第13話「四葉の答え」
夏の夕暮れ。
オレンジ色に染まる公園。
蝉の鳴き声も少しずつ弱くなり、一日の終わりを告げていた。
ベンチの前。
藤崎悠斗と白石四葉は向かい合って立っている。
いつもなら自然に話せるはずなのに。
今日は違った。
胸が苦しいほど緊張している。
それは四葉も同じだった。
「話したいことがある」
悠斗の言葉。
その続きを待ちながら、四葉の心臓は激しく鼓動していた。
もし違ったら。
もし期待外れだったら。
そう考えるだけで怖くなる。
◇
悠斗は大きく息を吸った。
そして真っ直ぐ四葉を見る。
逃げないように。
自分の気持ちから。
「俺さ」
声が少し震えた。
「ずっと考えてた」
四葉は黙って聞いている。
「美咲のことも」
「玲奈のことも」
「すごく大切なんだ」
四葉の胸が少し痛む。
やっぱり。
そう思ってしまう。
だけど悠斗は続けた。
「でも」
その一言。
「会いたいって思うのは」
「一緒にいると安心するのは」
「笑ってほしいって思うのは」
悠斗は小さく笑った。
そして。
「四葉だった」
時間が止まったような気がした。
◇
四葉は目を見開く。
信じられなかった。
ずっと願っていた言葉。
何度も夢見た言葉。
だけど現実になるなんて思っていなかった。
「俺は四葉が好きだ」
はっきりとした声だった。
「付き合ってほしい」
夕風が吹く。
四葉の髪が揺れた。
視界が滲む。
涙だった。
◇
「ご、ごめん」
悠斗が慌てる。
「嫌だった?」
四葉は首を振る。
何度も。
何度も。
「違うの……」
声が震える。
「嬉しくて」
涙が止まらない。
「ずっと好きだったから」
ぽろぽろと涙が零れる。
それでも笑っていた。
人生で一番幸せな瞬間だった。
◇
四葉は涙を拭く。
そして悠斗を見る。
少しだけ勇気を出して。
「私も」
声は小さい。
だけど確かだった。
「悠斗くんが好きです」
言えた。
ようやく。
ずっと胸に隠していた想いを。
「よろしくお願いします」
四葉は微笑んだ。
悠斗も笑った。
「こちらこそ」
こうして。
二人は恋人になった。
◇
その帰り道。
二人は並んで歩いていた。
いつもの道。
いつもの景色。
だけど全てが違って見える。
「なんか変な感じ」
四葉が笑う。
「何が?」
「だって」
少し照れながら言う。
「彼氏と帰ってるんだもん」
その言葉に悠斗も照れる。
「俺も慣れない」
「ふふっ」
二人は顔を見合わせて笑った。
◇
途中。
いつもの公園の前を通る。
そこにはクローバー畑があった。
四葉は自然と足を止める。
「どうした?」
「ちょっとだけ」
しゃがみ込む。
いつものようにクローバーを探す。
すると。
「あった」
四葉のクローバー。
今日も見つかった。
四葉はそれを摘み取る。
そして。
悠斗へ差し出した。
「記念」
「記念?」
「付き合った日だから」
悠斗は受け取る。
小さな四葉のクローバー。
だけど。
何よりも大切な宝物に思えた。
◇
その夜。
四葉は自室にいた。
押し花ノートを開く。
今まで集めた四葉のクローバー。
たくさんの思い出。
その最後のページに今日のクローバーを貼る。
そして書いた。
『2026年8月○日』
『悠斗くんと付き合った日』
文字を書いた瞬間。
また少し涙が出た。
嬉しい涙だった。
◇
一方。
美咲は自宅のベッドに寝転んでいた。
スマホを見る。
そこには悠斗からのメッセージ。
『ありがとう』
短い文章。
でも全て分かった。
「そっか」
少し寂しい。
胸はまだ痛い。
だけど。
不思議と笑えた。
「よかったじゃん」
窓の外を見る。
夕焼け空。
幼なじみとして。
友達として。
二人の幸せを願いたい。
そう思えた。
◇
玲奈もまた部屋で本を読んでいた。
しかし内容は全く頭に入らない。
「負けたなぁ」
苦笑する。
悔しい。
もちろん悔しい。
だけど。
悠斗が選んだのなら。
それが答えだ。
「幸せになりなさいよ」
小さく呟く。
そしてページをめくった。
新しい一歩を踏み出すために。
◇
夏の夜。
満天の星空。
四葉のクローバーが繋いだ小さな出会い。
そこから始まった恋。
たくさんの笑顔。
涙。
すれ違い。
そして想い。
その全てが重なって。
今ここに一つの幸せな答えが生まれた。
だけど。
物語はまだ終わらない。
恋人になったからこそ始まる新しい毎日がある。
文化祭。
修学旅行。
進路。
そして未来。
二人の青春はまだまだ続いていく。
四葉のクローバーは今日も静かに風に揺れていた。
まるで二人を祝福するように。
第13話 完




