第15話「文化祭実行委員」
九月。
長かった夏休みが終わり、青葉学園には再び生徒たちの賑やかな声が戻ってきた。
二学期初日。
教室のあちこちで夏休みの思い出話が飛び交っている。
「海行った!」
「宿題終わらなかった!」
「真っ黒になってるじゃん!」
そんな中。
悠斗と四葉はこっそり目を合わせた。
そして小さく笑う。
恋人になってから初めての新学期。
周囲にはまだ付き合っていることを話していない。
だから学校では今まで通り。
そのはずだった。
「藤崎ー!」
美咲が机に突っ伏す。
「宿題見せて」
「却下」
「鬼!」
「自業自得だろ」
相変わらずだった。
その様子を見て四葉も笑う。
玲奈も苦笑している。
少し前まで複雑だった四人の関係も、今は落ち着きを取り戻していた。
もちろん失恋の傷が完全に消えたわけではない。
だが美咲も玲奈も前を向こうとしていた。
◇
ホームルーム。
担任の佐伯先生が教室に入ってくる。
「よし、みんな席につけ」
ざわついていた教室が静かになる。
先生は黒板に大きく文字を書く。
文化祭
その瞬間。
教室が歓声に包まれた。
「待ってました!」
「文化祭!」
「青春イベント!」
先生は苦笑する。
「浮かれるのはいいが、準備もちゃんとやれよ」
そして説明が始まった。
文化祭まで約一か月。
各クラスで出し物を決め、準備を進める。
さらに実行委員も選ばなければならない。
「立候補いるか?」
先生が聞く。
しかし誰も手を挙げない。
面倒だからだ。
沈黙。
すると。
「藤崎でいいんじゃね?」
男子の一人が言った。
「確かに」
「真面目だし」
「任せられる」
教室が頷く。
「え?」
悠斗は固まった。
「反対ないな?」
「ないでーす」
勝手に決定した。
「ちょっと待て」
「諦めろ」
友人が肩を叩く。
◇
問題はもう一人だった。
女子側。
「誰にする?」
「どうする?」
そんな声が飛び交う。
その時だった。
「白石さんどう?」
誰かが言った。
四葉は目を丸くする。
「わ、私!?」
「いいと思う!」
「真面目だし」
「優しいし」
次々と賛成が出る。
「決まりだな」
先生が言った。
「ええっ!?」
こうして。
文化祭実行委員は――
藤崎悠斗。
白石四葉。
二人になった。
◇
放課後。
実行委員会。
各クラスの代表が集まる。
「よろしくお願いします」
四葉は緊張していた。
「大丈夫?」
悠斗が小声で聞く。
「少しだけ」
「俺も」
二人で苦笑する。
すると。
「おーい!」
後ろから声。
振り返ると美咲だった。
「頑張れー実行委員コンビ!」
「他人事だな」
「だって面倒そうだし」
即答だった。
玲奈も隣にいる。
「私は少し同情する」
「ありがとう」
悠斗は本気でそう思った。
◇
その日の委員会は長引いた。
出し物の確認。
予算。
スケジュール。
役割分担。
終わった頃には夕方だった。
「疲れた……」
四葉が机に突っ伏す。
「まだ初日だぞ」
「うそ」
「本当」
四葉は絶望した顔になる。
悠斗は思わず笑った。
◇
帰り道。
夕焼け。
二人で歩く。
最近はこうして帰ることも増えた。
誰もいない時だけ。
学校では秘密だからだ。
「大変そうだね」
四葉が言う。
「文化祭?」
「うん」
「でも嫌じゃない」
悠斗は空を見る。
「四葉と一緒だし」
その瞬間。
四葉の顔が真っ赤になった。
「そ、そういうこと普通に言う」
「思ったから」
「うぅ……」
四葉は顔を隠した。
まだ全然慣れない。
◇
数日後。
クラス会議。
出し物を決める日だった。
候補は色々出た。
お化け屋敷。
喫茶店。
縁日。
演劇。
意見がまとまらない。
そんな中。
「メイド喫茶!」
誰かが叫んだ。
教室が盛り上がる。
男子たちが特に。
「いいじゃん!」
「最高!」
女子たちは苦笑い。
結局多数決。
一年二組の出し物は――
メイド喫茶
に決定した。
◇
放課後。
悠斗は頭を抱えていた。
「絶対面倒になる」
予感しかしない。
そして予感は当たる。
「女子はメイド服ね!」
クラス委員が言った瞬間。
教室が歓声に包まれた。
男子たちが大騒ぎである。
「白石さん絶対似合う!」
「神宮寺さんも!」
「朝倉さんも!」
四葉は顔を真っ赤にしている。
玲奈は呆れている。
美咲はノリノリだった。
「やるしかない!」
◇
文化祭準備期間。
毎日が忙しかった。
放課後は教室の装飾。
看板作り。
メニュー決め。
役割確認。
悠斗と四葉はほぼ毎日一緒に残っていた。
しかし。
それを快く思わない人物もいた。
「最近仲良すぎじゃない?」
女子の一人が言う。
「確かに」
別の女子も頷く。
「付き合ってたりして」
その言葉に。
四葉の肩がぴくりと動いた。
悠斗も少し焦る。
だが。
「ないない」
美咲が笑った。
「二人ともそういう感じじゃないでしょ」
「確かに」
話題は流れた。
だが。
美咲は内心複雑だった。
本当は知っている。
二人が付き合っていることを。
それでも守ってあげたかった。
友達だから。
◇
文化祭一週間前。
準備は佳境を迎えていた。
そんなある日。
事件が起きる。
実行委員会終了後。
校舎の階段。
四葉が重そうな段ボールを運んでいた。
「よいしょ……」
無理をしていた。
その時。
足を滑らせる。
「きゃっ!」
段ボールが落ちる。
体もバランスを崩した。
しかし。
「危ない!」
悠斗が飛び込む。
四葉を抱き留めた。
ぎゅっ。
完全に抱き寄せる形。
数秒。
沈黙。
そして。
周囲から声が聞こえた。
「え?」
「今の……」
「え?」
クラスメイト数人が見ていた。
◇
空気が凍る。
四葉は真っ赤。
悠斗も固まる。
美咲と玲奈もいた。
「えっと」
誰かが言う。
「もしかして」
嫌な予感。
ものすごく嫌な予感。
そして。
「付き合ってる?」
核心だった。
◇
教室中が静まり返る。
四葉は俯く。
悠斗は迷った。
隠すか。
ごまかすか。
でも。
もう隠す理由はない。
悠斗は四葉を見る。
四葉も見上げる。
そして。
小さく頷いた。
覚悟を決めたのだ。
悠斗も頷く。
「うん」
静かな声。
「付き合ってる」
一瞬の沈黙。
そして――
「マジかぁぁぁ!!」
教室が大爆発した。
男子たちが叫ぶ。
女子たちが騒ぐ。
大混乱だった。
四葉は恥ずかしさで消えそうだった。
だが。
不思議と嫌ではなかった。
隣には悠斗がいる。
そして。
「おめでとう!」
美咲が笑った。
「やっと言えたね」
玲奈も微笑む。
「隠すの下手だったし」
二人の言葉に。
四葉の目が少し潤む。
◇
文化祭まであと一週間。
二人の関係はついにみんなに知られた。
恥ずかしい。
だけど嬉しい。
そして。
これから迎える文化祭は――
二人にとって忘れられない思い出になることを、まだ誰も知らなかった。
第15話 完




