ゴブリンの群れ
気を取り直し、フリムは再びナジュムダケと対峙した。
ロングスピアをぐっと握り、慎重に狙いを定め……
石づきの部分を、サクッと刺した。
直後、電撃がバチバチッ! と起こるが、しばらくすると収まり、かさの光も消えた。
どうやら、根元を切り離されると魔法が発動しなくなるらしい。
フリムはもう一本も同じように処理し、無力化した二本のナジュムダケを無事にゲットした。
「よしっ、攻略法はばっちり! 残り八本、頑張って探そー!」
おー! と、一人拳を掲げ、フリムは探索を続けた。
──その後、フリムは六本のナジュムダケを見つけ、同じようにロングスピアを使って採取した。
が、残り二本がなかなか見つからなかった。
日は既に傾きかけている。
ただでさえ暗い雨林が一層暗くなり、フリムは焦りを募らせる。
「どうしよう……ここまできたら、今日中に二本見つけちゃいたいのに……」
薄暗い林の中、フリムは目を凝らす。
ナジュムダケは淡い紫色の光を放っている。その光さえ見つけられれば……
「……あれ?」
と、その目が、あるものを捉えた。
視線を凝らした先……林の奥に、ぼんやりと光るものが見えた。
それも一つではない。四つ……いや、六つ以上はありそうだ。
「まさか……ナジュムダケの群生地⁈」
フリムは目を輝かせる。
依頼されたのは十本だが、これほど採取困難なキノコであれば、それなりの金額になるはず。
多めに持ち帰り、ギルドで買い取ってもらおう。
「諦めなくてよかったぁっ! やっぱ人間、粘り強さが運を引き寄せ……て……」
軽い足取りで光の方へ駆け寄る、が……その途中で、フリムは足を止めた。
そこは、確かにナジュムダケの群生地だった。
六本どころか、数十本は生えている。
しかし、遠くから光って見えたのは、ナジュムダケではなかった。
──赤色の、瞳。
五体のゴブリンの瞳が、妖しい光を放っていたのだ。
ナジュムダケを避けるようにして、別のキノコを食べている。
(しまった……ここは、ゴブリンたちの縄張り……⁈)
しかし、気付いた時には遅かった。
ゴブリンたちはフリムに気付き、「グギャッ」と声を上げる。
そして、各々棍棒を持ち、臨戦態勢に入った。
他のモンスターに比べ、ゴブリンはかなり小柄。十歳前後の子供ほどの背丈しかない。
腕力も乏しく、一対一ならそれほど手を焼く相手ではない。
だからこそ、奴らは複数で行動し、集団で人を襲う。
知能がないというのに、生存本能に基づくその連携はなかなかに厄介で、熟練の傭兵でも手こずるほどだ。
加えて、ここは樹々の密集した雨林の中。
動きやすさで言えば、小柄なゴブリンの方に分がある。
しかも、フリムの得物は環境との相性が最悪なロングスピア。
つまりは、圧倒的に不利な状況で会敵してしまったのだ。
(落ち着け、フリム。まずは、少しでも開けた場所に誘導して……)
と、ロングスピアを取り回しやすい場所へ移動しようとするが……
その行く手を阻むように、背後からもう一匹、ゴブリンが現れた。
それも、他のゴブリンより一回り大きな個体だ。
手にしている棍棒も釘やトゲが生え、より殺傷能力の高いものになっている。
計六体のゴブリンが、フリムににじり寄る。
……囲まれた。
ナジュムダケの群生地の中心で、フリムは樹々の間からこちらを狙う六体を警戒する。
「縄張りに立ち入ったことは謝ります! こちらに手を出さないのであれば、わたしも危害を加えるつもりはありません! どうか穏便に済ませることはできないでしょうか⁈」
いつものように、平和的な解決を呼びかける。
今回は、どちらかというと命乞いのようにも聞こえるが。
しかし、結果は……やはり変わらず。
返事の代わりに「グギャァアッ!」と鳴き、フリムの背後にいた一匹が飛び掛かってきた。
「くっ……!」
振り下ろされる棍棒を、フリムはロングスピアの持ち手で受け止め、押し返す。
同時に、横からもう一体が来る。
こちらは姿勢を低くし、足を払って転倒させる。
倒れたゴブリンに槍先を突き刺そうとするが、周囲の樹に当たってしまい、もたつく。
そうしている間に転倒したゴブリンは体勢を立て直し、距離を取られてしまった。
やはり、この武器では上手く戦えない。
いっそ、素手で戦おうか……?
そんな無謀なことを考えながら、後退りをすると……
──ぐにゃっ。
フリムの足が、何かを踏んだ。
直後、足裏から、水が「ブシャァアアッ!」と噴き出した。
「ななな、なにっ……⁈」
慌てて離れ……理解した。
ナジュムダケを踏んづけたせいで、魔法が発動したのだ。
おかげで膝から下がびちょびちょ。
しかし、同時に──フリムは思い付いた。
(このナジュムダケの特性……使えるかも!)
噴き出した水に驚いていたゴブリンたちだが、雄叫びを上げ、再度向かってきた。
左右から二体。
フリムはロングスピアをぐっと引き寄せ、狙いを定め……
右から来るゴブリンの足元にあるナジュムダケを、ざくっと刺した。
続けて、柄の方で左側のナジュムダケを刺す。
すると、右側では電撃が、左側では突風が巻き起こり、ゴブリンを攻撃した。
思った通り、ナジュムダケの魔法は牽制に使える。
ゴブリンの動きを見極めて使えば、防御しながら隙を作れそうだ。
(わたしの周りはナジュムダケだらけ! さぁ、どこからでもかかってきなさい!)





