↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第6話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/51

揺らめく火影



 ──日没後。

 馬車は、タシナの森の入り口に辿り着いた。


 鬱蒼と茂る、夜の森。

 もう何度も……何なら昨晩もここへ来ているが、フリムはその暗さと深さに、あらためて畏(おそ)れを抱く。


 が、リューマは馬車を降りるなり、何の躊躇いもなく森へずかずかと踏み込んだ。

 フリムが「待ってくださいよ!」と後を追う中、リューマは背にした鞘から武器を抜く。

 

 取り出したのは、炎の灯る松明(トーチ)……否、光を放つ棍棒だ。

 太陽を孕んでいるかのごとく煌々と輝き、周囲を明るく照らしている。


「わぁ……すごい光量ですね」

「本当は目くらましのための能力(ちから)なんだが、こんな使い方もできる」


 視界が明瞭になり、フリムの不安も少し和らいだ。

 ほっとした様子の彼女に、リューマが続ける。


「魔王城はここからだいぶ行った先にある。今日は水辺の近くで野宿しよう」

「わかりました」


 二人は棍棒の光を頼りに、森の中を進んだ。




 やがて、涼やかな水音が聞こえ、視界が開けた。

 小さな池のほとりに辿り着いたのだ。


 ここならば水が確保できる上、モンスターの接近も察知しやすい。

 二人は平らな地面を選び、野営の準備を始めた。


 落ちている枝葉を集め、火を点ける。

 光る棍棒を地面に突き立てているため既にかなり明るいが、火は暖を取るために必要だ。

 それに、食材を調理することもできる。


「あんた、腹減ってるだろ? 俺はハチミツ料理を食ったからいいが、あんたは昼飯を抜いている。池で魚でも捕まえてやろうか?」


 火打石をしまいながら、リューマが尋ねる。

 何気ない口調ではあるが、フリムは警戒した。


 だって、リューマが無償で何かを施してくれるはずがないから。

 きっと「手間賃と食材提供代、しめて五万ゼリン請求する」とか言い出すに決まっている。


 こんなこともあろうかと、フリムは秘策を用意していた。

 だが、それはそれで、別のリスクがあるもので……


「……大丈夫です。わたし、携帯食料を持ち歩いているので」

「へぇ。さすがは傭兵、準備がいいな」

「でも、その食料が、その……普通の人には、けっこうウケが悪くて」


 フリムは思い出す。

 傭兵になったばかりの頃、他の同業者と討伐パーティを組もうとした時……

 この〝非常食〟を見せて、ドン引きされたことを。


 そんなこととはつゆ知らず、リューマはけろっとした顔で返す。


「携帯食料なんざどれもウケが悪いモンだろ。味より栄養重視なんだから」

「はは……そうですかね?」

「そうだよ。遠慮せず、早く出して食え」

「じゃあ……思い切って出しちゃいますね」


 フリムは、リューマに引かれることを覚悟し……

 腰のポーチからそれを、バッと取り出した。


 

「わたし、実は…………カエルが大好物なんですっ‼︎」



 ……そう。

 その手に握っているのは、串刺しにしたカエルの干物。

 彼女の非常食……というより、日常的なおやつである。


「すみませんすみません! 昔からカエルとかトカゲとか、魔界産のゲテモノが大好きで! こう、ワイルドな味がするというか、元気になるカンジがするというか……!」


 リューマの反応を待たないまま、フリムは一方的に捲し立てる。


「とにかく、あっちでコソコソ食べますので! どうぞお構いなく……」

「待てよ」


 離れようとするフリムの手を、リューマが掴む。

 フリムが驚き、「えっ?」と振り返ると……

 リューマは、真剣な表情で彼女を見つめ、


「あんた、それ……」

「は、はいっ………?」

「……ミドリボスガエルじゃねぇか。味もいいし、栄養価も高い。食うのにうってつけのカエルだ」


 などと、感心したように言うので、フリムは拍子抜けする。


「ひ……引かないんですか?」

「引くってなにが」

「だから、その……カエルなんか食べて、気持ち悪い女だって思いません?」

「ぜんぜん」


 ばっさり。

 リューマは、フリムの心配を真っ向から斬り捨て、


「俺も昔はよくそいつを食ってた。なるほど、干物にするといいのか……保存も利くし、旨味が凝縮されて良さそうだ」

 

 顎に手を当て、うんうん頷く。

 な……


(なんてこと……引かれるどころか、ゲテ食いに共感してくれるなんて……!)


