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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第0話

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営業開始



『金は出せないが、他のことなら手伝ってやる。

 この街へ戻ってくるのが何年後になるかは知らないが、お前さんがギルドの立ち上げと、ウチの宿の存続に貢献してくれたことは忘れない。

「貸し武器屋」なんていう酔狂(すいきょう)な商売をまだ続けているのなら、壁沿いの一画を使いな。

 住むところがなけりゃ空き部屋も貸してやる。

 そんでまた傭兵たちをウチの宿に招いとくれ。

 共存共栄は商売のキホンだろう?

 そういうわけだから、よろしく頼むよ。

 ローサ』


 読み終えたリューマは、息を吐く。

 粗暴で商魂(しょうこん)逞しく、それでいて誰よりも情に厚い、彼がよく知るローサらしい手紙だった。


 リューマが内容をあらためたことを確認し、ローサによく似た現女将のアゼリアが言う。

 

「ということだから、この部屋は好きに使いな。もちろん、多少の家賃はいただくからね。狭いだ何だと文句を言うんじゃないよ」

「まだ何も言ってねーよ」

「にしてもお前さん、随分と身軽だね。肝心の商売道具は、運び屋にでも頼んでんのかい?」

「いいや、ちゃんと──ここにあるぜ」

 言って、リューマが斜めに背負っていた大剣用の鞘を下ろして見せるので……アゼリアは顔を顰(しか)めて聞き直す。

「って、鞘だけじゃないか。中身はどうしたんだい?」

「だから、全部こん中に入ってんだよ。ほら」


 リューマは、鞘から剣を抜くような素振りをする。

 すると、次の瞬間──眩(まばゆ)い光と共に、一振りの長剣が現れた。


 目を疑い、唖然とするアゼリア。

 だが、奇妙な現象はそれで終わりではなかった。

 リューマは何もない鞘から次々に武器を取り出す。


 双剣、大剣、槍、弓、クロスボウ、戦斧(せんぷ)、棍棒……

 そして、重々しいウォーハンマーを取り出し、床に置こうとしたところで、アゼリアはようやくリューマを止めた。


「お待ち! そんなモン置いたら床が抜けちまう! わかったから全部しまっとくれ!」

「なんだよ。中身はどうしたって言うから見せたのに」


 悪態をつき、面倒臭そうに武器をしまうリューマ。

 様々な形状の武器が光りながら鞘の中へと吸い込まれていく様に、アゼリアはやはり奇妙さを禁じ得なかった。

 

「まったく……伝え聞いていた通り、何かと非常識な奴みたいだね」

「非常識なのはあんたの方だろ。ローサの遺言があったにせよ、俺みたいな得体の知れない野郎をいきなり住まわせるなんざ、どうかしてる」

「得体なら知っているさ。それも二代目の遺言に残されていたからね。お前さんの素性は、ちゃんと理解しているよ」

 

 紅の引かれた唇を不敵に吊り上げるアゼリア。

 その笑みは、やはりローサに似ていて……リューマは呆れたように半眼になる。

 

「知ってるなら尚更、どうかしているな」

「ははっ。ここいらは最近物騒でね。モンスターが商人の馬車を次々に襲っている。これまでにない数と頻度で、傭兵たちも困り果てているが……お前さんの武器がありゃ、それも解決するかもしれない」

「なるほど。俺の素性を差し引いてでも、『貸し武器屋』としての需要があるんだな」

「そういうことさ」

 

 アゼリアは肩をすくめ、廊下に向かう。

 

「それじゃあ早速、『貸し武器屋』の営業を開始してもらおうかね。おーい、リスタ! リスタはいるかい?」

 

 アゼリアが廊下の向こうへ呼びかける。

 直後……たったったっ、という軽やかな足音が近付いてきた。

 

「例の『貸し武器屋』が来たよ。外の場所を案内してやっとくれ」

 

 アゼリアが言うと……扉の陰から、小さな頭がひょこっと覗いた。

 アゼリアと同じ翠(みどり)色の瞳を持つ、七歳くらいの少女だ。

 二つに結った茶髪を揺らしながら、不思議そうにリューマを見上げている。

 

「孫のリスタ。ウチの看板娘だよ」

 

 アゼリアの紹介に、リューマは「へぇ」と言いながらリスタの前にしゃがみ、

 

「リューマだ。よろしくな、看板娘さん」

 

 と、柔らかな口調で挨拶した。

 リスタは、ぱぁっと顔を綻ばせ、愛らしく笑って、

 

「わぁ……よろしくね、『招き猫』兼『番犬』のおにーさん!」

 

 ……という、よくわからない呼び名を口にした。

 リューマは目を点にし、念のため聞き返す。

 

「ん……? 招き猫、兼、番犬?」

「だって、ウチでは代々そう伝わっているよ? すごい武器を貸し出して傭兵のお客を呼び寄せる『招き猫』で、何かあればなんやかんやで戦ってくれる強い『番犬』だって。『超使い勝手のいいあんちゃんだから、戻ってきたら絶対離すな!』。それが二代目が残した家訓なの!」

 

 ……ローサの奴め。好き放題言い残しやがって。

 苦笑したのも束の間。リスタはリューマの手を引き、駆け出す。


「来て! 『貸し武器屋さん』をするのにぴったりな場所があるから!」

 

 そのまま外に出て、宿の側面──ギルドのテントに面した場所まで連れていかれる。

 そこには、鮮やかな花の鉢がいくつも置かれていて……ストライプ柄の可愛らしいひさしがかかっていた。


「ここを使って! いつか来るあなたのために用意しておいた場所なの! 雨の日でもひさしがあるから、へっちゃらでしょ?」


 言いながら、レバーを回してひさしを伸ばすリスタ。

 それを見上げ……リューマは思い出す。


『貸し武器屋』を始めたばかりの頃、ローサがオンボロな宿の壁面に、ひさしを付けてくれたことを。


『──この街を救う武器が、雨で錆びちまったら世話ないだろ?』


 あの時ローサはそんな風に言っていたが、本当は知っていたはずだ。

 リューマの貸し出す武器が、錆とは無縁であることを。


 それでも、わざわざひさしを付けたのは……リューマが雨に濡れないためだったのだろう。

 そして、宿屋を建て替えた後にもひさしを付けるよう、子供たちに残した。

 いつ戻るのかもわからないリューマのために。


 遺されたその精神(おもい)を理解し、リューマは……


「……ったく。つくづく、敵(かな)わねーよ」

「えっ? なにか言った?」

「なんでもねぇ。ひさし、出してくれてありがとな。それじゃあ──」

 

 リューマは、ひさしの下のレンガ畳みに敷き布を広げる。

 そして、鞘から取り出した様々な武器を並べ、ドカッと座る。

 最後に、手書きの立て看板を目立つ場所に置き……



「──『貸し武器屋リューちゃん』。営業開始だ」



 新天地での商いを、揚々と始めた。



 

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