キノコの採取依頼
(まずいまずいまずい、まずい……っ)
フリムは、焦っていた。
前回、『魔劫結晶』の納品依頼に失敗……もとい、持ち帰らない選択をしたため、結局報酬はゼロ。
加えて、近頃はモンスターによる被害も落ち着き、割のいい討伐依頼もない。
つまりは、収入源が断たれている状況。
このままでは、ご飯が満足に食べられなくなってしまう。
「ルルさんっ!」
──ばんっ!
フリムは、ギルドのカウンターに手を付き、
「わたしに! 何か! 依頼を! ください‼︎」
鬼気迫る顔で、言った。
受付嬢のルルは気圧されながらも、依頼書の束を捲り、最適なものがないか探していく。
「そうですね……傭兵の方向けに、橋の修繕依頼や、農業の応援依頼が来てはいるのですが……いかがいたしますか?」
フリムはビクッと震え、口を閉ざす。
その馬鹿力ゆえ、何かを造ったり直したり、収穫したりという作業は、大の苦手であった。
だからこそ、モンスターの討伐に特化した傭兵としてやってきたわけで……
「うう……他には何かありませんか?」
「他ですと……ああ、こちらはいかがでしょう?」
言いながら、ルルは一枚の依頼書を差し出す。
そこに描かれた内容は……
「『ナジュムダケ』十本の納品依頼です」
「なじゅむだけ?」
「星形の模様が特徴的なキノコの名称です。この辺りだと、ヘムル山の麓などに群生しているらしいです」
キノコの納品……一体誰がギルドにそんな依頼をしてきたのだろうか。
なんとなく気になり、依頼主の名を見てみると、『魔導士ミレイユ』と書かれていた。
これは、前回の『魔劫結晶』の時と同じ依頼主だ。
このキノコも、魔法の研究に使うつもりなのだろうか?
詳細に目を通すと、「なるべく綺麗な状態での納品を希望。生、あるいは乾燥させたものでも可」、と書かれていた。
フリムは、こうした素材の採取依頼も極力避けてきた。
何故なら、せっかく対象を発見しても、怪力で破損させる恐れがあるから。
前回は対象が鉱石だったため、逆に相性がいいと思えたが……キノコとなると話は別である。
しかし、この依頼の報酬は一万五千ゼリン。
ただのキノコ狩りにしては、かなり高額に設定されている。
ヘムル山の麓といえば、ゴブリンたちが多く生息する場所だ。
その危険性ゆえ、報酬額を上げているのかもしれない。
(キノコをダメにしちゃわないか心配だけど……今は他に受けられる依頼もないし……)
フリムは、ぐっと決意を固め、
「わたし……この依頼、引き受けます!」
声高に、受注を宣言した。
◇◆◇
「──というわけなので、ゴブリンを倒すのに最適な武器を貸してください!」
もはやルーティーン化した動線で、フリムは『貸し武器屋リューちゃん』へと直行した。
リューマは虫の絵を描きながら、今日も今日とて気怠げに答える。
「いいけど……依頼内容はゴブリンの討伐なのか?」
「いえ、キノコ狩りです!」
「へぇ。何キノコ?」
「えっと……たしか、ナジュムダケ?」
聞いた途端、リューマが「ほう」と笑う。
「その口ぶり、あんたナジュムダケがどんなのか知らないな?」
「は、はい。名前を聞いたのも今回が初めてで……星形の模様が特徴だと、ギルドのルルさんは言っていました」
「それだけじゃ前情報として不十分だ。いいか、星形の模様をもつキノコは二種類ある。ナジュムダケと、それによく似たオドタケだ」
「おどたけ?」
フリムが首を傾げると、リューマは小さな紙を取り出し、サラサラと絵を描いていく。
「オドタケは、かさの部分に五芒星の模様がある。色は茶色で、香りがいい。この国に古くから自生する食用種だ。対して、ナジュムダケの模様は六芒星。色は黒に近い紫色で、食用には向かない。何せこれは、魔界から持ち込まれた外来種だからな」
「が、外来種……⁈」
驚くフリムに、リューマは描いた絵を見せる。
そこには、この短時間で描いたとは思えないほど精巧なキノコのイラストがあった。
「うわ、うまっ! リューマさん、本当に絵がお上手なんですね! それに、キノコにも詳しい!」
「まぁ、『キノコマスター一級』の資格保持者だからな」
「またなんか知らない資格持ってる⁈」
「これがナジュムダケだ。ほい。参考にこの絵を持っていけ」
「いいんですか? ありがとうございます! 助かります!」
「百ゼリン」
「……へっ?」
──くいくいっ。
と、リューマは手を動かし、
「タダなわけねぇだろ? イラスト代と情報料、しめて百ゼリンだ」
「えぇーっ⁈ 善意の施しじゃなかったんですか⁈」
「俺は善意ってことにしてもいいぜ? だが──ウチのカード販売部長がなんて言うかな?」
言いながら、視線を横に移す。
リューマの隣では、『アルヘナポルク』の看板孫娘リスタが、今日も少年たちに虫カードを売っていて……
話を振られるなり、首をギュルッとこちらに向け、笑顔で言い放った。
「無料はダメよ、フリムちゃん! リューちゃんは今や大人気カード絵師! 描いたイラストにはもれなく価値が付くんだから! 百ゼリンで手に入るなら、むしろお得よ!」
「そ、そうなのかな⁈」
この守銭奴タッグにたかられている気がしなくもないが……ナジュムダケの有力な情報がもらえたことは確かなので、フリムは仕方なく百ゼリン支払うことにした。
「へへ、まいどあり」
「うう、こんなの詐欺だよぅ……」
「さて、それじゃあ武器の選定といくか。メインはナジュムダケ狩りで、ゴブリンに出会う可能性もある、ってなら……」
リューマは、中身のない長大な鞘から剣を抜くような動作をする。
すると……光を放ちながら、長槍が現れた。
「ま、こいつがぴったりだろう」
「毎度当たり前のように取り出していますが……その鞘、一体どうなっているんですか?」
「ん? 仕組みを知りたいなら、情報料として五万ゼリンいただくが?」
「じゃあいいです!」
隙あらば金儲けしようとする悪徳店主に、フリムははっきりノーを突き付けた。
「とにかく、今回の依頼にはこいつが最適だ。持っていけ」
「は、はい。でも、なんでロングスピアなんですか? 樹が多い場所だと取り回しづらい気がするんですが……」
「行けばわかる。ほい、契約書」
フリムは差し出されるがまま、貸し出し契約書にサインをした。
「まいどあり。んじゃ、気をつけてな」
契約書と引き換えに、ロングスピアを渡すリューマ。
長く真っ直ぐに伸びる槍穂が日光を反射し、銀色に輝いている。
小柄なフリムが持つと、ますます長く感じられた。
「ちなみに……この武器には、どんな能力が秘められているんですか?」
フリムがこそっと尋ねる。
しかし、リューマはニヤリと笑って、
「さぁ……それは使ってみてからのお楽しみだ」
意味深長に、そう答えた。





