思いがけない再会
──そして、次にフリムが瞼を開けた時……
彼女の視界は、上下に揺れていた。
「……んぇっ?」
寝ぼけ眼を、ぱちっと開ける。
明るい。
夜が明けたようだ。
だが、目に映る場所は、昨晩野営した池のほとりではなく……
森の景色が、忙しなく後ろへと流れていて。
「…………えっ⁈」
顔を上げ、ようやく気付く。
彼女は今、リューマの肩に担がれ、走りながら運ばれていた。
「おう。起きたか」
軽い口調で言うリューマ。
しかし、足は止めない。
一体、何が起きているのか。
フリムは大いに混乱し、尋ねる。
「ちょっ、どういう状況ですか⁈」
「モンスターに追われている」
「えぇぇっ⁈」
つまり、寝ている間にモンスターに襲われ、リューマが担いで逃げてくれている、ということらしい。
(っていうか、一度も起こされないまま夜が明けてる……結局リューマさんが一人で見張りを続けてくれたんだ)
そのことを申し訳なく思いつつ、フリムは周囲を確認する。
軽快な足取りで森を駆けるリューマ。
過ぎていく景色に目を凝らすが、モンスターらしき影は見当たらない。
樹々を搔き分ける音や鳴き声、足音、空からの羽音も聞こえてこない。
きっと、リューマが上手くまいてくれたのだろう。
「もう大丈夫そうですよ、リューマさんっ。おろしてください!」
完全に目が覚め、担がれていることに恥ずかしさを覚えるフリム。
だが、それでもリューマは足を止めずに、
「駄目だ。悪いが、しばらく我慢してくれ」
「で、でも、わたし重いと思うし……!」
「まぁ、軽いとは言えないが……」
──ゴッ‼︎
フリムは顔を真っ赤にし、リューマの肩にエルボーした。
繰り出された強烈な打撃に、リューマは「ぐほぁっ!」と呻く。
その手が緩んだ隙に、フリムはぱっと彼から離れ、着地した。
「悪かったですね、重くて‼︎」
「っつぅ……冗談に決まってんだろ。っていうか重いとは言ってな……」
……と、そこで。
リューマは、はたと真顔になる。
「……やっべ」
「へっ? 何がですか?」
「いいから、地面から離れ……!」
……刹那。
フリムの足元が、ぐらぐらと揺れ……
──ズゴゴゴゴゴゴ……‼︎
樹の根や土を巻き込みながら、高く盛り上がった。
「わわわわわ……うわぁあああーー‼︎」
パニックになるフリムを、リューマが抱えて跳ぶ。
彼の腕の中でフリムが見たのは……
地面の下から現れた、巨大なゴーレムだった。
「ご、ゴーレム……⁈」
「ああ。地中からずっと追っかけられていたんだ」
言われてみればリューマは、やけに足音を殺して走っていた。
地中を進むゴーレムに悟られないようにしていたのだろう。
しかし、フリムが無遠慮に着地したため、居場所を特定されてしまった。
樹々をメキメキと倒しながら、地中からせり上がる灰色の巨体。
フリムは息を呑む。
ゴーレムを見るのは初めてだった。
大陸全土でも出没件数が少なく、いるのはこの魔王城周辺のみだと言われている。
岩でできた身体は人の形を模してはいるが、目や鼻などの細かな造形はない。
それでも、ゴーレムは確実にこちらを見ている。
そして……重々しい腕を、ブンッと振り下ろしてきた。
「ぎゃーっ‼︎」
「ちっ、めんどくせー」
フリムを抱いたまま、リューマはひょいっと跳んで躱す。
空振ったゴーレムの拳が、ボゴォッ! と地面を穿った。
こんなの、直撃したらひとたまりもない。
「待ってください、ゴーレムさん! わたしたちは戦いたいわけではありません! どうか引いてもらえませんか⁈」
いつものように呼び掛けてみるが、ゴーレムは無反応。
緩慢な動きで再び腕を振り上げ、ブンッ! と殴りかかってきた。
「うわぁああっ!」
「返事はこの通りだ。反撃するしかない」
「でも、わたし武器持っていないし……!」
「おいおい、俺が誰なのか忘れたか?」
ゴーレムから離れたところに着地し、リューマは抱きかかえていたフリムを下ろす。
それから、背負った鞘に手を伸ばし、
「『貸し武器屋リューちゃん』タシナの森出張店……開店の時間だ」
言いながら、モーニングスター──トゲの生えた頭部を持つ、鎚矛を抜き放った。
「ほい。これでゴーレムの身体を破壊しろ」
「あ……ありがとうございま……」
「おっと。使う前に契約書へサイン、それから二千ゼリンだ」
「って、お金取るんですか⁈」
「当たり前だろ。商売道具をタダで貸し出す馬鹿がどこにいる?」
「言ってる場合ですか! 緊急事態なんですよ⁈ サインだの支払いだのしている暇は……!」
──ドゴォォオンッ‼︎
すぐ横に振り下ろされるゴーレムの拳。
「ほらほらぁっ! 早く貸してください!」
「それじゃあんたが起きるまで逃げ回ってた意味がなくなるだろ。せっかく二千ゼリン稼げると思って待ってたのに」
「逃げてた理由それ⁈」
などと言っている間にも、ゴーレムが再び腕を振り上げる。
(ああもう、こうなったら素手で戦うしか……!)
と、フリムが脳筋な結論を導き出した……その時。
「──『勇者ユーリス』、参上!」
そんな、高らかな声が響いたかと思うと……
次の瞬間、ゴーレムの胴体が、すぱぱぱぱっ、と細切れになった。
さらに、
「──赤き鋼鉄‼︎」
ゴーレムの頭の上に巨大な鉄球が出現し……真っ直ぐに落下した。
硬い音を轟かせ、砕け散るゴーレム。
粉々になった岩の身体は、再生することなく塵と化した。
唖然とするフリムの前に、二人の人物が現れる。
一人は、金髪の剣士。
碧い瞳を持つ、精悍な顔立ちの青年だ。
もう一人はローブ姿の魔導士。
銀色の長髪と藍色の瞳を持つ、凛とした雰囲気の美少女。
そのどちらにも、フリムは見覚えがあった。
「雨林で会った剣士さんと……魔導士のミレイユさん‼︎」





