第11話「夏祭りの約束」
七月下旬。
実力テストも終わり、青葉学園は夏休み目前となっていた。
教室には開放感が漂っている。
「終わったぁぁ!」
美咲が机に突っ伏した。
「解放!」
「大げさだな」
悠斗が苦笑する。
「だって夏休みだよ?」
美咲は勢いよく立ち上がった。
「海!祭り!花火!」
「勉強は?」
「聞こえません」
即答だった。
玲奈が呆れたようにため息をつく。
「その成績でよく言えるね」
「玲奈さん厳しい」
「事実」
教室に笑いが広がった。
そんな時だった。
彩花が声を上げる。
「あ、そうだ!」
全員の視線が集まる。
「来週の土曜日、商店街の夏祭りあるじゃん?」
「あー!」
美咲が反応する。
地元では有名な夏祭りだった。
屋台。
盆踊り。
そして最後には大きな花火大会。
毎年大勢の人が集まる。
「みんなで行かない?」
彩花の提案。
教室が盛り上がる。
そして当然のように――
悠斗たち四人も参加することになった。
◇
放課後。
帰り道。
四葉は一人で歩いていた。
夏祭り。
その言葉だけで胸が高鳴る。
理由は一つ。
悠斗と一緒だから。
「浴衣……どうしよう」
クローゼットを思い浮かべる。
去年買った浴衣があったはず。
似合うだろうか。
変じゃないだろうか。
そんなことばかり考えてしまう。
気付けば顔が少し赤くなっていた。
◇
一方。
神宮寺玲奈。
自宅。
鏡の前に立っていた。
スマホで浴衣の写真を見ている。
「これかな」
青色。
いや。
白色。
どちらにするか悩む。
そしてふと笑った。
「本気だな、私」
恋愛にこんなに真剣になるのは初めてだった。
東京にいた頃は興味もなかった。
でも今は違う。
負けたくない。
そう思っていた。
◇
そして美咲。
「お母さーん!」
リビングへ飛び込む。
「浴衣どこ!?」
「急にどうしたの?」
「大事なの!」
母親は苦笑した。
「恋愛関係?」
「ち、違う!」
図星だった。
顔が真っ赤である。
◇
夏祭り当日。
夕方。
待ち合わせ場所の駅前広場。
悠斗は少し早く到着していた。
私服。
白いシャツ。
ジーンズ。
「早く来すぎたかな」
そんなことを考えていると。
「悠斗くん」
聞き慣れた声。
振り返る。
そして――
言葉を失った。
そこにいたのは四葉だった。
淡いピンク色の浴衣。
髪も少しだけまとめている。
普段よりずっと大人っぽい。
「どうかな?」
不安そうな顔。
「変じゃない?」
悠斗は首を振った。
「すごく似合ってる」
四葉の顔が一瞬で赤くなる。
「そ、そっか」
嬉しかった。
とても。
◇
その直後。
「お待たせ」
玲奈が現れた。
白地に青い花柄の浴衣。
まるでモデルのようだった。
周囲の視線が集まる。
「綺麗……」
四葉が思わず呟く。
玲奈は笑う。
「ありがとう」
そして悠斗を見る。
「どう?」
「似合ってる」
「よかった」
玲奈も少し嬉しそうだった。
◇
そして最後。
「やっほー!」
美咲が走ってくる。
黄色い浴衣。
元気いっぱいだった。
「どう!?」
「転ぶなよ」
「感想それ!?」
全員が笑った。
こうして四人の夏祭りが始まった。
◇
商店街は大賑わいだった。
屋台が並ぶ。
焼きそば。
たこ焼き。
かき氷。
金魚すくい。
子供たちの笑い声。
祭りの音楽。
夏そのものだった。
「まず何する?」
美咲が聞く。
「食べ歩き」
即答だった。
「予想通り」
玲奈が笑う。
◇
最初は金魚すくい。
「よし!」
美咲が挑戦する。
結果。
三秒で終了。
「弱すぎる」
玲奈が呆れる。
しかし玲奈も五秒だった。
「……」
「……」
二人とも沈黙。
そして。
四葉。
「取れた」
一匹成功。
「すごい!」
全員が拍手した。
四葉は照れながら笑った。
◇
次は射的。
悠斗が挑戦する。
見事に景品を落とした。
「おお!」
歓声が上がる。
店のおじさんも驚いていた。
景品は小さなクローバーのキーホルダー。
「これ」
悠斗は四葉へ差し出した。
「え?」
「四葉っぽいから」
四葉は固まる。
そして。
「ありがとう」
大切そうに受け取った。
胸がいっぱいになった。
◇
夜。
花火大会の時間。
川沿いには大勢の人が集まっていた。
「すごい人だな」
悠斗が言う。
その時。
ドンッ!
大きな音。
夜空に花火が咲いた。
赤。
青。
金色。
次々と広がる。
「綺麗……」
四葉が見上げる。
花火の光が瞳に映る。
その横顔を悠斗は見ていた。
自然と。
気付けば。
花火よりも。
四葉の方を。
◇
ドンッ。
大輪の花火。
歓声。
その瞬間。
人の波が動いた。
「あっ」
四葉がバランスを崩す。
悠斗は反射的に手を掴んだ。
ぎゅっ。
二人の手が重なる。
「……」
「……」
離せない。
いや。
離したくなかった。
四葉の心臓は限界だった。
花火の音が聞こえないほど。
鼓動がうるさい。
そして悠斗もまた。
同じだった。
◇
少し離れた場所。
玲奈はその光景を見ていた。
美咲も。
二人とも何も言わなかった。
言えなかった。
分かってしまったから。
悠斗が四葉を見る目。
その優しさ。
その特別さ。
そして――
四葉の想い。
◇
花火大会終了後。
帰り道。
四人は駅へ向かう。
楽しかった。
本当に。
だけど。
それぞれの胸には違う感情が残っていた。
恋。
期待。
不安。
切なさ。
夏の夜風が吹く。
そして悠斗はまだ知らない。
もうすぐ自分が答えを出す時が来ることを。
四葉のクローバーが繋いだ出会い。
その恋は、ついに大きく動き始めていた。
第11話 完




