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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第4話

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甘〜い誘惑……?



「うわぁぁああああリューマさん⁈ なんでここに⁈」


 突然、飛び出してきたリューマに驚くフリム。

 そんな彼女を跳び越え、リューマは虫とネコの間に、ザンッ! と大剣の刃(やいば)を突き立てた。


「ミギャアァアアッ⁈」


 びっくりして飛び退くネコ。

 同じく羽を広げ、飛び立つ虫。

 そのままどちらも逃げていくので、フリムは「ああーっ!」と声を上げる。


「もうっ! せっかくオリバーくんを見つけたのに! 何てことするんですか!」

「俺が探してた虫を狩ろうとしてるから止めただけだ」

「やり方が乱暴すぎるんですよ! 結局どっちも逃げちゃったじゃないですか!」


 ブブブ、と羽音を立てながら飛び去る虫。

 それを追うように、ネコのオリバーは樹海の奥へと駆けていった。


「あンのネコ、俺の虫をまだ狙っていやがる」

「待ってください、リューマさん! まずはオリバーくんを捕まえさせてください!」

「ンな悠長なこと言ってたら『ゴウトウサツジンクワガタ』が殺(や)られるだろうが!」

「強盗殺人クワガタ⁈ それ殺(や)られるのオリバーくんの方では⁈」


 ゴウトウサツジン……もとい、コンゴウリュウジンクワガタを追うネコのオリバーと、それを追うリューマとフリム。

 二人は岩と樹の根ででこぼこな足場をひょいひょい進んでいく。


「なんであの虫を追ってるのか知りませんが、邪魔しないでください! 大事な依頼の真っ最中なんですから!」

「あんたこそ俺の商売の邪魔をするな。あの虫が手に入るかどうかで今後の売り上げが決まるんだからな!」


 言い合いながら樹海を駆けていくと……少し先の樹に、再びコンゴウリュウジンクワガタがピタッと留まった。

 ネコのオリバーも、それを狙うように樹の下で足を止める。


 フリムとリューマは刺激しないよう少し離れた樹の陰に隠れた。


「よしっ、捕獲チャンス! リューマさんはここでじっとしていてくださいね!」

「だから、じっとしてたらあのネコに虫が食われるだろうが」

「その前にオリバーくんを捕まえるので大丈夫ですよ!」

「いーや、ネコを捕まえている間に虫が逃げるね。やはり先に行かせてもらう」

「だめですってば! リューマさんのやり方じゃさっきみたいに両方逃げられるのがオチです!」


 話し合いは平行線。

 そこで、リューマはピンとひらめき、


「あんた、俺がやった『木霊(こだま)の札(ふだ)』はどうした?」

「えっ? ここにしまってありますけど……」

「こうしよう。あんたはここでその札を使ってネコをおびき寄せる。その間に俺はあの樹の裏に回って虫をこっそり捕まえる。そうすれば、互いの獲物がゲットできる」

「それができるなら一番いいですが……この札、本当に効果あるんですか?」

「当たり前だろう。オスなら誰もが飛びつくような、甘~い誘惑を吹き込んでおいたからな」

「……ちなみに、ネコ語で何て言ってるんです?」

「『うっふ~ん。絶対に稼げるいい儲け話があるんだけど、一口乗らな~い?』、だ」

「それに誘われるのリューマさんだけですよ! やっぱり五千ゼリン無駄にしたぁっ‼︎」


 などと、不毛なやり取りをしていると……

 コンゴウリュウジンクワガタが、再び樹海の奥へと飛んでいってしまった。

 ネコのオリバーもそれを追い、駆けていく。


「ああっ、また逃げちゃいました!」

「くそっ、こうなったら直接ネコ語で誘惑して……」

「絶対に無意味なのでやめてください‼︎」


 リューマのワードセンスを全否定しながら、フリムは樹々をかき分け走る。

 そうして虫、ネコ、フリムとリューマの順で樹海を突っ走っていると……


