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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第4話

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ターゲット、発見!



 その少し後。


『──ぐるるゥにゃぁあぉお』


 リューマのネコボイスを振り撒きながら、フリムはアグリオ樹海を進んでいた。


 リューマから五千ゼリンで買った『木霊(こだま)の札(ふだ)』は、背負ったハンマーに貼り付けている。

 繰り返し発せられるこの鳴き声を頼りに、迷いネコのオリバーが寄ってきてくれないかと、あてもなく歩き回っているわけだが……


『──ぐるるゥにゃぁあぉお』

「……これ、結局ネコ語で何て言ってるんだろう? 『メスの甘い誘惑を真似する』とか何とか、リューマさんは言ってたけど……」


 正直、あのリューマから『甘い誘惑』の言葉が発せられるのは、想像がつかなかった。


 佇まいも喋り方も無気力で、口を開けば「金、かね、カネ」。

 優しさを覗かせたかと思えば、すかさず代価を求める守銭奴ぶり。

 どう見ても恋愛には向かない性格だ。

 まぁ、恋愛経験のないフリムも人のことは言えないのだが。


(あ、でも、フリズモス神殿で助けてくれた時、『モテ男検定二級』の資格を持っているとか言っていたような……)


 それじゃあ、意外と恋愛偏差値は高いのか?

 なんて一瞬考えるが……フリムは、すぐに気が付く。


 リューマが持つ、得体の知れない資格の数々。

 これまで聞いた限りでは、すべて『一級』の資格を持っている様子だったが……


(もしかして……『モテ男検定』だけ『二級』止まり⁈)


 そうだ。他のことはわりとなんでも器用にこなすのに、恋愛絡みの検定だけは『二級』に留まっているのだ。

『モテ男検定』がどの程度の権威がある資格なのかもわからないし、そもそも真のモテ男はそんな検定すら受けないのでは? というツッコミは置いておいて。


(そう考えると……この『甘い誘惑』ボイスも、あまりあてにはできないなぁ)


 背中から発せられる『ぐるるゥにゃぁあぉお』を聞きながら、苦笑いしていると……


「……ん?」


 視界の先で、何かがキラリと光った。

 高い樹の幹に、金色に輝く何かが張り付いている。


「あれって……虫?」


 そう。虫だ。

 黄金の羽を持つ甲虫。


 遠目に見ても、まぁまぁな大きさであることが伺える。

 フリムの手のひらくらいのサイズはあるのではないだろうか?


「うわぁ、あんな金ピカの虫がいるんだ。リューマさんのお店に集まってる男の子たちが見たら喜びそうだなぁ」


 と、呑気な感想を口にした直後……その樹の根元で、何かが動いているのを見つけた。

 咄嗟に、フリムは近くの樹の陰に隠れる。


(もしかして、モンスター……?)


 そう思いながら、こそっと様子を窺うが……モンスターにしてはやけに小さく、細い。

 何というか……小動物の尻尾のように見える。


(……えっ?)


 まさかと思い、目を凝らすと……それは、ネコの尻尾だった。


 オレンジ色の美しい毛並み。

 緑の瞳。赤い首輪。

 すべての特徴が、ギルドで見た依頼書の内容と一致している。


 見つけた……アビタニア卿の飼い猫、オリバーだ。


 オリバーは、樹に留まる黄金の虫をじっと見上げていた。

 ネコの狩猟本能がくすぐられているのか、今にも樹を上っていきそうな雰囲気だ。


 ひょっとして、お金持ちの家のネコだから、光るものに目がないのだろうか。

 移動中の馬車から逃げ出したのも、この虫を捕まえるためだった、とか?


 などと考察していると、背後で木霊(こだま)の札が『ぐるるゥにゃぁあぉお』と鳴くので、フリムは慌ててハンマーから剥がし、ポケットにしまった。


(結局この札、全然必要なかったし!)


 五千ゼリンを無駄にしたことを悔やみつつ、フリムは息を潜める。


 オリバーは黄金の虫に夢中で、こちらに気付いていない。

 このままこっそり近付けば捕まえられるはずだ。


 フリムは、鞄から麻袋を取り出す。

 そして、気配を殺し……オリバーの背後に近付いた。




 ◇◆◇




 それとほぼ同時刻。


「くそ……どこにいるんだ、【最強のムシ】……」


 虫捕り網を握り締めたリューマが、アグリオ樹海をずんずん進んでいた。


 せっかく【ムシ列伝カード】が流行っているのに、真の【最強】がカードになっていないとなれば、売り上げが落ちることは必至。

 何としてでも捕まえて、精巧なスケッチをとらなければ。


「【最強】っていうからには、それ相応の見た目をしているはずだ……きっと見たこともないくらいにハデで厳ついに違いねぇ」


 と、その見た目を知らないため、自らが想像した『さいきょうのむし』の姿を頼りに探しているわけだが……

『虫はかせ検定一級』の知識を生かし、甲虫が好みそうな樹木の周りを探してみるも、なかなかそれらしき虫は見つけられなかった。


「ちっ……虫たちが活発になる夜まで待つしかないか?」


 なんて、持久戦に持ち込む考えを口にした……その時。


『──……ゃぁあぉお』


 ……そんな奇妙な声が、遠くの方で微かに聞こえた。


「……ん?」


 リューマは顔を顰(しか)め、そちらに向かう。


 声は断続的に聞こえてくる。

 鬱蒼と茂る樹々の先をじっと観察すると……見覚えのある人物が、そこにいた。


 フリムだ。樹の陰に隠れ、何やらコソコソしている。

 聞こえていたのは、リューマが木霊(こだま)の札に吹き込んだネコの声真似だったらしい。


 ……ちょうどいい。フリムにも虫探しを手伝わせよう。

 こちらもネコ探しを手伝うと言えば、悪い顔はしないはずだ。


「にしても……何をコソコソしているんだ?」


 近付きながら、フリムの視線の先を見ると……樹の下に、ネコがいた。

 どうやらフリムは既に捜索対象を見つけていたらしい。


 リューマはガクッと肩を落とす。


「ンだよ。これじゃあ虫探しを協力させる口実がなくなって……」


 ……そこで。リューマは、ようやく気が付く。

 ネコが見上げる樹の上に……黄金に輝く甲虫がいることを。


 重厚感のあるボディ。

 硬く艶やかな外殻。

 ノコギリのような二本の顎……

『虫はかせ検定一級』保持者のリューマでも見たことのない虫だ。


 ……間違いない。

 例の、【最強】な新種である。


「まじかよ、超ラッキーじゃん。早いとこ捕まえて……」


 だが、喜ぶリューマをよそに──

 ネコが爪を立て、樹によじ登り……黄金の虫を捕まえようと迫っていた。


 瞬間、リューマは背負った鞘から大剣を抜き放ち、


「させるかぁぁああああッ‼︎」


 ネコに向かって、飛び掛かった。



 

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