ナントカは蜜の味
──そうして二人は、リューマの部屋を離れ……
ラトゥリアの街で一番人気の、オープンテラスのカフェを訪れた。
周りは皆、高貴でお上品な女性客ばかり。
傭兵感丸出しなアーマー姿の自分に、フリムは居心地の悪さを覚えるが……
「お待たせいたしました。ハニーシロップのふわとろパンケーキと、ハニーナッツケーキ、ハニーミルクシェイクでございます」
この店唯一の男性客であるリューマは、委縮するどころか運ばれた料理に「おお~」と目を輝かせ、
「んじゃ、いただきまーす」
ハチミツたっぷりのスイーツを、ぱくぱく食べ始めた。
奢れと言われ、リューマに連れて来られたのがこの店だったわけだが……正直、意外でしかなかった。
もっとこう、わかりやすくお高い肉料理店とかに連行されるものと思っていたから。
「うお、うまっ。悪いな、こんなに奢ってもらっちゃって」
ナイフとフォークで綺麗に食べる姿もまた意外で、フリムは思わず苦笑する。
「リューマさんて甘いものがお好きなんですね。知りませんでした」
「甘いものというより、ハチミツが好きなんだ。何というか……似てるから」
「……似てる?」
フリムが首を傾げると……リューマは妖艶に笑い、
「ほら、よく言うだろ? ナントカは蜜の味、って」
「ことわざですか? すみません、わたしあまり学がなくて」
「わからないならそれでいい。とにかくハチミツは、味もいいし栄養価も高い。効率的にエネルギーを摂取できるから、好きなんだ」
なんか、冬眠前のクマのようなことを言いだした。
なんて感想は、口にせず胸の奥にしまっておく。
せっかく機嫌が直りかけているのだ、不用意な発言は避けなくてはならない。
(頃合いを見て、武器が盗まれたことを報告しないと……!)
ドキドキしながら、切り出すタイミングを見計らっていると……
「……ほい」
ふいに、リューマが、
「食いたいならそう言えよ。ほら、一口やる」
フォークに刺したパンケーキの生地を、すっと差し出した。
どうやら、フリムの緊張した視線を「食べたい」という意思表示だと勘違いしたらしい。
思いがけない申し出に、フリムは「へっ⁈」と声を裏返す。
リューマは再度フォークを突き出し、
「アゼリアから聞いてるぜ。あんたはよく食べるって。どうせあんたの奢りなんだ、遠慮すんな」
口を開けろと言わんばかりに、パンケーキを近付けてきた。
フリムは……顔面を一気に赤くする。
こんなおしゃれなカフェで、男性から、甘いものを「あーん」されるなんて……
(そんなの……なんか、デートみたい‼︎ しかも間接キスになっちゃうし‼︎)
「だ、大丈夫ですっ! 今はお腹空いていないんで‼︎」
「噓つけ。さっき腹鳴ってただろ」
「あれは、その……お腹の中で飼ってるカエルの時報で……!」
「じゃあ、その働きもののカエルに食わせてやれよ」
うう……と、たじろぐフリム。
恥ずかしい。
こんなこと、男の人にされたことない。
でも……ここはリューマの機嫌を損ねないためにも、厚意に甘えておくべきか?
「…………っ」
フリムは、胸の高鳴りを押し込めて。
おずおずと口を開け、パンケーキを食べようと、勇気を振り絞る──が、しかし、
「──人間どもに告グ‼︎」
突然、そんな声が響き渡り、フリムは固まる。
これは……聞き覚えのある声だ。
「オレの名はゲオルグ! オレは今、あるものを探していル!」
フリムはテラス席を離れ、声がした方を見上げる。
すると……
通りに連なる建物の屋根に、それはいた。
今朝、フリムから武器を奪った、あの異形のモンスターだ。
(な……なんで街中に……⁈)
戦慄するフリムの横で、リューマも「んあ?」とそれを見上げる。
他の客や通りを行き交う人々も「なんだなんだ?」と屋根を仰ぐ。
「お前らの中に──この斧と同じ系譜の武器を持っているヤツがいるはずダ!」
言って、ゲオルグと名乗る異形のモンスターは……フリムから奪ったバトルアックスを、高々と掲げた。
それを見た瞬間、リューマが「あ゛?」と顔を顰める。
自分がフリムに貸したはずの武器であることに気付いたのだろう。
……バレた。
それも、最悪な形で。
フリムは顔面蒼白になり、汗をダラダラと流す。
「これがお目当てのモノかと期待したが、とんだハズレくじだっタ……オレが探しているのは〝鍵〟となる武器。この斧と同じ、魔王城にあった武器ダ! それをごっそり盗み出したヤツが、どこかにいル‼︎」
続くゲオルグの言葉に、今度はフリムが「盗み出した……?」と漏らし、リューマが顔を引き攣らせる。
お互い、いろいろと確認が必要そうではあるが……その前に、
「〝鍵〟を盗み出した者ヨ! 三日ダ! 三日後までに魔王城へ来イ! さもなければ……この街は、我が同胞たちが喰い尽くス‼︎」
ゲオルグの声がこだまし……
それが止む頃、虫の羽音のようなものが聞こえてきた。
「な……なんだ、あれは……⁈」
誰かが指をさす。
皆が振り返り、空を見上げると……コウモリのようなモンスターが飛来していた。
「あれは……バットゴブリン⁈」
フリムは目を疑う。
その名の通り、長い腕の下にコウモリの羽を生やした、飛行タイプのモンスターだ。
彼らは夜行性で、日中は洞窟などの暗い場所にいるはず。
こんな日の高い時間帯に、人間のいる街へ飛来することなどないはずなのに……
「さぁ、デモンストレーションといこウ! 三日後までに〝鍵〟を返さなければ、この十倍の軍勢を連れて街を襲うゾ! それが嫌なら、早く持ってくることだナ‼︎」
ゲオルグは高笑いしながら翼をはためかせ、飛び去っていった。
代わりに、バットゴブリンの群れが空を覆う。
その数、約五十体。
一般人は悲鳴を上げながら逃げ出し、傭兵や魔導士は戦闘態勢に入った。
身構えるフリムの横で、リューマは背負った鞘に手を伸ばす。
「聞きたいことは山ほどあるが……とりあえず今は」
「はい……やつらの対処が、最優先です!」





