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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第7話

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告白



 木漏れ日をキラキラと反射させながら落ちる氷の破片。

 その中からゲオルグが現れ、バトルアックス共々、地面に落ちた。


「な、何が起きて……?」


 困惑の声を上げるフリム。

 すると、それに応えるように、



「──たかが人間相手に、何を手こずっているのかと思えば……そういうことか」



 低く、暗い声が響いた。


 陽の光が、何かに遮られる。

 四人に落ちる影。


 その元を見上げると……

 一人の男が、頭上に浮いていた。


 歳は三十代前半か。

 軍服を思わせるかっちりとした装い。

 伸ばした背筋。淡々とした表情。

 水色の短髪をオールバックに撫でつけた、神経質そうな雰囲気の男だ。


 そんな人物が、ゆっくりと下降してくる──背中に生やした漆黒の翼に風を受けて。


(見た目は人間……けれど、羽が生えているってことは……魔族⁈)


 戦慄するフリムの前に降り立つ男。

 未だ凍結の影響が残っているのか、ゲオルグは胸を押さえながらそれを見上げ、


「グッ……ゾギア、さマ……!」


 男の名を呼んだ。

 やはりゲオルグの仲間のようだが、中途半端なゲオルグと違い、人間と変わらない姿をしている。

 

 つまりは……ゲオルグより、完全な魔族に近い存在。

 

 フリムは最大限に警戒し、大剣を握り締める。

 ゾギアと呼ばれた男は、復活したばかりのゲオルグを冷ややかに見下ろす。


「愚か者が。城から盗まれた武器が、人間の手で能力(ちから)を発揮している……この事実に、何故疑問を抱かない?」


 そして、ゾギアはこちらに目を向け、


「価値を知らぬ下賤な人間が盗んだのかと思えば……持ち出したのは貴様だったのか、リューマ」


 と……リューマの名を、迷いなく呼んだ。


(この魔族……リューマさんを知っている?)


 フリムが疑問を抱く中、ゲオルグがゾギアに聞き返す。


「ゾギアさま、この男を知っているのですカ?」

「もちろん」


 ──そして。

 ゾギアは、リューマを見つめ……こう言った。



「こいつは魔王城の〝武器庫番〟にして、かつての将官たちの演習相手──『試し斬りのリューマ』だ。この男ほど『魔神器(ファルズボルグ)』の扱いに長(た)けた者はいない」



 ──試し斬りのリューマ。

 魔王軍の武器庫番で、兵士たちの演習相手。


 それこそが、リューマが語ろうとしなかった、彼の過去……?

 フリムの頭が、いよいよ混乱する。


 魔王軍が健在だったのは二百年前だ。

 その頃に武器庫番をしていたということは……


(リューマさんは………………二百年以上生きている、魔族……⁈)


 問うようにリューマを見るが、彼は変わらず無気力な目でゾギアを見ていた。

 そこで、ゲオルグが聞き返す。


「『試し斬りのリューマ』……? オレの記憶にはない名でス」

「無理もない。貴様は末端の兵だったからな。『魔神器(ファルズボルグ)』の使用を許されていたのは、魔王軍の中でも隊長以上の者に限られていた」


 ゾギアは一歩踏み出し、リューマに言う。


「武器庫に眠る『魔神器(ファルズボルグ)』を持ち出したのは貴様だったのか、リューマ。何故、それを人間どもに使用させている? いや……そもそも何故、精神を保ったまま生存しているのだ?」


 リューマは「はっ」と笑い、答える。


「それはこっちのセリフだ。あんたらは魔王に忠誠を誓い、魔王の消滅と共に自我を失ったはず……なのにどうしてお喋りできるようになってんだ? 赤ん坊からやり直したのか?」

「忠誠か……あの軟弱な王に仕えていた過去を思うと実に腹立たしい。貴様もそうであろう? 一騎当千の実力を備えていながら、『忠誠心が足りない』というだけの理由で武器庫番などという端役(はやく)に甘んじていたのだからな」


