砂神の長槍
フリムはロングスピアを構え直し、ゴブリンたちを見回した。
今しがた魔法を喰らわせた二体は既に敗走し、残りは四体。
その内の一体が、棍棒を振り回しながら迫ってきた。
フリムは先ほどと同じように、足元に生えるナジュムダケを貫く。
が、顕現した魔法は……水だった。
ゴブリンは一瞬怯んだものの、濡れた身体で突進してきた。
「うわぁあんっ、水はハズレだぁあっ!」
すぐに別のナジュムダケを突こうとするが、ゴブリンの動きの方が速かった。
棍棒を振りかぶり、目の前に迫る。
他の三体も同様に接近しているのに気付き……フリムは唇を噛み締めた。
(こうなったら仕方ないっ。森林破壊はしたくなかったけど……)
フリムはぐっと持ち手を握ると──
「──ごめんなさいっ!」
周囲の樹々ごと斬り裂くような勢いで、ロングスピアを振り回した。
身体を軸とした、時計針のような回転。
普通ならば、槍穂が樹の幹にぶつかり、ガガッと動きを止めるだろう。
しかし──本気を出したフリムの怪力と、それに応える強度と切れ味を誇るこの武器は、普通じゃない。
空気をヒュンッと唸らせ、軌跡は綺麗に一回転し……
次の瞬間、周りの樹々をスパパッと、斬り倒した。
ついでに、最も接近していたゴブリンの胴体を、同じく上下に分断した。
さらに、倒れた樹に刺激され、周囲のナジュムダケが一斉に魔法を発動させた。
次々に飛び出す電撃に炎、風に水に氷。
ゴブリンたちが「グギャギャギャ⁈」と悲鳴を上げる中、フリムも「うわわわわっ!」と足踏みをする。
そうして、すべての魔法が落ち着いた後……
立っていたのはフリムと、一体のゴブリンだけだった。
トゲ棍棒を持つ、一回り大きいあの個体だ。
両者は互いに得物を構え、睨み合う。
仲間たちが消え、最後の一体になったにも関わらず、未だ立ち向かおうとするゴブリン。
その勇ましさに、フリムは敬意を感じずにはいられなかった。
長年モンスターと対峙してわかったことだが、恐らくモンスターたちには、魔族だった頃の習慣や性質が残っている。
このゴブリンたちがまさにそうだ。
きっと魔王軍の中でも、隊を組んで行動する魔族だったのだろう。
もしかすると目の前のゴブリンは、どこかの小隊の隊長だったのかもしれない。
(あなたが正面から戦うというのなら……わたしも最後はナジュムダケに頼らず、正々堂々と戦いますっ!)
その時──ロングスピアの槍穂が、光を放った。
その光には、見覚えがあった。
これまでに借りた武器と同じ……武器が持つ特別な能力が覚醒した時の輝きだ。
(魔族さん……わたしに、力を貸して!)
中に宿る魔族に呼びかけ、フリムはロングスピアを強く握る。
そして──
「たぁぁあああっ!」
向かい来るゴブリンに向け、強烈な突きを放った。
ズバッ、と空間を裂く一撃。
それは、真っ直ぐにゴブリンの心臓を貫いた。
手応え的に、明らかに致命傷だ。
自我と知性を失ってもなお、魔族だった頃の習性に従い、武器を握るモンスターたち。
(きっと……闘争心と責任感に満ちた戦士だったんだろうな)
ゴブリンのかつての姿に思いを馳せながら、フリムが持ち手を握りしめていると……
──シュゥウウウ……
貫いたゴブリンの身体が、みるみる内に、しぼみ始めた。
フリムはぎょっとする。
(これって……水分が抜けて、ミイラ化してる⁈)
通常、致命傷を与えたモンスターは塵となって霧散する。
このように干からびることなどないはずだが……
あっという間にカサカサの干物状態になり、フリムは「ひぃっ」と悲鳴を上げる。
「もしかして……これこそが、この槍の能力……⁈」
戦慄している間にも、干物になったゴブリンの身体は崩壊し……
林の中に霧散して、消えた。
◇◆◇
「──リューマさんっ!」
翌朝。
フリムは、ロングスピアを手にリューマのもとを訪れ、
「この槍で刺したら、ゴブリンが、みみみ、ミイラになっちゃったんですけど⁈」
目に涙を浮かべながら、訴えた。
リューマはあくびをしてから、怠そうに彼女を見上げ、
「そーだよ。だから貸したんじゃん」
「おっしゃっている意味がわかりません!」
「あんたの言う通り、これは貫いた相手の水分を抜き取る槍──『砂神の長槍』だ」
「セトの、長槍……」
「そ。この槍の特性を生かせば、あの厄介なナジュムダケを干物にして持ち帰れるだろ? そう思って貸したんだが」
「あ……」
なるほど……それが正しい使い方か!
「って、そんなの教えてくれなきゃわかんないですよ!」
「教えちゃったらつまんねーだろうが」
「つまるつまらないの話じゃないです!」
「そうカッカすんなよ。依頼は無事に達成したんだろ?」
「まぁ……おかげさまでいっぱい採取できましたけどっ」
「こいつも、あんたという気高い戦士に使ってもらえて満足そうだ。それでいいじゃねぇか」
と、リューマはロングスピアを見上げる。
その気の抜けた笑みに、フリムは……
「……なんで、リューマさんの武器には、魔族の精神が宿っているんですか?」
深紅の瞳を真っ直ぐに見つめ、問う。
「そんな武器を、どうして……人々に貸し出しているんですか?」
しかし、リューマは……やはり、気怠げな表情で見返して、
「……さぁな。知りたいのなら、情報料七万ゼリンだ」
「値上がりしてる⁈」
「それより、どうする? その槍、いちおうまだ六日間借りられるが、もう返却するか?」
なんて、しれっと話題を変えてくるので……
フリムは、諦めたようにため息をつき、
「そうですね。この槍でこなせる依頼は他になさそうですし、今回は早めに返却し……」
……と言いかけて。
フリムは、「あ」と思いつく。
「…………やっぱり、もう何日か、お借りしてもいいですか?」
「別に構わねぇが……何に使うんだ?」
リューマが首を傾げると、フリムは……意味深長に笑って、
「ふふ……秘密です」
瞳の奥を、光らせた。
──数刻後。
フリムは、昨日と同じヘムル山の麓にある雨林に来ていた。
そして、『砂神の長槍』を構え、
「うへへ……昨日、カエルがいっぱいいるのを見つけちゃったんだぁ……この槍さえあれば……干物を作り放題っ!」
じゅるり、とよだれを垂らしながら。
フリムは、密かな好物の採集へと繰り出すのだった……





