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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第4話

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歌神の指揮棒



 フリムとリューマの背中を見送り、ミレイユは『魔劫(まごう)結晶』探しを再開する。


(あの貸し武器屋、この長杖(スタッフ)があれば『結晶』が手に入るって、妙に確信めいたことを言っていたけれど……何を根拠にそんなことを?)


 疑問を抱きながら進んでいくと、またゴブリンに出くわした。

 今度は二体。

 モンスターに遭遇するのはこれで五度目だ。今日はやけに鉢合わせる。


 ミレイユは今回も冷静に雷(いかずち)の魔法を放ち、ゴブリンを塵にした。

 そうして残された牙や爪を拾っている間に、また魔界産の虫やトカゲが寄ってくる。


(外来種も異常なほど集まってくるし……この長杖(スタッフ)が光ってからずっとこの調子だわ。やはり、何か特殊な作用が働いている……?)


 とりあえず、虫とトカゲをシャボン玉の魔法で捕獲すると──そのシャボンが、黒く染まった。

 ミレイユの身体が、何者かの影に覆われたのだ。


「え……?」


 ゴゴゴゴ、と音を立て、せり上がる岩の塊。

 ミレイユの背後、地面から現れたのは……岩の身体を持つ、巨大なゴーレムだった。


「なっ……ゴーレム⁈」


 自身の五倍はあろうかという巨体を見上げ、ミレイユは長杖(スタッフ)を構える。


 ゴーレムは、希少性の高いモンスターだ。

 大陸全土の記録で見ても出没件数が少なく、そのほとんどが魔王城の付近に集中している。


 まさか、この樹海に現れるなんて……

 と、困惑しそうになる精神を、ミレイユはすぐに律する。

 そして、


「──白き雷鳴(ケラヴノス)!」


 これまでと同じように、雷(いかずち)の魔法を放った。

 しかし、ゴーレムは無傷。

 ズシン、ズシンと地面を揺らしながら、ミレイユに迫ってくる。

 

(うそ……全身が岩だから、電流を受け流しているの⁈ ならば……!)


「──青き氷槍(アルクティカ)!」


 文字通り、氷でできた槍を顕現させる。

 通常なら一度に五本が限度だが、長杖(スタッフ)により強化されているためか、二十本以上の槍が現れた。


 ミレイユは長杖(スタッフ)を振るい、一斉にゴーレムへ放つ。

 が、これも効かない。

 硬い岩の身体に阻まれ、あえなく砕け散ってしまった。


 ミレイユは後退しながら、次々に魔法を放つ。


 風の刃(やいば)。

 水の波動砲。

 蔓の拘束。


 どれも長杖(スタッフ)により威力が増幅されているが、それでもゴーレムは止まらない。

 樹々をなぎ倒しながら着実に迫ってくる。


(くっ……残る手段は……)


 ゴーレムの身体よりも硬い鋼鉄を生成し、衝突させる。

 そうして粉々にできれば、倒せるだろう。

 けれど……


(岩を砕くほどの硬度を生成するには、かなりの精神力が必要……一度距離を取って、集中しなくちゃ)


 ゴーレムから逃げながら、ミレイユは精神統一を始める。

 そして、頭の中に頑強な金属の塊を思い浮かべ、その密度や重さまでを詳細に想像する……が、その時。


「きゃっ……!」


 蔓延る樹の根に足を取られ、ミレイユは転倒した。

 白亜の長杖(スタッフ)が手から離れ、カランと転がる。


 そこへ迫り来る、ゴーレムの影。

 ズシン、ズシンと、地面が振動する。


「あ……」


 駄目だ、やられる。

 絶望に包まれ、ミレイユは震える。


(ルミア……ごめんなさい……っ)


 涙を浮かべた目を、ぎゅっと閉じた────刹那。



「──『勇者ユーリス』、参上!」



 ……そんな声が響いたかと思うと。

 直後、ゴーレムの身体にいくつもの斬撃が走り……その巨体がガラガラと崩れ落ちた。


「なっ……」


 ミレイユは目を見張る。

 崩落したゴーレムの向こうに立っていたのは……一人の青年だった。


 年齢はミレイユよりも少し上だろうか。

 風に靡く金髪に碧い瞳。

 爽やかな顔立ちが印象的な、剣士だ。


「あ、あなたは……」

「僕の名は『ユーリス』! 現代の勇者だ! 覚えておいてくれ!」

「はぁ……」

「ところでお嬢さん! 僕はこの森にある魔王城を探しているのだが、数日走り回っても一向に見つからない! どの辺りにあるかご存知ないか⁈」

「いや、魔王城はここじゃなくタシナの森に……」


 と、ミレイユが困惑しながら答えようとするが……崩落したゴーレムの残骸が、ガタガタと振動した。

 そして、頭部を中心に集まり始める。


(まさか、再生しようとしている……⁈)


 ミレイユが身体を強張らせると、ユーリスが叫んだ。


「頭だ!」

「え……?」

「こいつの核(コア)は頭部だ! 魔法で破壊しろ!」


 ミレイユは、はっとなる。

 そして、転倒により手放した白亜の長杖(スタッフ)を拾い上げ、中断した集中を再開させる。


(岩より重く、鉄より硬きもの……!)


