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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第5話

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下心の応酬



「りゅ、リューマさんっ。フリムです。ちょっと、お話ししたいことがあるのですが……」


 すると、部屋の中から「どーぞ……」という、いつも以上に覇気のない声が返ってきた。


 これは……本当に具合が悪いのかもしれない。

 フリムは「失礼します」と言って、扉を開けた。


 部屋は、驚くほどに質素だった。

 ベッド、クローゼット、一対のテーブルと椅子。

 あるのはそれだけ。


 そんな、がらんとした部屋のベッドの上に、リューマはいた。

 うつ伏せの状態で、枕に顔をうずめている。

 そのまま、フリムの方を見ずに言う。


「……なに」


 明らかに様子がおかしい。

 無気力で気怠げなのはいつものことだが、なんというか、元気がない。


「だ、大丈夫ですか、リューマさん? 具合でも悪いんですか?」


 扉を閉め、ベッドに近付きながら尋ねる。

 リューマは、やはり枕に顔を沈めたまま答える。


「具合は悪くない」

「じゃあ、どうして元気がないんですか?」

「悪いのは、具合じゃなくて……運気だ」


 フリムは思わず「運気?」と聞き返す。

 リューマは、ようやく顔だけを彼女に向け……こう答えた。


「……俺の描いた虫カードが、発売中止になった」

「えっ? どうしてですか?」

「最強のカードを手に入れたいあまり、ガキどもが犯罪じみた真似をし始めたんだと。今朝、保護者たちが怒鳴り込みに来た」

「そんな……ひどい。リューマさんが悪いわけじゃないのに」

「だろ? やっぱりそう思うよな? なんなんだよ、ちくしょう。闇オークションだの贋作だの、近頃のガキはマセすぎだっつうの。昔はこんなことなかったのに……」

「闇オークション⁈ 贋作⁈」

「だいたい、そういうことをしちゃいけないって教育するのが親の役目だろ。それを売り手側に責任転嫁するとか、どういう神経していやがる……リスタもリスタだ。俺一人にぜんぶ罪をなすりつけて。この歳で大人に詰められるの、まじで嫌だったんだけど」


 な……なんか……


(リューマさんが、信じられないくらい、めそめそしている……!)


 フリムは衝撃を受ける。

 いつも飄々とした彼に、こんな一面があるとは思いもしなかった。

 軌道に乗っていたカード販売事業が頓挫したことが、よほどショックだったのだろう。


 何と声をかけるべきか迷うフリムに、リューマは愚痴を続ける。


「しかもその後、占い師のばーさんから『災いをすべて祓う』っていう聖遺物を買ったんだけど……」


 言って、テーブルの上を指さす。

 そこには、手のひらサイズの木箱が置かれていた。


「これですか?」

「うん。中、見てくれ」


 言われるがままに、フリムは木箱の上蓋をパカッと開ける。

 が……


「え……空っぽ?」

「そう……中身、入ってなかった」

「入れ忘れってことですか?」

「すぐに戻ったけど、占い師のばーさんは姿を消していた」


 つまり……中身のない空箱(からばこ)を掴まされたという、詐欺被害。


「ちなみに、これ……おいくらで買ったんですか?」

「ごまん」

「へっ⁈」

「五万ゼリン……だって、すげー聖遺物だっていうから、資産になるかなって思って」


 リューマは再び枕に顔を押し付け、「はぁぁ」と息を吐く。


「俺はもう駄目だ……いつもならこんな詐欺、絶対引っかからないのに、動揺してつい買っちまった……歳かな」

「そそそそんなことないですよ! リューマさん、まだ全然お若いじゃないですか!」

「だって、空箱(からばこ)に五万だぞ? 五万あったら何ができるよ? 取りたい資格ぜんぶ取って、取得済の資格の更新費にも充てられるじゃねぇか……」

「前々から思っていたんですが、リューマさんって資格取るのが生き甲斐なんですか⁈」


 ツッコみつつも、フリムは焦る。


(どうしよう。こんなに落ち込んだ状態じゃあ「武器盗まれました!」だなんて、とてもじゃないけど言えない。なんとかして元気を取り戻してもらわないと……!)


