銀髪の魔導士
──魔導士。
それは、空中を漂う〈精霊〉を使役し、魔法を顕現する者。
彼らは〝精霊王エレミア〟を信仰する『聖エレミア教会』の認可を受け、モンスターの討伐や新たな魔法技術の開発をしている。
中には独自の課題を掲げ、その研究に明け暮れている魔導士もいる。
ここにいる少女、ミレイユもその一人だ。
年齢は十七歳。
艶やかな銀の長髪に、藍色の瞳。
小柄で華奢な身体を、魔導士らしいローブで覆っている。
凛と気高い雰囲気を纏った、かなりの美少女である。
ここ最近、ミレイユはラトゥリアの街を拠点に活動していた。
何故ならこの街は、二百年前、魔王軍との決戦の舞台となった地。
彼女の研究対象が多く手に入る場所だからだ。
「ごきげんよう、ルル。例のものを受け取りに来たわ」
ギルドのテントをくぐり、ミレイユは受付嬢のルルに声をかけた。
ルルはにこっと笑い、挨拶する。
「こんにちは、ミレイユさん。いつものアレですね、少々お待ちください」
そうして、裏にある棚から麻袋を持ち出し──
「こちら、納品されたナジュムダケと……ギルドで買い取ったモンスターの素材です」
──ドスンッ。
と、カウンターの上に置いた。
ミレイユは袋を開き、中をあらためる。
そこには、採取依頼を出していたナジュムダケ十本と、モンスターの牙や爪、鱗などが大量に入っていた。
それらを目にした瞬間、ミレイユは……ハァハァと呼吸を荒らげる。
「うふふ、今回もこぉんなにたくさん……! やだこの爪、保存状態がすっごくイイ! こっちの鱗もカッチカチのテッカテカ……! そして、何と言ってもこのキノコ! かさの大きさも軸の長さも申し分ないわぁ……!」
クールな雰囲気から一変、よだれを垂らしながら、興奮気味に呟いた。
……そう。魔導士ミレイユが収集・研究しているのは、モンスターの素材や魔界からの外来種なのだ。
一頻りハァハァした後、ルルのにこにこした視線に気付き、ミレイユは「んんっ」と咳払いをした。
「……では、いつも通り買い取らせてもらうわ」
「ありがとうございます。それから、こちらが──例の、人間の武器を狙うモンスターから回収した素材です。今回も不審な点がないか、見ていただけますか?」
ルルがカウンターに木箱を置く。
その中身を、ミレイユは表情を引き締めて見下ろす。
近頃、ラトゥリアの街周辺では、武器商人がモンスターに襲われる事件が多発していた。
傭兵たちの尽力により、最近では被害が落ち着きつつあるが……知性を持たないモンスターが特定の物に執着し、略奪を試みるなど異例中の異例。
魔導士であり、モンスターの生態に精通するミレイユは、この件の調査に協力するようギルドから依頼を受けているのだ。
ミレイユは、箱の中に手を伸ばす。
そこにあるのはすべて、武器を狙ったモンスターから回収した素材。
そのうちのトロールのものと思しき牙を持ち上げ、じっと観察する。
「形状を見た限りでは、他の個体との差はないわ。ただ……」
「ただ?」
「やはり、妙な魔力の痕跡を感じる。何ていうか……外部からの干渉を受けて、無理やり捻じ曲げられているような……」
「つまり……モンスターは何者かの干渉を受けて人間の武器を狙うようになった、ということでしょうか?」
「そういうことになるけれど、だとするとなおのこと不可解なのよね。モンスターには知性がないから、洗脳したところで思うように動いてくれるはずがない。少なくとも、現代の魔法技術ではモンスターを操ることは不可能でしょうね」
コトッ、と牙を置き、そう結論付けるミレイユ。
ルルは箱を下げながら、礼を述べる。
「ありがとうございます。また追加で回収されたものがあれば、ご相談させてください」
「もちろん。諸々が解決したら、報酬としてその素材、ぜんぶちょうだいね」
「かしこまりました」
「そういえば……少し前に依頼をかけた『魔劫結晶』の件はどうなったかしら?」
ミレイユの問いかけに、ルルはすまなさそうに首を振る。
「申し訳ありません。先日受注された方がいたのですが、結局持ち帰ることができず、キャンセルとなりました。引き続き、受注していただける方を募集してまいります」
「そう……ま、フリズモス神殿は相当に厄介なダンジョンみたいだし、気長に待つしかないわね」
ミレイユは支払いを済ませ、素材の入った麻袋を手にし、
「それじゃあ、また素材が溜まった頃に来させてもらうわ」
そう言って、ギルドのテントを後にした。
──ルルにはああ言ったものの、ミレイユは内心、焦っていた。
『魔劫結晶』……魔王軍が攻めてきた二百年前から、突如として現れたという未知なる鉱石。
その成分を分析すると、モンスターに近い外来的な元素で構成されているのだとか。
採掘依頼をかけてから、もうすぐひと月。
そろそろ手に入れておきたいところだが……
(かといって、私一人でフリズモス神殿に行くのはちょっと大変そうだし……他にありそうな場所といえば、魔王城の周辺だって言われているけれど、あの場所は二百年前から封印されたままなのよね)
そこで、ミレイユはふと思い出す。
(そういえば……昔、アグリオ樹海から『魔劫結晶』が採掘されたことがあるって、<教授>が言っていたっけ)
アグリオ樹海とは、フリズモス神殿の南西にある広大な森林だ。
かつてはアグリオ山という岩山があったそうだが、魔王が放った業火により溶岩と化し、その跡にできた森だと云われている。
(かなり広い森だし、結晶が今も残っているかはわからないけれど……一か八か、行ってみようかしら)
そんなことを考えながら、ラトゥリアの街を歩いていると……
「……ん?」
目の前に、見慣れない露店が開いているのを見つけた。




