第14話「初めてのデート」
八月中旬。
夏休みも半分を過ぎた頃。
藤崎悠斗には、最近ひとつの悩みがあった。
「デートって何すればいいんだ……」
自室のベッドに寝転びながら天井を見上げる。
恋人ができた。
白石四葉という大切な彼女ができた。
だが。
問題はそこからだった。
付き合うことになったものの、二人とも恋愛経験はゼロ。
毎日メッセージのやり取りはしている。
電話も少しだけするようになった。
しかし――
恋人らしいことは何もしていない。
「これはまずい気がする」
悠斗が真剣に悩んでいるとスマホが鳴った。
画面を見る。
四葉からだった。
『おはよう』
その一言だけで少し顔が緩む。
そして続けて届いたメッセージ。
『今度、一緒に出掛けない?』
悠斗は飛び起きた。
◇
翌日。
二人は駅前で待ち合わせをすることになった。
時間は午前十時。
悠斗は九時四十分には到着していた。
「早すぎたな……」
落ち着かない。
何度もスマホを見る。
何度も時計を見る。
そんな時だった。
「悠斗くん」
声が聞こえた。
振り返る。
そして。
数秒固まった。
四葉だった。
白いブラウス。
淡い水色のスカート。
肩まで伸びた髪。
いつも以上に可愛かった。
「お、おはよう」
四葉も緊張している。
顔が少し赤い。
「おはよう」
悠斗も同じだった。
お互いぎこちない。
付き合う前の方が自然に話せていた気さえする。
◇
今日の目的地は大型ショッピングモール。
映画館や雑貨店も入っている人気スポットだった。
「まず何する?」
悠斗が聞く。
「映画見たい」
四葉が答える。
「じゃあ映画からだな」
二人は映画館へ向かった。
◇
上映されたのは恋愛映画だった。
高校生カップルの物語。
甘くて切ない青春作品。
上映中。
四葉は真剣に見ていた。
悠斗も集中していた。
しかし終盤。
感動シーン。
主人公とヒロインが涙ながらに再会する。
すると。
隣から小さな音が聞こえた。
「ぐすっ……」
四葉だった。
泣いている。
悠斗は慌てる。
ハンカチを差し出した。
「使う?」
「ありがとう……」
四葉は受け取る。
そして少し笑った。
「優しいね」
その笑顔を見て悠斗の胸が少し温かくなった。
◇
映画終了後。
フードコートへ向かう。
昼食を食べながら映画の感想を話す。
「最後よかったな」
「うん」
四葉は頷く。
「でも途中は切なかった」
「確かに」
会話は自然だった。
付き合う前と変わらない。
そのことが少し嬉しかった。
◇
午後。
雑貨店を見て回る。
文房具。
アクセサリー。
ぬいぐるみ。
色々な商品が並んでいた。
「可愛い」
四葉が立ち止まる。
見ていたのはクローバーのチャームだった。
銀色の小さな四葉のクローバー。
「欲しいの?」
悠斗が聞く。
「ううん」
四葉は首を振る。
「見るだけ」
だが。
その目は少しだけ名残惜しそうだった。
◇
しばらくして。
別の店を回った後。
悠斗は一人でさっきの店へ戻った。
そして。
クローバーのチャームを購入する。
店員が笑顔で袋を渡してくれた。
悠斗は少し照れながら受け取った。
◇
夕方。
屋上庭園。
モールの最上階にある小さな展望スペースだった。
ベンチに座る二人。
夕日が街を染めている。
風が気持ちいい。
「今日は楽しかった」
四葉が言う。
「俺も」
悠斗はポケットから小さな袋を取り出した。
「これ」
「え?」
四葉が首を傾げる。
「今日の記念」
袋を渡す。
四葉は驚きながら開けた。
中には。
あのクローバーのチャーム。
「……!」
言葉が出なかった。
「欲しそうだったから」
悠斗が言う。
四葉の目が潤む。
「嬉しい……」
本当に嬉しかった。
高価な物ではない。
だけど。
自分のために選んでくれたことが嬉しかった。
「大切にする」
そう言って胸の前で握りしめる。
◇
帰り道。
駅へ向かう途中。
信号待ち。
人通りも少なかった。
四葉は少しだけ緊張していた。
ずっと考えていたことがある。
恋人らしいこと。
でも勇気が出なかった。
しかし。
今日だけは。
少しだけ頑張りたかった。
「悠斗くん」
「ん?」
四葉が小さく手を伸ばす。
そして。
そっと。
悠斗の手を握った。
「!」
悠斗の心臓が跳ねる。
四葉も顔が真っ赤だった。
「嫌だった?」
不安そうな声。
悠斗は首を振る。
そして。
握り返した。
ぎこちない。
でも温かい。
二人とも何も言えなかった。
ただ。
その温もりだけで十分だった。
◇
夜。
帰宅後。
四葉は机に向かっていた。
今日もらったクローバーのチャーム。
押し花ノートの隣へ置く。
そして小さく微笑んだ。
「初デート」
思い出すだけで幸せだった。
一方。
悠斗もベッドに寝転びながら思い出していた。
映画。
買い物。
夕焼け。
そして。
手を繋いだ瞬間。
自然と笑みがこぼれる。
恋人になって終わりじゃない。
ここから始まるんだ。
二人の物語は。
◇
夏休みはまだ続く。
そして新学期が始まれば文化祭も待っている。
新しい思い出。
新しい試練。
新しい出会い。
四葉のクローバーが導く未来は、まだまだ続いていく。
第14話 完