 ゾギアは笑みを浮かべ、リューマに近付く。


「良いことを教えてやろう。我々が自我を取り戻すことができたのは──〈新たなる王〉のおかげだ。あのお方なら、必ずや我らを覇道へと導いてくださる。そして、この世界を魔族の手中に収めてくださるだろう」


 その言葉に、フリムは息を呑む。

〈新たなる王〉──それが、ゾギアやゲオルグをモンスターから今の姿に蘇らせた存在。


(そんな……魔族を復活させて、二百年前みたいに人間たちと戦争をするつもり⁈)


 ゾギアは、さらにリューマへ歩み寄る。


「そのためにも、この城に眠る勇者の剣(つるぎ)が必要なのだ。かつての軟弱な王を葬った〝焔(ほのお)を纏いし剣(つるぎ)〟……それが手に入れば、あのお方の覇道はより確かなものとなる」


 そして、手をスッと差し出す。


「リューマ。貴様も共に来い。私は貴様の実力を認めている。すべての『魔神器(ファルズボルグ)』の最たる使い手として、我々の勢力での地位を約束しよう」


 フリムの鼓動が加速する。


 ……リューマが、ゾギアに誘われている。

 同じ魔族として、もう一度仲間にならないか、と。


(リューマさん……どうするの……?)


 ミレイユも額から汗を流す。

 ユーリスも、表情に緊張を滲ませている。


「さぁ、リューマ……この結界を解くための〝鍵〟を、こちらに」


 ゾギアの長い指がこまねく。


(だめっ……そんなやつらの仲間にならないで……!)


 リューマを止めようと、フリムが足を踏み出すが……その足が地面に付く前に。


 ──ザンッ……‼︎


 ゾギアの首が、宙を舞っていた。

 リューマが、抜き放った大鎌で刈ったから。


 ボトッ、と落ちる生首。

 残された首なしの胴体から、紫色の血がブシュウッと噴き出す。


 人間ならば即死。

 モンスターであっても塵となって消える致命傷。

 しかし、ゾギアは……


「これは……拒絶と受け取っていいのか?」


 首だけの状態で、なおも言葉を発した。

 リューマは大鎌を肩に担ぎ、返す。


「〈新たなる王〉とかいうのが何者かは知らねぇが……俺はあんたらの仲間になるつもりも、誰かの下につくつもりもさらさらねぇよ」

「ふん……二百年前から変わらないな。忠義を尽くすは己(おの)が信念のみ、というわけか?」

「そんな大層なモンじゃねぇよ。今も昔も、俺が心酔しているのはただ一つ──」


 そして、リューマは……フリムを見つめて、



「──〈人間〉。こいつらの生き様に、俺は心底惚れちまってんだ。だから俺は、こいつらと共に生きる」



 柔らかな笑みを浮かべ、言った。


 フリムはドキッとして、立ち尽くす。

 ゾギアに視線を戻し、リューマが続ける。


「それに、あんたらの仲間になったところで稼げなさそうだしなぁ。知ってるか? 人間社会ってのは何かと金がかかるんだ。その上、身分を証明する資格なんかも必要になる。あんたらと世界征服ごっこに興じている暇なんて、俺にはねぇんだよ」

「戯言(ざれごと)を。金も地位も力ずくで奪えばいいだろう? 強者こそが理(ことわり)……それが魔族の生き方だ」

「その傲慢さのせいで、魔王は勇者に負けたんだ。壊し、奪い、蹂躙する……それは〝本当の強さ〟とは言えない」

「ならば、〝強さ〟とは、何だというのだ?」


 ゾギアの問いに、リューマは不敵に笑い、


「言ったところで、あんたらには一生わからねぇよ」


 そう答えた。


 ゾギアのこめかみが、ヒクッと痙攣する。

 そして、彼の身体が自らの首を拾い、斬られた断面をぐちゃりと繋げ、


「……そうか。ならば──もはや言葉は不要ということだな」


 右手を、前に掲げた。


 直後、無数の鋭利な鏃(やじり)が、宙に顕現する。

 その切っ先が、リューマたちを目がけ……一斉に放たれた。



 

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