第9話「転校生の告白」
七夕祭りから数日後。
青葉学園は再びいつもの日常に戻っていた。
しかし悠斗の心は落ち着かなかった。
昨日の夜に届いた玲奈からのメッセージ。
『明日、放課後少し時間ある?』
その意味を考えてしまう。
ただの相談かもしれない。
用事があるだけかもしれない。
だが、どこか予感がしていた。
◇
放課後。
チャイムが鳴る。
教室では帰り支度をする生徒たちの声が響いていた。
「藤崎くん」
玲奈が席へやってくる。
「今から大丈夫?」
「うん」
悠斗は頷いた。
「どこ行くんだ?」
「少し静かな場所」
玲奈はそう言って歩き出す。
二人は校舎を出た。
その姿を偶然見ていた人物がいた。
四葉だった。
「あ……」
胸がざわつく。
そして少し離れた場所には美咲もいた。
二人とも何となく気付いてしまう。
今日、何かが起こることを。
◇
玲奈が連れて行った場所は学校裏の小さな公園だった。
放課後になるとほとんど人が来ない。
ブランコが風で揺れている。
「ここなら静かだから」
玲奈は立ち止まった。
そして空を見上げる。
しばらく沈黙。
悠斗は黙って待った。
やがて玲奈が口を開く。
「私ね」
その声はいつもより少しだけ弱かった。
「最初は転校なんて嫌だった」
以前聞いた話。
東京に友達がいたこと。
引っ越したくなかったこと。
「でも」
玲奈は微笑む。
「この学校に来て良かった」
その瞳が悠斗を見つめる。
真っ直ぐに。
逃げ場がないくらいに。
「藤崎くんと出会えたから」
悠斗の鼓動が大きくなる。
玲奈は深呼吸した。
そして。
「好きです」
風が吹く。
夏の匂いがした。
「私と付き合ってください」
はっきりとした告白だった。
◇
悠斗は言葉を失った。
美咲に続いて二人目。
そして今度は玲奈。
玲奈は答えを急がなかった。
ただ静かに待っていた。
「すぐに返事しなくていい」
少し笑う。
「藤崎くん、今すごく困ってる顔してる」
「そんなに分かりやすいか?」
「うん」
玲奈は頷いた。
「だから待つ」
そう言った。
「でも後悔はしたくなかったから」
気持ちを伝えたかった。
それだけだった。
◇
帰り道。
悠斗は一人だった。
空は夕焼け色に染まっている。
頭の中が整理できない。
美咲。
玲奈。
そして四葉。
三人とも大切な存在だった。
だが恋愛として誰を好きなのか。
まだ答えは見えない。
「難しいな……」
人生でこんな悩みを抱える日が来るとは思わなかった。
◇
翌日。
教室。
玲奈は普段通りだった。
告白したとは思えないほど自然に。
「おはよう」
「おはよう」
いつもと同じ。
だからこそ悠斗も少し救われた。
だが。
「昨日何してたの?」
美咲が聞く。
「え?」
「玲奈さんと一緒だったよね?」
鋭い。
悠斗は少し困った。
嘘はつきたくない。
しかし玲奈の気持ちを勝手に話すわけにもいかない。
「ちょっと話してただけ」
「ふーん」
美咲はそれ以上聞かなかった。
だが何かを察しているようだった。
◇
昼休み。
屋上。
四葉はフェンスの向こうの空を見ていた。
今日は一人だった。
気持ちが落ち着かない。
そんな時。
扉が開く。
「白石さん」
玲奈だった。
四葉は少し驚く。
玲奈は隣へ来た。
そして。
「昨日、告白した」
四葉の心臓が止まりそうになった。
予想していた。
でも実際に聞くと苦しい。
「そう……なんだ」
声が震える。
玲奈は静かに頷く。
「返事はまだ」
「……」
「でも伝えたかった」
四葉は俯く。
悔しい。
怖い。
泣きそうになる。
だけど。
逃げたくなかった。
「私も」
玲奈が顔を上げる。
「私も悠斗くんが好き」
初めて言葉にした。
誰かに向かって。
はっきりと。
玲奈は少し驚いた後、微笑んだ。
「知ってた」
「え?」
「見てれば分かる」
四葉は顔を赤くする。
玲奈は続ける。
「だから正々堂々勝負しよう」
その言葉に四葉は小さく頷いた。
「うん」
◇
その日の放課後。
美咲は彩花と帰っていた。
「言わなくていいの?」
彩花が聞く。
「何を?」
「藤崎くんのこと」
美咲は苦笑する。
「もう言ったよ」
「そうじゃなくて」
彩花は真剣だった。
「もっとちゃんと向き合わないと後悔するよ」
美咲は空を見る。
夕焼け。
胸が少し痛む。
「分かってる」
分かっているのだ。
今のままではいけないことを。
◇
数日後。
一年二組では夏休み前の実力テストが近付いていた。
教室は勉強モード。
「やばい」
美咲が机に突っ伏す。
「数学終わった」
「始まってもいないだろ」
悠斗が呆れる。
すると。
「じゃあ勉強会しない?」
四葉が言った。
「勉強会?」
「うん」
玲奈も頷く。
「それいいかも」
結局。
土曜日に四人で勉強会をすることになった。
だが誰も知らない。
その勉強会が。
四人の関係をさらに大きく変えることになることを。
そして悠斗自身も。
少しずつ気付き始めていた。
誰といる時が一番自然に笑えるのか。
誰の笑顔を見ると安心するのか。
その答えに――。
第9話 完
次回予告
第10話「四人の勉強会」
夏休み前の勉強会開催! 悠斗の家に集まった四人だったが、料理対決やハプニングが続出。さらに帰り際、四葉と悠斗が二人きりになる出来事が――。
青春と恋が少しずつ動き出す第10話へ続く。




