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橙に染まる赤



 フリムは、顎が外れんばかりに口を開ける。


「魔王城の、武器庫にあったもの……⁈」


 それが、リューマの貸し出す武器。

 異様に頑丈で、特殊な能力(ちから)のある武器ばかりだとは思っていたが……


「つまり……二百年前に、魔王軍が使っていた武器、ってことですか⁈」

「そ」


 そ。じゃない‼︎

 と、口に出してツッコむ気力すら驚愕に飲み込まれる。


「そんなもの、どうやって盗み出したんですか⁈ だって魔王城は、魔王討伐後から封印されているはずで……!」

「知りたいなら、情報料五十万ゼリンだ」

「たっか‼︎」

「なにせ、俺の商売に関わる極秘情報だからな。そんな大金を払ってまで知りたいとは思わないだろ?」


 リューマはひらっと手を振り、背を向ける。


「そういうことだから。あんたはほとぼりが冷めるまで他の街にでも身を潜めてな」

「ちょ……一人で行くつもりですか?」

「当たり前だろ。ヤツの標的は俺だ。あんたには関係ない」


 そう言って、すたすたと去っていく。

 その猫背気味な背中を見つめ、フリムは……


「……関係ありますよ‼︎」


 ダダダッ、と追いかけ、リューマを通せんぼした。


「もとはと言えばわたしのせいでこんなことになったんですから! 一緒に行って、責任を果たします!」

「だから、あんたのせいじゃないって……」

「それに‼︎」


 フリムは、リューマの顔をぐっと覗き込み、


「あのバトルアックスは、わたしがリューマさんから借りたものです! ちゃんとわたしの手で返却しなければ、気が済みません‼︎」


 リューマは、ぱちくりとまばたきする。

 その面食らった顔を、フリムは遠慮がちに見上げ、


「……リューマさんがお強いことは知っています。でも、敵が一人だけとは限りません。リューマさんの身に何かあったら、わたし……」

「フリム……」


 リューマが胸を打たれたように呟くと……フリムは、くわっと目を見開き、


「……わたし、誰から武器を借りればいいんですか⁈」

「……は?」

「リューマさんがいなくなったら困るんですよ! リューマさんが貸してくれる武器がなきゃ、傭兵としてやっていけないんですから‼︎」


 ガッ! と腕を掴まれ、ビクッとするリューマ。


「とにかく、わたしも行きます! リューマさんにダメって言われても、絶対絶対、一緒についていきますからぁっ‼︎」


 ──バサバサバサッ!


 近くの樹から、鳥が飛び立つ。

 その羽音が遠ざかった後……リューマは、「ぷっ」と噴き出した。


「あんたって……本当に面白いな」

「へっ?」

「あーあ、残念だ。武器盗難の賠償および回収費用、しめて七万ゼリン請求しようと思っていたのに。あんたが自分で取り返しに行くってんなら、それもナシか」

「なぁっ⁈ リューマさんってば、隙あらばそうやって……!」

「割り勘でいいか?」


 リューマは、口の端をニッと吊り上げ、


「タシナの森までの馬車代。なんなら、あんたの奢りでもいいけど」


 悪戯っぽく、言う。

 その妙に嬉しそうな顔を、フリムはキッと睨み付け、


「さっき散々奢ったじゃないですか! 割り勘に決まっています‼︎」

「つっても、食べてる途中で邪魔が入ったからなぁ。あれじゃ奢られたとは言えなくね?」

「なんだかんだ八割以上食べていましたよね⁈ わたしの目はごまかせませんよ‼︎」


 などと言い合いながら、二人は馬車乗り場を目指し、街道を歩き始めた──




 ◇◆◇




 ──乗り込んだ馬車の中。

 フリムはリューマと向かい合わせに座り……言葉を探した。


 聞きたいことは、山ほどあった。

 何故、魔王城にあるはずの武器を、リューマが持っているのか。

 何故、それら武器には魔族の精神が宿っているのか。

 ゲオルグが探している〝鍵〟とはどのようなもので、何を開けるためのものなのか。


 しかし、この守銭奴にして秘密主義な店主は、代価なしでは教えてくれない。

 情報料五十万ゼリンなどと言われたが、そんな大金、持ち合わせているわけもなく。


(うう……本当にお金を払わなきゃ教えてくれないのかなぁ……?)


 ガタゴト揺れる馬車の中、フリムが困り果てていると、


「……見ろ」


 リューマが、窓の外に目を向けて、


「もうすぐ、日が暮れる」


 夕焼けに染まる空を見つめ、呟いた。

 そして、吐息を零しながら、


「…………綺麗だな」


 そんなことを、口にした。


 深紅の瞳に、夕日の橙(だいだい)が反射している。

 その輝きが、まるで宝石のようで……フリムは思わず惹き込まれる。


 が、すぐに顔を顰(しか)め、


「……リューマさんって、『夕日が綺麗』とか言える感性の持ち主だったんですね」

「どーいうイミだ」

「だって、『景色なんて一ゼリンの足しにもならん』とか言いそうですもん」

「失礼な。俺は『ロマンチック詩人検定・一級』の資格保持者だぞ? 自然の美しさを詠ませたら右に出る者はいない」

「その意味不明な資格たち、一体どこで見つけてくるんですか?」


 半眼になるフリムに対し、リューマはぷいっと顔を背(そむ)け、


「……とにかく。俺はけっこう、この世界が気に入ってんだ。だから……日常を脅かすヤツがいるなら、容赦なく潰す」


 もう一度、夕日を眺めながら言った。

 その横顔に、フリムは思う。


 どうしようもない守銭奴で、何故か魔王城の武器を貸し出しているような人だけど……

 どうにも、根っからの悪人には見えなくて。


(……ずるいよ、リューマさん。なんにも教えてくれないくせに……「もっと知りたい」って思わせるなんて)


 フリムは再び静かになった馬車の中で、リューマにつられるように、夕日を眺めた。



 

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