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元魔王軍の武器庫番、レンタル武器屋を開業する。  作者: 河津田 眞紀@受賞2作発売中!
第3話

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『勇者ユーリス』、参上!



 ──ラトゥリアの街から馬車に乗り、フリムはナジュムダケが生えるというヘムル山の麓へ向かった。


 馬車を降り、景色を見渡す。

 そこは、湿った空気の漂う雨林だった。

 

「おお……見るからにキノコが生えていそう」


 水気を含んだ地面を踏みしめ、フリムは林の中を進む。

 そして、リューマにもらった……否、百ゼリンで買わされたナジュムダケのイラストを取り出した。


「黒に近い紫色をしたかさに、六芒星の模様……キノコっていうくらいだから、樹の下に生えているはずだけど……」


 ロングスピアを縦に持ちつつ、しばらく探していると……樹の根元に、それらしきキノコを見つけた。


「えっ、もう見つけた⁈ やったぁ! まずは一つめ……!」


 と、思ったが……よく見ると、その模様は五芒星。例の、そっくりなオドタケのようだ。


「うう、そんなにうまくいくわけないか……でなきゃ、あんな高い報酬なんて設定しないだろうし」


 どうやら、根気よく探す必要がありそうだ。

 フリムは腹をくくり、雨林をさらに進んでいった。




 ──じめじめとした空気が、フリムの全身を包み込む。

 前髪がしっとりと濡れ、白い額に張り付いた。


 頭上では鳥たちが高い声で鳴いている。

 奥へ進むほどに陽の光が届かなくなり、暗がりは深く、湿度は高くなっていった。


 途中、オドタケはいくつか見つけたものの、肝心のナジュムダケは見つからない。

 まだ日が高い時間帯だからいいが、夕刻になれば辺りは真っ暗になるだろう。

 そうなる前に発見したいところだが……


「……ん? あれは……」


 ふと、倒れて朽ちた樹の下に、ぼんやりと光るものを見つけた。

 近付いて観察すると……それは、キノコ。

 六芒星の模様を持つ、ナジュムダケに間違いなかった。


「あ……あったーっ!」


 フリムは喜びを爆発させる。

 よく見ると、すぐ側にもう一本生えている。これで一気に二本ゲットだ。


「よかったぁっ! 見つからなかったらどうしようかと思った! よーし、この調子で残り八本も……!」


 と、ナジュムダケに手を伸ばした──刹那。


 ──ビリッ……バチバチィ!


 ナジュムダケが明滅し……電撃を放った。


 フリムは「わぁぁっ!」と飛び退き、バクバク心臓を鳴らす。

 ナジュムダケは紫色に光り、未だパリパリと帯電していた。


「な……どういうこと……⁈」


 今のは、魔導士が使う魔法に似ていた。

 それが何故、キノコから発せられたのか……


 フリムは警戒しつつ、側に生えたもう一本を採ろうとする。

 が、そちらも同じく光り出し──


 ──ボウッ!


 真っ赤な炎を、噴射した。


 咄嗟に避け、尻もちをつくフリム。

 今度は炎の魔法……やはり、ナジュムダケから発せられている。


 ……ありえない。

 だって、魔法というのは──空中を漂う〈精霊〉を使役して顕現する力なのだから。


〈精霊〉は、魔族──現在のモンスターと同じ精神生命体だが、肉体は持たない。

 空中の至る所に点在し、辺りを浮遊する、目に見えない存在である。


 また、かつての魔族のような知能もなく、善悪の概念もないという。

 他の生命体からの干渉に応じ、純粋に現象を引き起こすのみ。

 そんな精霊に呼びかけ、望む事象を顕現するのが魔導士である。


 つまり、ただのキノコが魔法現象を引き起こすなど不可能なはず。

 しかしそこで、フリムは思い出す。


 リューマはこのナジュムダケを、『魔界から来た外来種』だと言っていた。

 普通のキノコならありえないことでも、魔界が原産の品種ならば、不可能が可能になるのかもしれない。

 見たところこのキノコは、危険が迫ると周囲の精霊に呼びかけ、魔法を発動させるようだが……


(なるほど。だから報酬も破格だったんだ……もうっ。リューマさんキノコマスターなら絶対知ってたはずなのに、なんで教えてくれなかったの⁈ これじゃあ採取するどころか、近付くことすら……)


 ……と、考えかけて、はっとなる。


「そっか……だから、ロングスピア……!」


 ようは、この槍で距離を取りながらキノコを突き刺せと、そういうことらしい。


 槍でキノコを採るなんて、それこそ聞いたことがない。

 だが、この状況においては、これ以上ない作戦だった。


「そうと決まれば……」


 フリムはナジュムダケから離れ、ロングスピアを構える。

 これだけ距離があれば、魔法攻撃を喰らうことはないと思うが……力加減を誤り、キノコを粉々にしてしまわないか心配だった。


「慎重に……軸の部分を切り取るように……」


 重心を落とし、ナジュムダケの石づきに狙いを定める。

 優しく、丁寧に……と、自らに言い聞かせた、その時。


 ──ガサガサッ。


 背後から音。

 そして、複数の気配。


 バッと振り向くと、そこには……棍棒を手にしたゴブリンが三体、迫っていた。


(しまった。キノコに気を取られて、周囲への警戒を怠った……!)


 フリムは慌ててロングスピアを構えようとする。

 が、密集する樹々に長い槍が引っ掛かり、対応が遅れた。


 そうしている間に、ゴブリンたちは「グギャァーッ!」と鳴きながら迫り……

 フリムに向け、棍棒を振りかざした。


(やられる……!)


 反射的に目を伏せ、痛みを覚悟する──が、その痛みは訪れなかった。

 代わりに、



「──『勇者ユーリス』、参上!」



 ……という、勇ましい声が響いた。


 フリムが「へっ?」と目を開けると……

 次の瞬間、三体のゴブリンの首が、スパッと刎(は)ね飛ばされた。


 そのまま、塵となって消え……目の前に、棍棒がゴロリと転がった。


「い、今のは……」

「怪我はないか! お嬢さん!」


 消滅したゴブリンの向こうから、先ほどの声がする。


 見上げた先にいたのは、剣士の格好をした青年だった。

 サラサラの金髪に、碧(あお)い瞳。

 精悍で爽やかな雰囲気の美男子だ。


「は、はい……ありがとうございま……」

「礼には及ばない! 僕の名は『ユーリス』! 名前だけでも覚えてくれ!」


 ものすごい覇気と声量。

 フリムは圧倒されつつも、「はい……」と答えた。


「ところで、僕はこの森にある魔王城を目指しているのだが、どの辺りにあるか知っているか⁈」


 堂々たる声で尋ねるユーリス。

 それに、フリムはきょとんとする。


「えっと……魔王城があるのはここではなく、タシナの森です」

「なに⁈ ここはタシナの森ではないのか⁈」

「はい。タシナの森はラトゥリアの街の近くなので……ここから北へ進んだ先にあります」

「北だな! 承知した! ご親切にどうも、お嬢さん!」


 そう答えるなり、ユーリスは白い歯をキランッと光らせ、雨林の奥へと去ってしまった。


「あっ、そっちは南で……って、行っちゃった」


 三体のゴブリンを一撃で倒すあたり、かなり腕の立つ人物のようだが……極度の方向音痴なのか、うっかり者なのか。


「ちゃんとタシナの森に辿り着けるといいけど……」


 フリムは立ち上がりながら、ユーリスの去って行った方を心配そうに見つめた。



 

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