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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第7話

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魔王城



 金色の天幕に覆われた、結界の内側──

 フリムたちは、何度かモンスターに遭遇した。


 ゴブリン。オーク。トロール。

 いずれも通常の個体より大きく、戦闘力が高い。


 ミレイユが言っていたように、元は魔王軍で幹部クラスの強さを誇る魔族だったのだろう。身に纏う鎧も武器も一般的な同種より明らかに上等なものだった。


 多少時間は取られたものの、フリムたちはそれらモンスターを順調に倒した。

 そして、ついに──




「──着いた……!」


 魔王城に、到着した。


 積み上げられた石の壁。

 蔦の這う高い塔。

 周囲には堀と、そこにかかる跳ね橋もある。


 ここは元々、この土地を治める領主の住まいだった。

 国王の宮殿に比べれば小さな城だが、領主が住むに相応しい立派な造りをしている。


 しかし二百年前、魔界から現れた〈魔王〉に奪われ、侵略の拠点となった。


 周囲にも大小様々な建物があるが、どれも風化し、崩れている。

 恐らく、公の施設や店舗、領民の住居だったのだろうが、魔王軍に城を略奪された際、すべて破壊されたようだ。


 その後、〈勇者〉が魔王を倒し、この地は結界により封印され……二百年が経ち、豊かな森となった。


「ここが、魔王城……」


 かつての戦いの舞台となった地を見上げ、フリムが呟く。

 時の流れをそのまま体現したような廃城の姿に、感動と畏(おそ)れを抱くが……

 同時に、一つの疑問が浮かんだ。


「これ……先ほどの結界に似ていますが、何でしょう?」


 そう。灰色の膜のようなものが、城全体を覆うように張られているのだ。

 向こう側に城が透けて見えるため、実体はなさそうだが……霧や煙とは明らかに異なる、人為的なものに見えた。


 ミレイユが近付き、その膜を調べる。


「……これも魔法ね。しかも、さっきの結界と違って、物理的に遮断するようになっている」

「じゃあ、この先には立ち入れないんですか?」

「ええ……見たことのない魔法の構成をしている。恐らく、当時の魔族が仕掛けたものよ。人間の魔法体系とはまるで違う……どうすれば解除できるのか、見当もつかないわ」

「そんな……」


 ようやくここまで来たのに、立ち入ることができないなんて……

 と、フリムが言葉を失った、その時。


「──〝鍵〟ダ!」


 空から、声が降ってきた。

 まさかと思い、見上げると……バサッ! という羽音と共に、それは飛来した。


 緑の頭髪から伸びる二本の角。

 背中に生えたコウモリのような羽。

 鱗に覆われた身体に、爬虫類に似た長い尾。

 肩には、フリムから奪ったバトルアックスを担いでいる。


「結界を解くには〝鍵〟がいル! だからこそ、オレはそれを探していタ!」


 ゲオルグ。

 モンスターと人間の特徴を半分ずつ持つ異形(いぎょう)の半魔族が、四人の前に現れた。


 ゲオルグは鋭い牙を覗かせながら、ニヤリと笑う。

 

「来たな、人間どモ。〝鍵〟は持ってきたカ?」

「ええ、言われたとおりに!」


 浮遊するゲオルグに、フリムが答える。


「〝鍵〟はこの結界を解くためのものだったのですね……魔王城の封印を解いてどうするつもりですか⁈」

「キシャシャッ。好奇心旺盛なのは嫌いじゃないゼ。いいだろう、教えてやル」


 ゲオルグは、翼と両手を広げ、


「オレが真に求めるものは、〝勇者の剣(つるぎ)〟ダ! 軟弱なかつての魔王を滅ぼした、特別な武器……それが、この城に残されていル‼︎」

「なっ……!」


 フリムだけでなく、ユーリスも声を上げる。

 そして、ゲオルグを鋭く見上げ、


「〝聖剣〟は現代の勇者である僕のものだ! 誰にも渡さない‼︎」

「ハッ。現代の勇者ァ? 面白イ。なら……」


 ゲオルグは、手のひらをこちらに向け、


「勇者ご一行サマのお手並み……拝見させていただくとしよウ!」


 詠唱もしないまま、魔法攻撃を放ってきた。


 顕現したのは無数の氷の矢。

 雨のように降り注ぐそれを、フリムたちは回避する。


 ……ゲオルグが〝聖剣〟を手に入れて何をするつもりなのかはわからない。

 しかし、魔王を滅ぼすほどの剣なのだから、他にはない強大な力が秘められているに違いない。


(そんなものが渡ったら大変なことになる……絶対に阻止しないと……!)


 さいわい、〝鍵〟を持っているのはリューマだ。そう簡単には奪われまい。


 フリムは背負っていた大剣を手にし、構える。

 ユーリスも長剣を抜き、ミレイユも戦闘態勢に入った。

 リューマは……


「……って、リューマをさんも戦いに参加してくださいよ!」


 一人、離れたところでボサッと突っ立っているリューマに、フリムは思わず吠える。

 しかしリューマは、面倒臭そうに首を掻き、


「ええ? だって〝鍵〟持ってるのは俺なんだぜ? 取られたら困るキングは最後方に下がっておくべきだろ?」


 なんて、無気力に言うが……

 そこへ、ゲオルグが目にも留まらぬ速さで接近し、バトルアックスを振り下ろしてきた。


「……! リューマさんっ‼︎」


 フリムの声に、「ギィンッ!」という金属音が重なる。

 リューマはいつの間にか手にしていた輪刀(りんとう)──三日月型の刃(やいば)を持つ輪状の双剣で、ゲオルグの攻撃を受け止めていた。


「おいおい。いきなりキングを狙うなんて、あんたチェスのルールを知らないのか?」


 刃(やいば)同士をギリギリ鳴らしながら、リューマが呆れたように言う。

 凄まじい反応速度を目の当たりにし、ゲオルグは好戦的な笑みを浮かべ、


「奪い合うのは駒じゃない……命ダ!」


 再び、ゲオルグがバトルアックスを振るった。

 リューマは輪刀(りんとう)をクロスさせ、それを受け止める。

 そこで、


「たぁああああっ!」


 ゲオルグの背後から、フリムが斬りかかった。


 怪力を込めたフルスイング。

 大剣とは思えない速度だが、ゲオルグの反応の方が速かった。

 ゲオルグは振り返らないままにそれを避け、再び宙へと舞い上がる。


 速い。

 フリムは空振りしながら「くっ」と唸った。


「馬鹿メ! そう足音を立ててはすぐに気取られるゾ?」

「なっ……わたしの足音がうるさいって言いたいんですか⁈」


 フリムが思わず言い返した……次の瞬間。


 ──ザンッ……‼︎


 リューマが投げた輪刀(りんとう)が、ゲオルグの両翼を、根元から切断した。


 速過ぎて、フリムの目にもほとんど映らなかった。

 ヒュルヒュルと弧を描き戻ってくる輪刀(りんとう)を、リューマはパシッとキャッチする。


「ガッ……!」


 地面に落下し、うずくまるゲオルグ。

 それを見下ろし、リューマが言う。


「そこまで言うなら手本を見せろよ。ほら、足音立てずに歩いてみろ」

「グゥ……!」


 背中から紫色の血を流しながら、ゲオルグが睨む。

 飛行能力を奪うことはできたが、まだ致命傷とは言えない。

 早く次の攻撃を仕掛けなければ……と、フリムは構えるが、


「キシシ……シャシャァアッ!」


 ──ぶわっ!


 ゲオルグは、欠損した翼を、一瞬で再生した。



 

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