 前方に、人が現れた。

 白い長杖(スタッフ)を携えた、魔導士の少女──ミレイユだ。


「あんなところに人が……?」

「げっ。今朝のお客さん」


 装いと長杖(スタッフ)を見て、リューマはミレイユであることを認識する。


「ん……?」


 後方から迫る気配を察知し、ミレイユがぱっと振り返った。


 揺れる銀の長髪。

 藍色の瞳が、飛んでくるコンゴウリュウジンクワガタを映す。


 突如として飛来した黄金の虫に、ミレイユは「きゃっ」と驚く。

 さらにその瞳が、後に続くネコと、リューマとフリムの姿を捉えた。


 直後、


「捕まえろ!」「捕まえてください!」

「へっ⁈」

「その虫を!」「そのネコを!」

「捕まえろ‼︎」「捕まえてください‼︎」


 血走った目で叫ぶリューマとフリム。


 ミレイユは混乱する。

 よくわからないが、二人の形相からただ事ではない雰囲気を感じ、


「──束縛の泡(ブルーラ)!」


 言われるがまま、捕縛の魔法を発動させた。


 コンゴウリュウジンクワガタとネコのオリバーが、シャボン玉に包まれて浮遊する。

 それを目の当たりにしたフリムとリューマは、キキーッと足を止めた。


「わぁ……魔導士さんだったんですね。ありがとうございます!」

「あなたたち、一体何なのよ? って、そっちの人は……」

「よっ、お客さん。今朝ぶりだな」

「リューマさん、お知り合いですか?」

「ああ。その杖を貸したお客さんだ」


 リューマの紹介を聞き、フリムは人懐っこい笑みを浮かべながら手を差し出す。


「はじめまして。傭兵のフリムといいます。そのネコちゃんを捕まえる依頼を受けていたので、本当に助かりました!」


 その笑顔を少し眩しく思いながら、ミレイユはおずおずと握手に応じた。


「魔導士のミレイユよ。お役に立てたのなら何より」

「ミレイユさん……あれ? どこかでお名前を聞いたような……あーっ‼︎」


 突然の大声に驚くミレイユだが、フリムは構わずぐいっと近付き、


「ギルドでよく採取依頼を出されている方ですよね⁈ わたし、ナジュムダケを納品した者です!」

「ああ、あなたが集めてくれたの。あれ、かなり状態がよかったわ。ありがとう」

「いえいえ、それほどでも~」


 後ろ頭を掻きながら照れるフリム。

 そこに、リューマが口を挟む。


「んで? 魔道士サマはお目当てのモノ、見つけられたのか?」


 言わずもがな、『魔劫(まごう)結晶』のことであるが……ミレイユは静かに首を振る。


「いいえ、まだよ。副産物はまぁまぁ手に入ったのだけれど」

「何か探されているのですか? オリバーくんを捕まえてくれたお礼に、お手伝いしますよ?」

「結構よ。それより、その捕縛の魔法、もうすぐ効果が切れるから。しっかり捕まえて、さっさとギルドに戻りなさい」


 ミレイユに淡々と返され、フリムは慌ててオリバーを閉じ込めているシャボン玉を抱き寄せた。

 同じくリューマも、コンゴウリュウジンクワガタ入りのシャボン玉を捕まえて、


「その長杖(スタッフ)があれば、お目当てのモノもじきに手に入るはずだ。返却期限までじっくり探すといい」


 そんなことを口にするので、ミレイユは訝(いぶか)しげな顔をする。


「……どうして『手に入る』と言い切れるの?」


 すると、リューマは不敵に笑って、


「なぁに、その内わかるさ。先に答えを知っちまったら、研究の醍醐味がなくなるだろ? 優秀な魔導士サン」


 口元に人差し指を当てながら、そう言った。

 その胡散臭い返答に、ミレイユはますます不信感を募らせる。


「……まぁいいわ。とにかく、用が済んだのならさっさと帰って。仕事の邪魔だから」

「お邪魔してすみません。では、わたしたちはこのへんで。行きましょう、リューマさん」


 フリムは最後にもう一度「ありがとうございましたー!」と手を振り、リューマと共に帰っていった。


 

 

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