ダンジョンの主
──それから、フリムはいくつかのトラップを乗り越え、モンスターを倒し、ダンジョンの奥へと進んだ。
代わり映えのない岩壁の通路が延々と続く。
鉱石らしきものも見当たらない。
サーベルは変わらず、進行方向に真っ直ぐ光を伸ばしている。
その光に導かれるまま、ひたすら進み……
最後に行き当ったのは、何もない、広々とした空間だった。
「行き止まり……?」
途中で道を間違えたか?
いや、分かれ道になっているところはすべて確認した上でここまで来た。見逃したルートはなかったはず。
それに、サーベルの光は壁の方向を指している。
なら……この先へは、どう進めばいい?
フリムの腕力とこのサーベルがあれば、壁を切り崩すこともできそうではあるが、ここは歴史的価値の高い神殿。無用な破壊行為は極力避けたい。
「壁がゴゴゴゴーって開く仕掛けとかがあったりして……」
フリムは、壁をノックしたり、ぺたぺた触ってみたりする。と……
ふいに手を触れた箇所が、ぱぁあっと光った。
そして──
──ゴゴゴゴゴゴゴ……
目の前の壁がスライドし……奥へと続く空間を露わにした。
フリムは、目を点にする。
冗談半分の呟きだったが、どうやら本当に仕掛けを解き、扉を開けられたようだ。
「もしかして……みんなここで挫折して、一番奥まで辿り着けなかった、とか?」
ならば、自分こそが、このダンジョンを踏破した記念すべき一人目ということ。
フリムは警戒半分、ワクワク半分な心持ちで、開かれた扉の先へと進む。
四角い空間だった。
通路や扉のない、壁に囲まれた場所。
奥の壁の側にひし形の石像のようなものが置かれている他は、何もない。
フリムはてっきり、『魔劫結晶』がびっしり生えているものと思っていたのだが……
「あれ? ここがゴールじゃないの?」
と、首を傾げた直後。
背後で、「ゴゴゴゴ……」と、音がした。
はっと振り返るも、時既に遅し。
先ほど開けた仕掛け扉が再びスライドし……完全に閉じてしまった。
「う……うそーーっ⁈」
閉め切られた扉を叩くが、ビクともしない。
開けるための仕掛けがないか隈なくまさぐってみるも、反応はなし。
「お、落ち着いてフリムっ。きっとどこかに別の出口が……だってサーベルさんは、まだ奥を指し示しているし……!」
と、他の壁も調べようとした、その時。
足の力がカクンッと抜け、フリムはその場にへたり込んだ。
「あ……あれっ? 力が……入らない……」
立ち上がろうとするも、足が言うことを聞かない。
強い疲労感が、全身にずしんとのしかかる。
それどころか、急激に喉が渇き、吐き気を感じるほどの空腹に襲われ……視界が霞み始めた。
(あ、れ……そういえば、わたし……この神殿に、どれくらいいる……?)
まるで、置き去りになっていた時間の感覚が呼び覚まされたよう。
そのまま、フリムは床へ倒れ込む。
指先が麻痺して、感覚がない。
それでも、サーベルを握り続ける。
(もしかして、これも……魔法のトラップ……? どうしよう……こんなところで倒れたら、リューマさんに……このサーベルを、返せなくなっちゃう)
薄れゆく意識。
瞼が、意志に反して閉じていく。
(ごめんなさい、サーベルの中の魔族さん……せっかくここまで、導いてくれたのに……)
サーベルを握ったまま、フリムはついに、意識を手放す────かに思われた、刹那。
閉じられた岩の扉に、いくつもの閃光が走り……
──ドカァァアアンッ‼︎
けたたましい音を立てながら、崩落した。
フリムは微睡から叩き起こされたように「ふぇっ⁈」と目を覚ます。
そこには、逆光を背に受け立つ人物が一人。
肩に重厚な大剣を担ぎながら、こちらを見下ろしているのは……
「りゅ……リューマ、さん……?」
そう。どういうわけか、リューマがそこにいた。
フリムはなんとか身体を起こしながら、問いかける。
「どう、して……ここに……?」
「どうしてって、あんたがその剣を借りて今日で七日だから、探しにきたんだろうが」
え……七日?
「そんなはず……だってわたし、ここへは……あれ、いつ入ったんだっけ?」
「はぁ……やっぱり幻術の魔法にハマッていたか」
リューマはかったるそうに近づくと、フリムの目の前にしゃがみ込み、
「おら、口開けろ」
フリムの顎を掴み、持っていた水筒を無理やり口に押し込んだ。
「むぐぅっ⁈」と唸りながらも、流し込まれる水に喉が潤っていく。
その渇きは……確かに半日やそこいらのものではなかった。
「ぷはっ……げ、幻術の魔法、って……わたし、いつの間に……?」
「たぶん神殿に足を踏み入れた瞬間からだろ。時間と空間を認識する感覚が完全に狂わされていたんだ。その剣が方向を指し示していなかったら、ここに辿り着くことなく死ぬまで彷徨い続けていたかもな」
「し、死ぬまで……⁈」
ぞぞっ、と身体を震わせるフリム。
まさか、入った瞬間から幻術にかかっていたとは……
「でも……幻術の魔法なんて、聞いたことがありません。本当にそんなものが……?」
「あるんだよ」
リューマは、立ち上がりながら、
「そんで……それを仕掛けたヤツは、そこにいる」
と、足元に転がっていた石を拾い、天井に向かって投げた。
すると、冷たい石の色をしていた天井に……異形が現れた。
重力を無視して張り付く、巨大な爬虫類──トカゲに似たモンスターだ。





