〝鍵〟を握る者
リューマは背にした鞘から武器を抜き放つ。
顕現したのは弓と矢筒。
それをフリムに手渡し、
「あんた、弓も使えるか?」
「はい! ちなみに、これにはどういう能力が……」
「それは使ってみてからのお楽しみだ」
いつものように言うと、リューマは再び武器を抜いた。
腕に装着するタイプのボウガン。
次いで、革製の長い鞭も取り出す。
それをビシッと両手で引っ張ると、
「俺の優雅なハチミツタイムを邪魔した罰だ……たっぷりお仕置きしてやる」
言うが早いか、リューマは高く跳躍し、建物の屋根へと上がり……
飛来したバットゴブリンに向け、鞭を振るった。
ヘビのようにしなりながら伸び、バットゴブリンの身体に巻き付く鞭。
すると、巻き付かれた個体の動きが、石化したかのごとくピタリと止まった。
そこへリューマは、反対の腕に取り付けたボウガンを向け、矢を放つ。
脳天を貫かれたバットゴブリンは、無抵抗のまま塵となった。
同様のやり方で、バットゴブリンを次々に倒していくリューマ。
その無双っぷりに、フリムは喉を鳴らす。
「リューマさん……やっぱり、ものすごく強い……!」
だが、慄いている場合ではない。
周囲では魔導士たちが魔法を放ち、傭兵たちが槍や矢を放って応戦している。
わたしも、早く参戦しなきゃ。
そう思うフリムの背後で、「きゃあっ」と悲鳴が上がった。
通りの先で、子供がバットゴブリンに襲われている。
フリムは素早く駆け、弓を構える。
「離れなさい! さもなくば、この矢があなたを貫きます!」
しかし、返ってくるのは獣に似た唸りのみ。
ゲオルグと違い、バットゴブリンたちは人語を操ることができないようだ。
地面に伏せる子供の上を、バサバサと飛ぶバットゴブリン。
その頭を目がけ、フリムは矢を引き絞り……放った。
狙いは完璧。
矢は真っ直ぐにバットゴブリンの額を貫き──
突き刺さるや否や、その身体をギュインッと空高く持ち上げた。
「へっ?」
フリムが間の抜けた声を上げる中、バットゴブリンはみるみる上昇し……
──チュドォォオオンッ‼︎
飛んでいた他の個体を巻き込みながら、爆発した。
飛び散る羽や爪。
それを見上げ、フリムだけでなく助けた子供の目も丸くなる。
これは……射貫いた標的を、花火のように打ち上げて爆発させる弓矢……⁈
(って、相変わらずニッチすぎる能力‼︎)
しかし、この能力が発動したということは、弓矢の中に宿る魔族がフリムを認めたということ。
少々変わった性能だが、今のような使い方をすれば、一度で複数体を葬ることができる。
「今のうちに、建物の中に逃げて!」
フリムは子供の手を引いて走り、安全な建物の中へと避難させた。
(リューマさんは上で戦ってくれている。わたしは下で、襲われている人を助けよう!)
背負った筒から再び矢を取り出し、フリムは別の悲鳴が聞こえる方へと急行した。
◇◆◇
──傭兵や魔導士たちの尽力の甲斐もあり、バットゴブリンの群れは無事に撃退された。
街を護る警備隊と国の正規軍も駆け付け、被害状況を確認したが、さいわいなことに死者は出なかった。
ひとまず脅威は去ったが、人々の不安は募ったまま。
何故なら、人語を操る異形のモンスターが、恐ろしいことを口にしていたから。
「あいつ、〝鍵〟を盗まれたとか言っていたよな?」
「三日後までに魔王城へ返しに来なければ、十倍の軍勢を連れて街を襲うって……」
「あのモンスターは何者なんだ?」
「というか誰だよその〝鍵〟を盗んだヤツって! そいつのせいで街はめちゃくちゃだ‼︎」
徐々にヒートアップする人々の声。
皆、誰のせいでこんなことになったのかと、犯人捜しを始めている。
それを察知するなり、フリムとリューマは目配せをして……
誰にも気付かれないようにササッと、ラトゥリアの街を離れた。
「──どういうことですか、リューマさん!」
門をくぐり、街道に出た後。
フリムは我慢の限界とばかりに、リューマに尋ねた。
「あのゲオルグと名乗るモンスター、魔王城から盗み出されたものを探してるって言ってましたよ⁈ まさか、リューマさんの貸し出している武器って……!」
という言葉の途中で。
リューマは、フリムにずいっと詰め寄り、
「おい。なんで俺が貸した武器をあのコウモリ野郎が持っていた?」
「ひぃっ」
「奪われたなら何故早く言わなかった? もしや、このままバックレるつもりだったのか?」
「ちちち違いますよ! リューマさんの元気がなかったから、言うのを躊躇っていたんじゃないですか‼︎」
リューマは舌打ちしながら、フリムから離れた。
「ちっ……今日はとことんツイてないな」
「すみません……わたしがバトルアックスを奪われちゃったばっかりに……」
本当に、大変なことになってしまった。
ゲオルグは、あのバトルアックスと同じ系譜の武器を探しているらしい。
その中に、ヤツが求める〝鍵〟があるのだと。
バトルアックスを奪われさえしなければ、ゲオルグがこの街まで探しにくることもなかっただろう。
街を危険に晒した責任を一身に感じ、フリムはしゅんと俯いた。
それに気付き、リューマは面倒臭そうにため息をつく。
「……別に、あんたのせいじゃない。悪いのは、あのゲオルグとかいう半端なコウモリ野郎だろ」
「リューマさん……」
「近頃、武器ばかりを狙うモンスターが湧いていたのもヤツの仕業だろう。モンスターを使役して、商人の馬車を襲わせていた……すべては、〝鍵〟となる武器を探すために」
言われて、フリムははっとなる。
先ほど飛来したバットゴブリンの群れも、ゲオルグに操られているようだった。
知性のないはずのモンスターが、どうして武器ばかりを狙うのかずっと疑問だったが……ヤツに使役されていたのであれば納得だ。
しかしそうなると、ゲオルグの素性がますます謎である。
「リューマさん。ゲオルグは、一体何者なのでしょう?」
フリムは緊張を滲ませ、問う。
「半分人間のような奇妙な見た目。モンスターを操る能力と、人の言葉を喋る知性……あんなモンスター、見たことがありません。というよりむしろ、あれは……まるで……」
「──魔族だ」
フリムの言葉を先読みするように、
「……あれは魔族。モンスターが、かつての知性を取り戻した姿に違いない」
リューマが、低く言った。
やはりと思いながら、フリムは震える。
二百年前、魔王が討伐されるのと同時に知性なきモンスターへと堕ちた魔族たち。
それが、復活しつつあるということなのか……?
「つっても、見た通りヤツはかなり中途半端な状態だ。完全な魔族に戻ったわけではないだろう」
「そうだとしても、どうしてモンスターが知性を取り戻したのでしょう?」
「さぁな。とにかくヤツは、〝鍵〟となる武器を探していて……その所有者に、魔王城へ来ることを要求している」
そこまで言うと、リューマは街道を歩き始めた。
その後を、フリムは慌てて追う。
「って、どこに行くんですか?」
「決まってるだろ? 魔王城だよ」
「えぇっ⁈ ってことは、やっぱりリューマさん……!」
リューマはニヤリと、悪い笑みを浮かべて、
「……ああ。〝鍵〟は俺が持っている。俺が貸し出している武器は皆……元々、魔王城の武器庫にあったものだからな」
とんでもない事実を、暴露した。