 フリムは嬉しくなり、キラキラと目を輝かせ、リューマに近付いた。


「実はこの干物、リューマさんに『砂神(セト)の長槍(ながやり)』をお借りした時に作ったんです! カエルをたくさん捕まえて、あの槍で貫いて!」

「ほう。キノコじゃなくカエルを干物にしていたのか。そりゃ名案だ。なら……」


 リューマは、すぐ横にある池を見遣り、


「……ここにも、カエルがわんさといるはずだ。槍で捕まえて、今夜は干物パーティーとしゃれこもう」

「大賛成です‼︎」


 そうして二人は、『砂神(セト)の長槍(ながやり)』を使い……カエル狩りをした。

 槍は貫いたそばからカエルの水分を奪い、干物にしていく。

 それをフリムが持参した串に刺し、焚火で焼いて食べた。


 パリッとした皮。滴る肉汁。鶏肉に似た野性味のある味。

 大好物を思う存分食べ、フリムは大満足……とまではいかなかったが、腹四分くらいまでは満たすことができたので、ひとまず落ち着いた。


「はぁ、おいしかったぁっ……ごちそうさまでした!」

「ごちそうさん。んじゃ、寝ろ」


 食べ終わるなり、リューマが立ち上がる。


「見張りは俺がする。ほい、ここに横になれ。寝心地は悪いだろうが、何もないよりはマシだろ」


 そう言って、着ていた上着を脱ぎ、地面に敷いた。


 フリムは……目と耳を疑う。

 そして、すぐに確認する。


「……いくらですか?」

「あ?」

「見張り代および上着貸し出し費用、しめて何万ゼリンですか?」

「あのなぁ……」


 リューマはげんなりと息を吐き、


「ただでさえレディを野宿に付き合わせているんだ。こんくらいやって然(しか)るべきだろ? さすがに金は取らねーよ」


 れ、れれれ、レディ⁈

 金は、取らない⁈


 フリムは身震いをして、リューマの正気を疑う。


「どうしたんですかリューマさん⁈ まさか……さっき食べたカエルに人格を変える毒が含まれていたとか⁈」

「んなワケねーだろ」

「じゃあなんでですか⁈ どうして急に紳士的な振る舞いを⁈」

「何を言っている。俺はずっと紳士的だろうが」

「どこがですか⁈」

「ほう……いいのか? ンなこと言って」


 リューマはニヤリと笑うと……フリムの顔を、ぐっと覗き込む。

 そして、顎をくいっと持ち上げて、


「俺が紳士的な振る舞いを止めたら──あんた、大変なコトになるぜ?」


 目を細めながら、妖しく囁いた。


 月光に照らされる赤い瞳。

 その奥に、何か……フリムの知らない、深淵が広がっているような気がして。

 

「た……たた、大変なコトって……⁈」


 突然変わったリューマの雰囲気に、フリムは大いにたじろぐ。

 しかし、リューマは答えない。

 代わりに、くすりと笑って、


「……いいから、さっさと寝ろ。明日は夜明けと共に行動を始めるぞ。眠いだなんだと駄々をこねたら置いていくからな」

「お、起きられますよ! っていうか、途中で見張り交代するので、ちゃんと起こしてくださいね!」

「わかったわかった」


 適当な返事をし、離れるリューマ。

 そのまま、焚火に枝をくべ始めるので……

 フリムは地面に敷かれた上着の上へ横になり、目を閉じた。


(びっくりした……今のリューマさん、一体何だったの?)


 目を閉じると、鼓動の音が余計にうるさく聞こえる。

 フリムは横向きに丸まり、胸を押さえた。


(今日一日、一緒に過ごして、リューマさんのことたくさん知れたと思ったけど……わからないことも、ますます増えた)


 そして、うっすらと目を開け、


(……不思議な人。魔王城に辿り着いて、〝鍵〟が何なのかがわかったら……リューマさんのこと、ちゃんと知れるのかな?)


 ゆらゆら揺れる、炎の影。

 それを最後に映すと、フリムは瞼を閉じ……眠りに就いた。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。