第10話「四人の勉強会」
土曜日の朝。
空は青く晴れ渡り、夏の気配が少しずつ強くなっていた。
今日は実力テスト対策の勉強会の日。
場所は――
藤崎悠斗の家。
午前九時。
インターホンが鳴った。
ピンポーン。
「はいはい」
悠斗が玄関を開ける。
そこに立っていたのは――
四葉だった。
白いワンピースに薄いカーディガン。
学校とは少し違う雰囲気。
「お、おはよう」
「おはよう」
悠斗は少し見惚れた。
「似合ってるな」
「えっ!?」
四葉の顔が一瞬で赤くなる。
「ほ、本当に?」
「うん」
自然な感想だった。
しかし四葉にとっては大事件だった。
(似合ってるって言われた……)
心臓がうるさい。
すると。
ピンポーン!
再びチャイム。
玄関を開けると。
「おはよー!」
美咲だった。
元気いっぱいである。
「朝からテンション高いな」
「当然!」
なぜか胸を張る。
その後ろには玲奈もいた。
「お邪魔します」
「どうぞ」
こうして四人の勉強会が始まった。
◇
午前中。
最初は真面目だった。
本当に真面目だった。
「この問題分かる?」
「ここは公式使うんだよ」
「なるほど」
勉強会らしい光景。
しかし。
開始一時間後。
「もう無理!」
美咲が机に倒れた。
「早い」
玲奈が呆れる。
「数学なんて人類の敵だよ」
「数学に謝れ」
悠斗が即座に突っ込む。
四葉は笑っていた。
最近こういう時間が増えた。
みんなで笑う時間。
それがとても幸せだった。
◇
昼前。
「お腹空いた」
美咲が呟く。
すると。
「お昼どうする?」
悠斗が聞いた。
「作ろう!」
四葉が言う。
「料理?」
「うん」
玲奈も乗り気だった。
「面白そう」
結果。
四人で昼食を作ることになった。
◇
キッチン。
四葉は手際が良かった。
包丁さばきも慣れている。
「すごい」
悠斗が感心する。
「よく家で作るから」
四葉は笑う。
一方。
美咲。
「うりゃ!」
「危ない!」
悠斗が慌てる。
包丁の持ち方から危険だった。
「私だってできるもん!」
「説得力がない」
玲奈は笑いを堪えていた。
そして。
三十分後。
完成。
オムライス。
サラダ。
スープ。
見た目も綺麗だった。
「いただきます!」
四人で手を合わせる。
一口。
「美味しい!」
美咲が叫ぶ。
「四葉ちゃん天才!」
「そこまでじゃないよ」
照れる四葉。
しかし本当に美味しかった。
悠斗も自然に笑う。
「店出せる」
「それは言い過ぎ」
でも嬉しそうだった。
◇
午後。
再び勉強。
今度は英語。
「ここ分からない」
悠斗が問題集を見る。
すると。
「貸して」
玲奈が覗き込む。
距離が近い。
近すぎる。
「ここはこう」
玲奈が説明する。
髪からシャンプーの香りがした。
「なるほど」
「理解早いね」
二人が話している様子を見ていた四葉。
胸が少し痛む。
玲奈は魅力的だ。
頭も良い。
綺麗。
自分より大人っぽい。
比べてしまう。
そして落ち込む。
◇
その時だった。
「四葉ちゃん」
美咲が小声で呼ぶ。
「え?」
「ちょっと来て」
二人は廊下へ出た。
「どうしたの?」
四葉が聞く。
美咲は笑う。
「顔」
「え?」
「すぐ分かるよ」
四葉は俯いた。
「そんなに?」
「うん」
美咲は壁にもたれる。
そして言った。
「私も同じだから」
四葉は驚く。
「美咲ちゃん……」
「不安になるよね」
その声は優しかった。
ライバル。
本来ならそうなのかもしれない。
でも。
二人は友達でもあった。
「でもさ」
美咲が笑う。
「好きなら頑張ろうよ」
四葉は目を見開く。
「後悔したくないし」
「うん」
四葉も微笑んだ。
少しだけ勇気が出た。
◇
夕方。
勉強会終了。
玲奈と美咲は先に帰ることになった。
「またねー!」
「テスト頑張ろう」
二人が去っていく。
すると。
「……」
気付けば。
悠斗と四葉だけになっていた。
静かだった。
少し気まずい。
「今日はありがとう」
悠斗が言う。
「こちらこそ」
四葉が笑う。
夕日が差し込む。
オレンジ色の光。
「送っていくよ」
「え?」
「もう暗くなるし」
四葉は少し嬉しくなった。
「うん」
◇
帰り道。
住宅街。
夕焼け空。
二人で並んで歩く。
「今日は楽しかった」
四葉が言う。
「俺も」
「またみんなで勉強したいな」
「そうだな」
穏やかな時間。
しかし。
公園の前を通った時。
四葉が立ち止まった。
「あっ」
芝生の中。
小さな緑。
しゃがみ込む。
「見つけた」
そこには。
四葉のクローバー。
「また見つけたのか」
「うん」
四葉は大切そうに摘み取る。
そして。
少し迷った後。
悠斗へ差し出した。
「これ」
「え?」
「悠斗くんにあげる」
夕日が四葉を照らしていた。
その笑顔は優しかった。
そして少しだけ切なかった。
「私ね」
小さな声。
「悠斗くんが笑ってると嬉しい」
悠斗は息を呑む。
胸が高鳴る。
今まで感じたことのない感覚。
四葉は慌てて笑った。
「へ、変な意味じゃないよ!」
「……」
悠斗は答えられなかった。
ただ。
その瞬間だけははっきり分かった。
四葉の笑顔を見ていると。
心が温かくなる。
安心する。
もっと一緒にいたいと思う。
その気持ちは確かだった。
◇
帰宅後。
悠斗は机の上を見る。
今日もらった四葉のクローバー。
しおりの隣に置く。
そして思い出す。
四葉の笑顔。
美咲の言葉。
玲奈の告白。
少しずつ見え始めていた。
自分の本当の気持ちが。
だが。
まだ答えを出すには早い。
夏休みまではあと少し。
そしてその夏が。
四人の関係を大きく変えていくことになる。
第10話 完
次回予告
第11話「夏祭りの約束」
夏休み目前。 青葉学園の生徒たちは地元の夏祭りへ行く計画を立てる。
浴衣姿の四葉。 積極的になる玲奈。 そして美咲の決意。
夏の夜、花火の下で新たな恋が動き出す――。
第11話へ続く。




