迷いネコの捕獲依頼
──時を同じくして。
ギルドのカウンターでは、フリムが涙を浮かべ、唸っていた。
「ルルさぁん……いい依頼、何かないですかぁ……?」
ヘムル山の麓の雨林から帰還して数日。
モンスターの討伐依頼はあらかたこなしてしまい、絶賛お仕事募集中の状況である。
「そうですねぇ……あっ、教会の修繕依頼がきていますよ?」
「逆に破壊しちゃうんで無理ですぅ……」
「では、こちらのリンゴの収穫依頼は?」
「もぎ取った瞬間にリンゴジュースにしちゃいそうで怖いですぅ……」
「うーん……でしたら、こちらはいかがでしょう?」
そう言ってルルが提示したのは、少し変わった依頼だった。
「ネコの、捕獲依頼……?」
「はい。依頼主の方が飼っているネコちゃんが移動中の馬車から逃げ出し、行方不明になっているそうです。名前はオリバー。二歳、オス。場所は、アグリオ樹海にほど近い街道。報酬は、五万ゼリンです」
「ごごご、五万ゼリン⁈」
依頼書を引っ掴み、驚愕するフリム。
一般的なモンスターの討伐報酬でも一万から五万ゼリンが相場なのに、ネコを一匹捕まえるだけでそんなにもらえるなんて……
耳を疑うフリムだが、依頼主の情報を見て納得した。
アビタニア卿──アグリオ樹海を含む西側地域一帯を治める領主の名だ。
「なるほど……お偉いさんが飼っているネコちゃんの捜索なのですね」
「はい。アグリオ樹海にはモンスターや外来生物が多く生息しているため、捕獲が難航しているようです」
確かに、広大な樹海でたった一匹のネコを探すなど、どんな傭兵にとっても難しい依頼だろう。
そこにモンスターもいるとなれば尚更だ。
しかし……そんな特異な依頼こそ、フリムにはうってつけ。
何故なら彼女には、頼りになる〝ビジネスパートナー〟がいるから。
「……やります!」
フリムは身を乗り出し、
「わたし、この依頼、受けます!」
瞳にヤル気を漲らせながら、そう言った。
「──ということで、リューマさん!」
ギルドを出たフリムは、いつものごとくリューマの店に直行し、
「ネコちゃんを捕まえられる武器、貸してください!」
「あんたは一回『武器』の意味を辞書で調べてこい」
すっかり便利屋扱いしているフリムに、リューマが淡々とツッコむ。
が、フリムはめげずに手を合わせ、
「そこをなんとか! 例えば、猫じゃらしがいっぱいついた槍とか!」
「そこらへんに生えてる猫じゃらし引っこ抜いてけ」
「お魚のにおいを発する剣とか!」
「ンな生臭い剣、あってたまるか」
「マタタビを霧散する魔法の杖とか!」
「それはもうある種の兵器だろうがよ」
「これまでもニッチな性能の武器をたくさん貸してくれたじゃないですか! 今回の依頼にぴったりなの、何かないですか⁈」
そしてフリムは、ガシッ! とリューマに縋り付き、
「お願いです! ここ数日、『アルヘナポルク』のメニューを一食五品に抑える極貧生活を送っていて、もうお腹がペコペコなんです! ここで報酬を得られなければ餓死してしまいます!」
「逆に何品食べたら満たされるんだ、あんたの腹は」
「この際、網とか罠とかでもいいです! ネコちゃんの捕獲に役立ちそうなもの、何かありませんか⁈」
うるうるとした目でリューマを見上げるフリム。
彼女なりに力の加減をしているのだろうが、それでも身体がぎゅうぎゅう密着している。
リューマはぐいっと身体を引き離しながら、面倒臭そうに彼女を見下ろし、
「……武器じゃなくてもいいなら、ないこともない」
「えっ、ほんとですか⁈」
キランッ、と目を輝かせるフリムの前に、リューマは懐からそれを取り出した。
「って……お札?」
「そ。例えば……」
リューマは、その札に向かって口を開き──
「──ゥるるぅゥにゃぁあぅ」
本物のネコと見紛うような鳴き声を発した。
フリムの目が、小さな点になる。
そんなフリムの額に、リューマは札をぺしっと貼り付けた。
すると、
『──ゥるるぅゥにゃぁあぅ』
今しがたリューマが発した声が、そっくりそのまま、札から発せられた。





