を痛める。


「ひどい……その武器にだって、あなたたちと同じ魔族さんが宿っているはずなのに!」

「フンッ、何度も言わせるナ! 能ナシ武器に価値などなイ!」


 宙に浮きながら、吐き捨てるゲオルグ。

 フリムの中の正義が、沸々と燃え上がる。


(早く倒して、あのバトルアックスを元に戻してあげないと……!)


 奥歯を軋ませた直後、隣でリューマが、


「くるぞ」


 言う。

 ほぼ同時に、ゾギアが数十もの鏃(やじり)を飛ばしてきた。

 フリムは大剣を盾にし、それを弾く。

 リューマはひらひらと躱(かわ)し、ミレイユは防壁を展開し、ユーリスは……

 

「勇者たるもの……同じ手は食わん!」


 向かいくる鏃(やじり)を叩き落とすように、長剣を振るった。

 すると……


 ──ヒュンッ!


 いくつもの鏃(やじり)が、倍以上の速度でゾギアの方へと返り、その皮膚を切り裂いた。

 頬から血を流し、顔を顰(しか)めるゾギア。


 物理的に打ち返したわけではない。

 かといって、魔法で跳ね返したわけでもない。


「これは……」

「磁力だ」


 戸惑うユーリスに、リューマが言う。


「それは『磁界神(マグネス)の劔(つるぎ)』──金属を引き寄せたり、反発させたりする。臨機応変に使いこなしてくれ」


 磁力を操る剣……それを聞き、フリムは驚愕する。

 リューマは簡単に言っているが、磁力を使いこなすなど容易ではないはず。

 にもかかわらず、ユーリスはキラッと歯を輝かせ、


「鋼鉄の魔族と相対(あいたい)するにはうってつけの武器だな! 面白い!」


 爽やかに、笑ってみせた。


 そのままユーリスは、『磁界神(マグネス)の劔(つるぎ)』を構える。

 すると、ゲオルグが持つバトルアックスが、ユーリスの方へと引き寄せられた。


「ギ……!」


 宙に浮いたまま、抗いようのない力に引っ張られるゲオルグ。

 それを迎え討つように、ユーリスは劔(つるぎ)を振るい……


 ──ザンッ……!


 ゲオルグの長い尾を、斬り落とした。

 直前で避けられたため、致命傷を与えることはできなかったが……


(すごい……ユーリスさん、もう使いこなしている……!)


 フリムが目を見張る中、ゲオルグは身体を翻し、


「チッ……調子に乗るナ!」


 氷の槍を顕現し、放ってきた。

 それを、


「──青き氷壁(アルクレヴノ)‼︎」


 ミレイユが防壁を展開し、すぐに防ぐ。


「ふぅん。氷の壁もなかなかの強度ね」


 ロッドを構え、優美に微笑むミレイユ。

 彼女も強化された防御魔法を使いこなしているようだ。


「この半魔族の相手は私たちがするわ。あなたたちはそちらをお願い」


 ミレイユが、フリムとリューマに言う。


「もちろん、ドロップした素材は私にちょうだいね?」


 余裕そうな口ぶりと、「半魔族」と呼ばれたことに腹を立てたのだろう。ゲオルグは苛立ちを露わにし、


「ゴミ虫が……八つ裂きにしてやル‼︎」


 閃光弾のような魔法を炸裂させた。

 舞い上がる土埃が、図らずも戦場を分かつ。

 ミレイユとユーリスの無事を祈りながら、フリムはゾギアと対峙した。


「……ふぅ。ようやく首が繋がった」


 ゴキッ、と首を鳴らすゾギア。


「さて……私の相手は貴様らでいいのか?」


 射貫くような、鋭い視線。

 しかしフリムは、怯むことなく見つめ返し、


「ええ……覚悟してください!」


 大剣を振り上げ、駆け出した。



 

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