 ミレイユは、長杖(スタッフ)を掲げ──


「──赤き鋼鉄(メタレヴマ)‼︎」


 力ある言葉を、高らかに響かせた。


 ゴーレムの上に、巨大な鉄球が顕現する。

 それは、木漏れ日を反射しながら垂直に落下し……


 ──ドガァアアッ‼︎


 ゴーレムの頭部を、粉々に破壊した。


 ゴーレムは再生することなく朽ち……砂のようにサラサラと消えていった。


「……終わった……」


 ミレイユは、安堵の吐息を漏らす。


 それにしても、今の鉄球……大きさも威力も想定以上だ。

 やはりこの長杖(スタッフ)、普通ではない。


 と、顔を上げるミレイユの目に、不思議な光が映り込んだ。

 崩れ去ったゴーレムの残骸の中心──核(コア)である頭部があった場所に、宝石の欠片のようなものが落ちていた。


 その輝きは虹色に煌めいていて……これまでに見たどの鉱石にも似ていない。


「まさか……!」


 ミレイユは駆け寄り、その石を手に乗せる。


 七色の光を放つ、美しい結晶……

 間違いない。これこそが、探し求めていた『魔劫(まごう)結晶』だ。


「つまり……『魔劫(まごう)結晶』は、ゴーレムの核(コア)ってこと?」


 ならば、ゴーレムを討伐すれば……より多くの『魔劫(まごう)結晶』を手に入れられる?


「いやぁ、危ないところだった。ところで、お嬢さん! 魔王城はどこにあるだろうか?」


 考え込むミレイユに、ユーリスが爽やかに問う。

 ミレイユは立ち上がりながら、彼の方へ振り返り、


「……ここじゃないわ」

「え?」

「……私も、魔王城の方に行く用事ができた。行きたいのなら……一緒に連れていってあげる」


 その瞳に、狂気にも似た興奮を滲ませながら……

 彼女はにこっと、笑うのだった。




 ◇◆◇




「──返却するわ」


 翌日。

 ラトゥリアの街に戻ったミレイユは、リューマの店を訪れた。


 差し出された白亜の長杖(スタッフ)を受け取り、リューマが尋ねる。


「その様子、お目当ての『魔劫(まごう)結晶』は手に入ったんだな?」

「まぁね。あなたの言った通りだったわ」


 そして、ミレイユは疑問を……否、街へ帰還するまでに導き出した仮説を投げかける。


「この長杖(スタッフ)……『精神生命体を呼び寄せる能力(ちから)』があるのでしょう?」


 すると、リューマは……何故か嬉しそうに笑って、


「へぇ、よくわかったな。そう。これは魔族や精霊を統率する杖──『歌神(ミューズ)の指揮棒(タクト)』だ」

「ミューズの、タクト……?」

「本来ならば名前の通り、魔族を指揮する力を持っていたんだが……魔族が知性なきモンスターと化した今、呼び寄せることしかできなくなった。まぁ、魔導士としては充分にありがたい性能だろう。勝手に精霊を集めてくれるから、魔法の威力が格段に上がるしな」


 やっぱり。と、ミレイユは思う。


 この長杖(スタッフ)が光を放ってから、モンスターが異様な頻度で現れ、地中に眠っていたゴーレムまで呼び覚まされた。

 加えて、魔法の威力の爆発的な向上。

 それらはすべて、この長杖(スタッフ)が持つ『精神生命体を呼び寄せる』という性質に起因するものだったのだ。


「にしても、副作用で魔界産の生き物まで集まってくるとは知らなかった。おかげで俺もお目当ての虫がゲットできたよ。あんたがそいつに認められる器で本当によかった」


 そいつ? 器?

 一体、何を言っているの?


 だいたい、なんでこんな特殊な武器を所有し、貸し出している?

 口ぶりからして、ゴーレムの核(コア)から『魔劫(まごう)結晶』が採取できることも知っていたようだ。

 そんなの、これまでに読んだどの魔導書にも載っていなかったのに。


 わからない……この男、本当に何者?


 という疑念をたっぷり込めた目で睨み付けるが、リューマはニッと目を細め、


「よかったらまた借りにきてくれよ。これ、スタンプカード。名前は……」

「ミレイユよ」

「そうそう。ミレイユ、っと……ほい。今後もごひいきに」


 そう言って、カードを差し出してくる。

 その表情はやはり覇気に欠け、警戒心を抱くことすらバカバカしくなるようで……


 ……まぁいい。気になることはじっくり研究する質(たち)なのだ。

 今後も店に通って、この男の素性を徐々に暴いていくとしよう。

 

 ミレイユはスタンプカードを受け取り、ポケットの中へそっとしまった。


「早速なんだけれど……私、これから魔王城の周辺を探索しに行くの。それに見合う杖、何かないかしら?」

「ほう? 追加でゴーレムを狩るのか。なら……この辺りがいいかな」


 言って、昨日と同じように空(から)の鞘から長い杖を抜き放つ。

 この仕組みも、やはり謎だ。


 リューマが取り出したのは、木製の長杖(スタッフ)。

 年季が入っているように見えるが、造りはしっかりしていて、上質な木材が使われていることが窺える。


「……これには、どんな能力(ちから)が秘められているの?」

「それは使ってみてからのお楽しみだ」

「またそれ?」

「謎めいた部分を残した方が興味が惹かれるだろ? お客さんにまた来てもらうための心理テクニックだよ」


 なんて、ドヤ顔で言ってのける。

 なんとも腹の立つ返答だが……実際興味を惹かれてしまっているので、二倍ムカつく。


「……まぁいいわ。はい、サイン」

「へへ。まいどあり」


 契約書にサインをすると、ミレイユは長杖(スタッフ)を手に踵(きびす)を返す。

 そして、離れたところで待っていたユーリスに近付き、


「お待たせ。それじゃあ──行きましょう。魔王城へ」


 ローブの裾を翻(ひるがえ)しながら、タシナの森へと歩き始めた。



 

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