第12話「本当の気持ち」
夏祭りから三日後。
夏休みが始まった。
朝から強い日差しが降り注ぎ、蝉の鳴き声が町中に響いている。
しかし――
藤崎悠斗の心は晴れていなかった。
自室のベッドに寝転びながら天井を見つめる。
「俺が好きな人……か」
何度も考えてきた。
美咲の告白。
玲奈の告白。
そして四葉との日々。
逃げ続けるわけにはいかない。
誰かを選ぶということは、誰かを傷付けることでもある。
それが怖かった。
だから答えを出せずにいた。
だが、もう分かっている気もしていた。
◇
その日の午後。
悠斗は近所の公園へ向かった。
昔から考え事をするときによく来る場所だ。
ブランコ。
砂場。
小さな花壇。
子供の頃から何も変わらない。
ベンチに座って空を見上げる。
すると自然に思い出が浮かぶ。
美咲との思い出。
幼稚園。
小学校。
中学校。
いつも隣にいた。
喧嘩もした。
笑い合った。
大切な存在だ。
間違いなく。
でも――。
恋人として想像すると違和感がある。
家族に近い。
そんな感覚だった。
「美咲は本当に大事だよ」
ぽつりと呟く。
だが答えは見えていた。
◇
次に浮かんだのは玲奈。
転校してきた日。
真っ直ぐな性格。
誰よりも勇気を持って告白してくれた。
玲奈といると刺激がある。
新しい発見も多い。
尊敬できる部分もたくさんある。
だけど。
「違うんだよな……」
胸の奥が答えていた。
◇
最後に浮かんだのは――
白石四葉。
初めて出会った日。
四葉のクローバー。
屋上。
図書室。
勉強会。
夏祭り。
思い出が次々に浮かぶ。
そして気付く。
四葉が笑うと嬉しかった。
落ち込んでいると気になった。
他の男子と話していると少しモヤモヤした。
会えない日は寂しかった。
「……」
悠斗は目を閉じる。
そして静かに笑った。
「そうか」
ようやく分かった。
自分の本当の気持ちが。
◇
翌日。
午前中。
美咲から連絡が来た。
『少し会えない?』
短いメッセージ。
悠斗はすぐに了承した。
待ち合わせ場所はいつもの公園。
幼い頃から何度も遊んだ場所だった。
美咲は先に来ていた。
ベンチに座りながら空を見上げている。
「お待たせ」
「ううん」
美咲は笑った。
いつもの笑顔。
だけど少しだけ無理をしているようにも見えた。
しばらく沈黙。
そして。
「答え、出た?」
美咲が聞いた。
真っ直ぐだった。
逃げるつもりはないらしい。
悠斗は頷いた。
「出た」
美咲は目を閉じる。
覚悟していた。
きっと。
最初から。
◇
「ごめん」
その一言で十分だった。
美咲は少し俯く。
胸が痛い。
涙も出そうになる。
でも――
不思議と後悔はなかった。
「そっか」
少しだけ笑う。
「振られちゃったな」
「美咲……」
「いいの」
本当にいいのかは分からない。
でも。
悠斗を困らせたくなかった。
「ちゃんと答えてくれてありがとう」
そう言って立ち上がる。
そして。
「幸せになれよ」
笑顔を作った。
完璧ではない。
少し震えている。
それでも精一杯の笑顔だった。
悠斗は深く頭を下げる。
「ありがとう」
美咲は振り返らずに歩いていった。
その背中が少しだけ小さく見えた。
◇
その日の夕方。
玲奈にも会った。
駅前のカフェ。
玲奈はすでに答えを察していた。
「そういう顔してる」
苦笑する。
「ごめん」
悠斗が言う。
玲奈は数秒黙った。
そして小さく笑う。
「悔しいな」
それが本音だった。
負けたくなかった。
本気だったから。
でも。
「藤崎くんらしいね」
玲奈は立ち上がる。
「ちゃんと自分で決めたんでしょ?」
「うん」
「ならいい」
そう言いながらも目は少し赤かった。
悠斗は何も言えなかった。
玲奈は最後に笑う。
「後悔したら許さないから」
「しない」
即答だった。
玲奈は少し驚き。
そして優しく微笑んだ。
「なら大丈夫」
◇
その夜。
悠斗は机の引き出しを開ける。
中には四葉からもらったしおり。
そして何枚もの四葉のクローバー。
初めて見つけた一枚。
校外学習の日。
勉強会の日。
夏祭りの日。
全部大切な思い出だった。
スマホを手に取る。
メッセージを送る。
『明日、会える?』
送信先は――
白石四葉。
数分後。
返信が来る。
『うん』
たった一文字。
だけど胸が高鳴った。
◇
翌日。
待ち合わせ場所は学校近くの公園。
夕方。
夏の風が吹いている。
四葉は少し早く来ていた。
白いワンピース。
緊張しているのが遠くからでも分かった。
「ごめん、待った?」
「ううん」
ぎこちない会話。
いつもならもっと自然なのに。
今日は違う。
お互い分かっているから。
これから何が起きるのか。
◇
「四葉」
悠斗が呼ぶ。
「うん」
四葉は見上げる。
鼓動が速い。
怖い。
期待してはいけない。
でも期待してしまう。
悠斗は深呼吸した。
そして――
「話したいことがある」
夏の夕日が二人を照らす。
運命を変える言葉が今、口にされようとしていた。
第12話 完




