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【電子書籍化】元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業します!  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第4話

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アグリオ樹海



  ──アグリオ樹海は、ラトゥリアの街の西側に位置している。

 馬車を降りた魔導士ミレイユは、リューマに借りた白亜の長杖(スタッフ)を手に、樹海の中を進んだ。


 普通の森と違い、足元には溶岩質の地面が広がっている。

 そこに雨風で土が堆積し、できあがった薄い土壌に草木が根を張っている。


 よって、足元が非常に悪い。

 黒い溶岩と、その上を這う樹々の根で、どこもかしこもデコボコだ。

 裾の長いローブと革のブーツという装いのミレイユには、とことん相性の悪いフィールドといえる。


 空を飛び交う鳥の声。吹き抜ける風の音。

 頭上を覆う葉の間から陽の光が差し、カーテンのように揺れている。


 見渡す限りの樹、草、溶岩。

『魔劫(まごう)結晶』らしきものは、どこにも見当たらない。


 もう少し情報を整理してから来るべきだったと、ミレイユは反省する。


 ……いや、これでいい。

 どうせ調べたところで、大した情報など出てこないのだ。


 とにかく現地を調査すること。

 これが採掘への一番の近道だ。


(……そうよ。私にはあまり、時間がないのだから)


 ミレイユは、長杖(スタッフ)をぎゅっと握る。


 何としてでも、『魔劫(まごう)結晶』を手に入れる。

 そうすれば……そうすれば、きっと……


 ──と、その時。

 白亜の長杖(スタッフ)が、ミレイユの手の中で、ぱぁあっと光を放った。


「な……何……⁈」


 驚きながらも長杖(スタッフ)を観察していると……光は次第に弱まり、静かに収まった。

 怪訝な表情で見つめるも、それ以上は何かが起こる様子もない。


「……あの店主といい、何なのよ、この杖」


 ミレイユは気を取り直し、『魔劫(まごう)結晶』の捜索を再開した。

 すると、


「……ん?」


 珍しい色の蝶がミレイユの方へ飛来し、長杖(スタッフ)の上に留まった。

 銀色と紫色の美しいグラデーションに、三日月のような形の黄色い模様。


 シラツキジャノメチョウ。

 二百年前、魔王軍が攻めてきた折に魔界から入り込んだ外来種だ。


 それに気付いた途端、ミレイユは目を輝かせ……


「──束縛の泡(ブルーラ)!」


 魔法の呪文を唱えた。

 

 直後、シラツキジャノメチョウは虹色のシャボン玉に捕えられた。

 それを手のひらに浮かべ、ミレイユは呼吸を荒らげる。


「魔界産の昆虫っ……こんな簡単に捕まえられるなんて……!」


 そう言っている間に、もう一匹。今度は別の虫が長杖(スタッフ)に留まった。

 赤と紫の強烈な警告色を持つ、足の長い昆虫──


「ま、マダラシュリョウバッタ! これも魔界産っ!」


 同じようにシャボン玉の魔法で捕獲するミレイユ。

 さらに、今度は足元で何かがピョンと跳ねた。

 思わず足を上げて見下ろすと、


「こっちはガンセキアオガエル! 束縛の泡(ブルーラ)!」


 やはり、すぐに魔法で捕らえる。


 何ということだろう。

 長杖(スタッフ)が不思議な光を放った途端、魔界産の外来生物が次々に現れた。


 これは……この長杖(スタッフ)が齎した効果?

 あるいは、偶然か?


(生物を呼び寄せる魔法なんて聞いたことがないし……きっと偶然ね)


 もしかすると、このアグリオ樹海は魔界産生物の宝庫なのかもしれない。

 そうと決まれば……手当たり次第に、お持ち帰りだ。


 ミレイユは「うへへ」とよだれを垂らしながら、捕えた三匹をバッグにしまい、「いざ!」と振り返る。

 そうして、樹海の奥へと踏み出そうとしたところで、


「──グギャギャアッ!」


 目の前に、三体のゴブリンが立ちはだかった。

 って……

 

(いつの間に⁈ さっきまでいなかったのに……!)


 驚いたものの、ミレイユはすぐに冷静さを取り戻す。

 精神生命体である精霊を扱うには、精神の安定が欠かせないからだ。


 敵は三体。それぞれ手に短剣を持っている。

 ここは樹々が生い茂る森の中。炎の魔法は殺傷能力が高いが、延焼する恐れがあるため使えない。

 風で吹き飛ばすのもあまり意味がない。

 水と氷を駆使して凍結させるのはアリだが、モンスターの素材をすぐに回収したいミレイユとしては極力避けたいところ。

 ならば……


 ミレイユは、白亜の長杖(スタッフ)に意識を集中させ──


「──白き雷鳴(ケラヴノス)!」


 雷(いかずち)の魔法を発動させた。

 対象の頭上から一直線に雷を落とす術だ。


 三体のゴブリンの上に、白く瞬(またた)く電流が集まる。

 刹那──

 

 ──バリバリバリ……ドォォオオオンンッ!!


 ……想定の五倍の威力で、雷が落ちた。


「へっ?」


 ミレイユが素っ頓狂な声を上げる。

 ゴブリンたちは瞬時に消し炭となり、手にしていた短剣と、数本の牙だけが、乾いた音と共にその場に落ちた。


 今のは……本当に自分が発動させた魔法か?

 平静に努めたとはいえ、奇襲を受けたミレイユの精神状態は万全ではなかった。


 それなのに、この威力。

 もしかしなくても……


「この長杖(スタッフ)による、威力の増幅……?」


 魔法の威力は使役した精霊の多さで決まるが、前述の通り精霊は意思疎通のできない不可視の存在だ。

 この場にどれほどの数が浮遊しているのかもわからないため、精霊の数が不十分であれば望む魔法が顕現しないことだってある。

 

 それなのに、今の威力を瞬時に発揮したということは……相当な数の精霊を集め、的確に使役する能力(ちから)が、この長杖(スタッフ)には込められているということ。


 こんな代物を、たった二千ゼリンで貸しているなんて……あの店主、ますます謎だ。


(他の杖にも妙な性能が秘められているのかしら……ちょっと気になるわね)


 とりあえず、ゴブリンの素材も手に入った。

 思いがけない収穫に恵まれているが、『魔劫結晶(ほんめい)』はまだこれから。


 この調子なら……きっと手に入るはず。


 ミレイユは長杖(スタッフ)を握り直し、アグリオ樹海のさらに奥へと、足を踏み出した。



 

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