「……あっ。でもこの木箱、よく見るとけっこうおしゃれかも? こう、素朴な感じで」

「どう見てもそこいらで拾った中古品だろ」

「と、討伐したモンスターの素材とかを入れるのにも使えそうですよね! ほら、意外と丈夫そうですし!」

「そうか。じゃあ、やる」

「え?」

「その箱、あんたにやる」


 こちらを見ずに、投げやりな声で言うリューマ。うーん、思ったよりも重症なようだ。

 フリムは、突っ伏したままのリューマの背に、そっと手を置く。


「元気出してくださいよ、リューマさん。らしくないですよ?」

「…………」

「いつもみたいにヘラヘラしていてくれないと、わたし……調子狂っちゃいます」

「…………」

「リューマさんにはいつもお世話になっているので、わたしにできることがあれば何でもしますよ。そうだ、気分転換にお散歩でも……」


 と、言いかけたところで。


「……言ったな?」


 リューマが聞き返したかと思うと……


 フリムは、背中を撫でていた手をぐいっと引かれ──

 彼の横に、倒れ込んでいた。


 要するに……ベッドの上で、添い寝をしているような状態だ。


(な……なななな、なぁああっ⁈)


 フリムは全身を赤くして狼狽える。


「本当に……何でもしてくれるんだな?」


 掴まれたままの腕。

 密着する身体。

 否が応でも感じる体温……


 うそ……確かに、勢い余って「何でもする」って言っちゃったけど……


(だからって……リューマさんが、こんなコトを求めてくるなんて……!)


 ありえない。

 だってわたし、色気とか皆無だし。

 当然、経験もないし……!


「いえ、その、それはっ……言葉の綾というか……!」

「今さらナシとは言わせないぜ?」


 リューマの深紅の瞳が、フリムに近付く。

 今まで意識したことはなかったけれど……なんて魅惑的な色をしているのだろう。


(もしかして、これが……大人の色気……?)


 早鐘を打つ鼓動に、くらっと意識が飛びそうで……


(わたし……わたし…………っ)


 と、思わず瞼を閉じかけた……その時。



「──奢って」



 ……リューマは、きゅっとフリムの手を握りながら、


「俺のこと慰めたいなら、なんかうまいモン、奢ってくれよ」


 ……赤い瞳を潤ませ、甘えるように、言った。


 フリムは……未だ止まない胸のドキドキと、困惑と、恥ずかしさに襲われ、思考がぐちゃぐちゃになり、


(わ……うわぁあああっ! そうだよね! だって、リューマさんだもん‼︎)


 そう。

 この男が、色っぽい要求などしてくるはずがなかった。


 口を開けばすぐに金、かね、カネ。

 金による心の傷は、金でしか癒せない。


 だから、必要以上に落ち込んでいるフリをした。

 フリムに、食事を奢らせるために。


(くっ……そんなんだから『モテ男検定二級』止まりなんだよ‼︎)


 しかし今回ばかりは、フリムも人のことを言えなかった。

 何故なら彼女には、「借りた武器を盗まれた」という引け目がある。

 その話をしやすくするために彼を慰めようとしていたのだから……下心があったのはお互い様なわけである。


 フリムは考える。

 ここで奢るのを拒否したら、リューマはまたうじうじモードに戻ってしまうだろう。

 そんな状態で「武器盗まれました!」などと言えば、リューマは激昂すること必至。

 ただちに殺され、貯金をすべて巻き上げられた上で臓器を売られ、罰金五百万ゼリンを死にながら支払うことになるはずだ。


 それだけは……何としてでも避けなければ。


「……わかりました」


 フリムは、覚悟を決めながら、


「食べたいもの、何でも奢りますので……早くご機嫌直してください」


 持ち合わせで足りるかな……と、内心涙を流すのだった。



 

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