魔劫結晶
鋭い眼光に、長い舌。
皮膚は緑色だが、丸まった尾の先は透けている。
恐らく、周囲の景色に溶け込むよう身体の色を変えられるのだろう。初めからずっと、この天井に張り付いていたらしい。
「ひぇっ……!」
「こいつが神殿内に強力な幻術を張り巡らせている犯人だ。リザードマンの親玉、ってとこだな。ここであんたの幻術を解いて一気に疲労を自覚させ、弱ったところを食べるつもりだったんだろう」
つまり……あと少しで、食べられていた。
ぞっとしながらも、フリムは焦る。
早く倒さなければ、リューマまで幻術にかけられるかもしれない。そうなったらおしまいだ。
まだ身体に力が入らないが……それでも、やらなくちゃ。
フリムはサーベルを握り締め、立ち上がろうとする。
が……その前にリューマが立ち塞がり、言う。
「あんたはそこで休んでろ」
「でも……」
「安心しろ。出張代および残業代および討伐代行費用、しめて三万ゼリン。あとできっちり請求させてもらう」
そのセリフに、フリムが「えっ?」と言うより早く……リューマは、跳んでいた。
長大な剣を手に、驚くほど高く跳躍し……
天井に張り付く巨大爬虫類型モンスターを、ザンッと斬り裂いた。
痛々しい鳴き声を上げ、床に落下するモンスター。
が、すぐにその姿が消える。
身体の色を変え、景色に溶け込んだのだ。
「そんな……どこに……⁈」
フリムが困惑しながら見回すが、リューマは焦る様子もなく即座に駆け出し、
「──んじゃ、お疲れさん」
気怠げな声でそう言って……何もない空間に、大剣を振り下ろした。
響き渡る、断末魔の叫び。
斬られた痛みで姿を現したモンスターは、紫色の血を噴き出しながらバタバタと悶えたのち……パタリと動かなくなった。
黒い塵となり、消えゆくモンスター。
それを見届け、リューマは斜めに背負ったいつもの鞘へと、大剣を納めた。
フリムは、唖然とする。
……うそでしょ。リューマさん、もしかして……
「め……めちゃくちゃ、お強いじゃないですか‼︎」
疲労も忘れ、フリムは大声で叫ぶ。
「なんで⁈ そんなに強いなら自分で武器使って討伐依頼こなせばいいのに! どうして貸し武器屋さんなんてやっているんですか⁈」
「うるさ。なんだよいきなり」
「うるさくもなりますよ! いっつも虫も殺さないような無気力顔してるクセに! 詐欺だ! こんなの詐欺ですよぉっ‼︎」
「誰が詐欺だ、人聞きの悪い。俺はヤる時だけヤる『ギャップ萌え男子』でいかせてもらってんの。何せ、『モテ男検定二級』の資格保持者だからな」
「何なんですか、そのよくわからない資格はっ‼︎」
などといつもの調子で叫んだせいで、くらっと目眩に襲われる。
倒れそうになるフリムを抱き留めながら、リューマはため息をついて、
「しっかりしろ。依頼はまだ完了していないんだろ? それとも、諦めて帰るか?」
言いながら、フリムに肩を貸した。
握ったサーベルは、未だ一つの方向に光を伸ばしている。
フリムはそれを握り直すと、両足でしっかりと立ち、
「いえ……この先に、『魔劫結晶』があるはずです。ここまで来たのですから……絶対に見つけて、持って帰ります!」
力強く、そう言った。
リューマの支えを受けながら、フリムは光が示す壁の方へと近付く。
そこには、先ほど発見したひし形の石像があった。
恐らくこれが、先に進むための鍵となるのだろうが……
「……フリム」
そこで、リューマが、初めて名前を呼んだ。
思わずドキッとして、フリムは彼を見上げる。
「は、はいっ」
「手を出してみろ」
言われるがままに、フリムはサーベルを持つのと反対の手をかざす。
そして、同じく片手を上げたリューマと共に、ひし形の石像に触れた。
瞬間、目の前の壁が、「ゴゴゴゴ」と反応する。
やはり、ここも扉になっているようだ。
そのまま壁が横に動き……ダンジョンの最奥が、ついに開かれた。
そこに見えた光景に、フリムは、瞳を輝かせる。
「うわぁ……!」
見渡す限りに広がる、虹色の鉱石。
シャボン玉のような色の結晶が、壁面いっぱいに生えていた。
間違いない。
これが、探し求めた『魔劫結晶』だ。
「すごい……こんな綺麗な鉱石があるなんて……!」
リューマから離れ、フリムはよたよたと結晶を見回す。
「これだけあれば、目標の三万ゼリンなんてヨユーで……って」
そこで、フリムはあるものに目を留める。
虹色に輝く鉱石の狭間に、一振りの剣が突き刺さっていた。
しかもそれは、フリムが手にしているサーベルにそっくりで……
「これって……」
「そいつの片割れだ」
リューマが、後ろから言う。
「あんたに貸したその剣はサーベルじゃない。二つで一つの武器──双剣だ」





