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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第7話

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破壊と再生



 ゲオルグは再生した翼をはためかせ、再び宙へと飛び上がる。


「貴様らと一緒にするナ! 地を這うしか能のない下等生物ガァ!」


 フリムは目を見開く。


 精神生命体であるモンスターにとって、肉体はあくまで精神(ほんたい)の容(い)れ物。

 そのため、欠損しても再生する能力がある。


 しかし……ここまで早い再生は、見たことがない。

 やはりゲオルグは、魔族に限りなく近い存在なのか……?


(これじゃあ、いくら攻撃してもすぐに再生されちゃうよ……!)


 勝ち誇った笑みを浮かべるゲオルグに、フリムは汗を流すが──


「──それはどうかしら?」


 ミレイユの声。

 それは、フリムの横ではなく……上から聞こえた。


「いつの時代の話をしているのか知らないけれど……人間はもう、地を這うだけの生き物ではなくなったのよ?」


 ミレイユは同じ目線でゲオルグを見据え、銀髪をたなびかせた。


 ──浮遊魔法。

 魔導士の中でも限られた者しか扱えない高等魔法だ。


(こんなに軽々と使えるなんて……ミレイユさん、すごい!)


「いや、偉そうに言ってるけど、俺が貸した長杖(スタッフ)のおかげで浮遊性能が向上してるだけだからな?」


 リューマがこそっと補足する。

 ミレイユに聞かれたら激怒しそうな告げ口である。


「人間が、浮遊魔法を使う、だト……⁈」


 ゲオルグの表情に動揺が走る。

 その隙に、ミレイユが呪文を放った。


「──白き雷鳴(ケラヴノス)!」


 ゲオルグの頭上から、雷(いかずち)が降り注ぐ。

 身を翻し、すぐに回避するゲオルグだが、ミレイユの電撃がヘビのように追尾する。


「チッ、鬱陶しイ……!」


 ゲオルグは手をかざし、魔法の障壁を展開。電撃を防いだ。

 しかし、そちらに気を取られている間に……ユーリスが動いていた。


「はぁああああっ!」


 気合を吐きながら跳躍し、長剣を振るう。

 速さも鋭さも申し分ない。

 だが……


「フンッ。虫けらガ!」


 剣が到達する寸前で、ゲオルグはひらりと避けた。

 ユーリスの一太刀は、虚しく空(くう)を斬る──と同時に。


 ──シャッ‼︎


 空振った剣身から、圧縮した水の刃(やいば)が放たれた。


 その数、約二十。

 水の刃(やいば)はゲオルグの硬い鱗を貫通しながら裂き、内一つが長い尾を斬り落とした。


(もしかしてあれが、あの剣の能力(ちから)⁈)


 フリムの目の前に、ユーリスが着地する。

 彼も、驚いたように長剣を見つめていた。

 

 能力(ちから)が発現したのはこれが初めてだ。

 唖然とした様子の彼に、フリムは慌てる。

 

(どうしよう……ユーリスさんはあの武器に魔族の精神が宿っていることを知らないし、きっと不審に思ってる……!)


 そんな心配をよそに……ユーリスは「ふっ」と笑みを零し、


「これが、選ばれし勇者の力だ‼︎」


 剣を掲げ、自らの手柄のように言った。

 フリムは、ガクッと脱力する。


「ハッ。それも城から盗み出した武器カ。だが……」


 ──シュルルッ。

 と、ゲオルグは斬り裂かれた皮膚と尻尾をすぐに再生し、

 

「そいつはハズレだナ。武器の中でも下の下。ただ水を飛ばすだけの、能ナシ武器ダ!」


 指をさしながら、嘲笑した。

 長剣に宿る魔族は、ゲオルグにとって同族であるはず。

 それを貶(おとし)めるような態度に、フリムは憤りを覚える。

 しかし、


「武器の真価を決めるのは、使い手の力量次第だぜ」


 先に、リューマが反論した。


「そうやって大して頭を使いもせず、目先の強さだけを求めたから、魔族は滅んだんだろ?」

「なっ……貴様ァ‼︎」


 ゲオルグが激高し、リューマ目がけて飛んでいく。

 フリムが「リューマさん!」と叫ぶ……その声を遮るように、


「──青き氷槍(アルクティカ)!」


 ミレイユが唱えた。


 ゲオルグを取り囲むように出現する、五本の氷の槍。

 それは、ゲオルグの身体を四方から貫き……


「ギ……‼︎」


 全身を凍結させ、動きを封じた。


 ゴトッ。と重い音を立て、地表に落ちる氷の塊。

 その中でゲオルグは、時を止められたように固まっていた。


「おお。さすが優秀な魔導士サマは察しがいいねぇ。俺の考えをちゃんと汲み取ってくれた」


 空中からふわりと降り立つミレイユを、リューマが称賛する。

 意図がわからず首を傾げるフリム。

 その隣で、ミレイユは「ふん」と鼻を鳴らし、


「当たり前よ。ユーリスの剣から放たれたのは、普通の水じゃなかったもの」

「どういうことですか?」

「ユーリスが放った水の刃(やいば)がゲオルグの身体を斬り裂いた直後、付着した水の精霊が全身へ広がっていったの。まるで浸食するようにね。だからそれを利用して、氷の魔法を放ったというわけ」

「身体を、浸食する水……」


 それが、ユーリスの借りた長剣の能力(ちから)。

 使いようによってはなかなかに恐ろしい性能だと、フリムは身体を震わせる。


「まぁ、それもこれも『精霊の動きを認知できるようにする』この長杖(スタッフ)のおかげなんだけど。これがあるから、気まぐれで使役しづらい浮遊魔法の精霊もうまく使うことができたわ」


 ミレイユは苦笑する。


 魔法の発現に必要な〈精霊〉は、目に見えない精神生命体だ。

 多くの魔導士はそれを認知できるようにするための研究に生涯を捧げ、叶わないままにこの世を去ってきた。

 それなのに……握るだけでそれを可能にする長杖(スタッフ)が存在するとは。


「この長杖(スタッフ)に組み込まれた魔法の原理が気になるところだけれど……今はこの半魔族の処分が先ね」


 ミレイユは今一度、氷の中に閉じ込めたゲオルグを見つめる。

 フリムも、リューマやユーリスと共に見下ろす。


 バトルアックスを握りながら、完全に固まっているゲオルグ。

 このまま肉体を破壊することは簡単だが……倒す前に、聞き出したいことがあった。


 一体、どこから来たのか。

 何故、魔族のような姿と知性を有しているのか。

 他に仲間はいるのか。

 勇者が遺(のこ)した〝聖剣〟を手に入れて、何をしようとしていたのか。


 フリムと同じことを考えたのだろう、リューマが軽い口調でミレイユに尋ねる。


「質問タイムといきたいところだが、身体を自由にするわけにもいかねぇしなぁ。口のとこだけ氷を溶かすこととかできねーの?」

「できるわけないでしょ? そんな繊細な調整」

「ならば、この僕が剣で口元の氷をくり抜こう! 僕は雪国の出身だ。氷彫刻には覚えがある!」

「ヒビ入って一気に割れそうだから絶対にやめて」


 ユーリスの自信たっぷりな申し出を、ミレイユがばっさり拒絶する。

 さて、どうしたものか……と、フリムが考えた、直後。


 ゲオルグを封じている氷の塊が……宙に浮いた。


「え……⁈」


 ミレイユも驚愕する。ということは、彼女の魔法ではない。

 四人が見上げる中、氷の塊は高く浮遊し──


 ──バリィィイインッ‼︎


 粉々に、砕け散った。



 

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