↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第3話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
21/51

砂神の長槍



 フリムはロングスピアを構え直し、ゴブリンたちを見回した。


 今しがた魔法を喰らわせた二体は既に敗走し、残りは四体。

 その内の一体が、棍棒を振り回しながら迫ってきた。


 フリムは先ほどと同じように、足元に生えるナジュムダケを貫く。

 が、顕現した魔法は……水だった。

 ゴブリンは一瞬怯んだものの、濡れた身体で突進してきた。


「うわぁあんっ、水はハズレだぁあっ!」


 すぐに別のナジュムダケを突こうとするが、ゴブリンの動きの方が速かった。

 棍棒を振りかぶり、目の前に迫る。

 他の三体も同様に接近しているのに気付き……フリムは唇を噛み締めた。


(こうなったら仕方ないっ。森林破壊はしたくなかったけど……)


 フリムはぐっと持ち手を握ると──


「──ごめんなさいっ!」


 周囲の樹々ごと斬り裂くような勢いで、ロングスピアを振り回した。


 身体を軸とした、時計針のような回転。

 普通ならば、槍穂が樹の幹にぶつかり、ガガッと動きを止めるだろう。

 しかし──本気を出したフリムの怪力と、それに応える強度と切れ味を誇るこの武器は、普通じゃない。


 空気をヒュンッと唸らせ、軌跡は綺麗に一回転し……

 次の瞬間、周りの樹々をスパパッと、斬り倒した。


 ついでに、最も接近していたゴブリンの胴体を、同じく上下に分断した。

 さらに、倒れた樹に刺激され、周囲のナジュムダケが一斉に魔法を発動させた。


 次々に飛び出す電撃に炎、風に水に氷。

 ゴブリンたちが「グギャギャギャ⁈」と悲鳴を上げる中、フリムも「うわわわわっ!」と足踏みをする。


 そうして、すべての魔法が落ち着いた後……

 立っていたのはフリムと、一体のゴブリンだけだった。

 トゲ棍棒を持つ、一回り大きいあの個体だ。


 両者は互いに得物を構え、睨み合う。

 仲間たちが消え、最後の一体になったにも関わらず、未だ立ち向かおうとするゴブリン。

 その勇ましさに、フリムは敬意を感じずにはいられなかった。


 長年モンスターと対峙してわかったことだが、恐らくモンスターたちには、魔族だった頃の習慣や性質が残っている。

 このゴブリンたちがまさにそうだ。

 きっと魔王軍の中でも、隊を組んで行動する魔族だったのだろう。

 もしかすると目の前のゴブリンは、どこかの小隊の隊長だったのかもしれない。


(あなたが正面から戦うというのなら……わたしも最後はナジュムダケに頼らず、正々堂々と戦いますっ!)


 その時──ロングスピアの槍穂が、光を放った。


 その光には、見覚えがあった。

 これまでに借りた武器と同じ……武器が持つ特別な能力(ちから)が覚醒した時の輝きだ。


(魔族さん……わたしに、力を貸して!)


 中に宿る魔族に呼びかけ、フリムはロングスピアを強く握る。

 そして──


「たぁぁあああっ!」


 向かい来るゴブリンに向け、強烈な突きを放った。


 ズバッ、と空間を裂く一撃。

 それは、真っ直ぐにゴブリンの心臓を貫いた。

 手応え的に、明らかに致命傷だ。


 自我と知性を失ってもなお、魔族だった頃の習性に従い、武器を握るモンスターたち。


(きっと……闘争心と責任感に満ちた戦士だったんだろうな)


 ゴブリンのかつての姿に思いを馳せながら、フリムが持ち手を握りしめていると……


 ──シュゥウウウ……


 貫いたゴブリンの身体が、みるみる内に、しぼみ始めた。

 フリムはぎょっとする。


(これって……水分が抜けて、ミイラ化してる⁈)


 通常、致命傷を与えたモンスターは塵となって霧散する。

 このように干からびることなどないはずだが……

 あっという間にカサカサの干物状態になり、フリムは「ひぃっ」と悲鳴を上げる。


「もしかして……これこそが、この槍の能力(ちから)……⁈」


 戦慄している間にも、干物になったゴブリンの身体は崩壊し……

 林の中に霧散して、消えた。




 ◇◆◇




「──リューマさんっ!」


 翌朝。

 フリムは、ロングスピアを手にリューマのもとを訪れ、


「この槍で刺したら、ゴブリンが、みみみ、ミイラになっちゃったんですけど⁈」


 目に涙を浮かべながら、訴えた。

 リューマはあくびをしてから、怠そうに彼女を見上げ、


「そーだよ。だから貸したんじゃん」

「おっしゃっている意味がわかりません!」

「あんたの言う通り、これは貫いた相手の水分を抜き取る槍──『砂神(セト)の長槍(ながやり)』だ」

「セトの、長槍……」

「そ。この槍の特性を生かせば、あの厄介なナジュムダケを干物にして持ち帰れるだろ? そう思って貸したんだが」

「あ……」


 なるほど……それが正しい使い方か!


「って、そんなの教えてくれなきゃわかんないですよ!」

「教えちゃったらつまんねーだろうが」

「つまるつまらないの話じゃないです!」

「そうカッカすんなよ。依頼は無事に達成したんだろ?」

「まぁ……おかげさまでいっぱい採取できましたけどっ」

「こいつも、あんたという気高い戦士に使ってもらえて満足そうだ。それでいいじゃねぇか」


 と、リューマはロングスピアを見上げる。

 その気の抜けた笑みに、フリムは……


「……なんで、リューマさんの武器には、魔族の精神が宿っているんですか?」


 深紅の瞳を真っ直ぐに見つめ、問う。


「そんな武器を、どうして……人々に貸し出しているんですか?」


 しかし、リューマは……やはり、気怠げな表情で見返して、


「……さぁな。知りたいのなら、情報料七万ゼリンだ」

「値上がりしてる⁈」

「それより、どうする? その槍、いちおうまだ六日間借りられるが、もう返却するか?」


 なんて、しれっと話題を変えてくるので……

 フリムは、諦めたようにため息をつき、


「そうですね。この槍でこなせる依頼は他になさそうですし、今回は早めに返却し……」


 ……と言いかけて。

 フリムは、「あ」と思いつく。


「…………やっぱり、もう何日か、お借りしてもいいですか?」

「別に構わねぇが……何に使うんだ?」


 リューマが首を傾げると、フリムは……意味深長に笑って、


「ふふ……秘密です」


 瞳の奥を、光らせた。




 ──数刻後。

 フリムは、昨日と同じヘムル山の麓にある雨林に来ていた。


 そして、『砂神(セト)の長槍(ながやり)』を構え、


「うへへ……昨日、カエルがいっぱいいるのを見つけちゃったんだぁ……この槍さえあれば……干物を作り放題っ!」


 じゅるり、とよだれを垂らしながら。

 フリムは、密かな好物の採集へと繰り出すのだった……



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
…! カエル大好きっ子! 女将さんに話してたもんなぁ……食べれそうで良かったなぁ…… (鶏もも肉と胸肉のあいの子感あって美味しいですよね〜! 可食部の少なさはともかく。。。)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。