第16話「文化祭前夜」
文化祭まで、あと一日。
青葉学園は朝からお祭り騒ぎだった。
廊下には装飾が並び、各クラスからはペンキの匂いや木材を切る音が聞こえてくる。
一年二組も例外ではない。
「そこもっと右!」
「看板落ちるぞー!」
「誰だ接着剤なくしたの!」
教室は大混乱だった。
しかし。
その中心には文化祭実行委員である悠斗と四葉がいた。
「テーブル配置終わったよ!」
「ありがとう!」
「メニュー表も完成!」
「助かる!」
二人は忙しく走り回る。
文化祭準備が本格化してからというもの、毎日遅くまで学校に残っていた。
疲れているはずなのに、不思議と嫌ではない。
四葉と一緒だから。
四葉も同じ気持ちだった。
◇
昼休み。
ようやく一息つけた二人。
教室の隅でジュースを飲んでいた。
「疲れたね」
四葉が笑う。
「まだ終わってないけどな」
「うぅ……」
四葉は机に突っ伏した。
その姿に悠斗が笑う。
最近、自然とこういう時間が増えた。
恋人として。
友達として。
一緒にいることが当たり前になってきていた。
◇
その様子を遠くから見ている人物が二人。
美咲と玲奈だった。
「仲良いなぁ」
美咲が言う。
「付き合ってるんだから当然でしょ」
玲奈が返す。
「分かってるけどさ」
美咲は少し笑う。
胸の奥が少しだけ痛む。
でも。
以前ほどではない。
時間が少しずつ傷を癒してくれていた。
「応援しよう」
美咲が言う。
玲奈も頷いた。
「そうだね」
◇
放課後。
文化祭前日の最終準備。
教室は夕方になっても大忙しだった。
看板完成。
装飾完成。
メニュー完成。
ようやく終わりが見えてきた。
「終わったぁぁ!」
美咲が叫ぶ。
クラス中が歓声を上げた。
拍手が起こる。
達成感に包まれていた。
「みんなお疲れ!」
担任の佐伯先生も笑顔だった。
「明日は全力で楽しめよ」
教室から大きな返事が返ってくる。
◇
解散後。
生徒たちは次々に帰っていった。
気付けば校舎にはほとんど人がいない。
そんな中。
四葉は教室に残っていた。
窓から夕焼けを見ている。
すると。
「四葉」
悠斗がやって来た。
「まだ帰ってなかったのか」
「少しだけ」
四葉は微笑んだ。
そして。
鞄の中から小さな包みを取り出す。
「これ」
「え?」
「文化祭頑張ったから」
悠斗は受け取る。
小さな箱だった。
開けてみる。
中には――
クローバーのストラップ。
手作りだった。
「これ……」
「頑張って作ったの」
四葉は少し照れる。
「下手だけど」
「そんなことない」
悠斗はすぐに首を振った。
「すごく嬉しい」
本心だった。
市販品よりも何倍も嬉しかった。
四葉が自分のために作ってくれた。
その事実だけで十分だった。
◇
「ありがとう」
悠斗は笑う。
四葉も笑う。
夕日が二人を照らしていた。
そして。
「文化祭終わったらさ」
悠斗が言う。
「うん?」
「またどこか行こう」
四葉は目を見開く。
そして嬉しそうに頷いた。
「行きたい」
「じゃあ約束」
「約束」
小指を出す。
悠斗も笑って指を絡めた。
小さな約束。
でも二人にとっては大切な約束だった。
◇
翌朝。
文化祭当日。
青葉学園は大勢の来場者で賑わっていた。
校門には大きな看板。
中庭には模擬店。
吹奏楽部の演奏も聞こえる。
まさに文化祭だった。
一年二組のメイド喫茶も開店準備中。
男子たちは黒のベスト姿。
女子たちは――
メイド服。
「うわぁ……」
教室に入った悠斗は思わず固まった。
四葉。
玲奈。
美咲。
みんなメイド服を着ている。
普段とは全く違う姿だった。
◇
まず目に入ったのは四葉。
白と黒を基調としたメイド服。
髪には小さなリボン。
控えめな可愛さ。
しかし破壊力は十分だった。
「ど、どうかな?」
不安そうに聞く。
悠斗は即答した。
「似合ってる」
四葉の顔が真っ赤になる。
「そ、そっか」
嬉しそうだった。
◇
その横では玲奈。
まるで雑誌モデルのようだった。
「似合いすぎる」
男子たちがざわつく。
玲奈はため息をついた。
「騒ぎすぎ」
だが少し照れている。
◇
そして美咲。
「見て見て!」
くるりと回る。
「完璧じゃない!?」
「元気すぎる」
悠斗が笑う。
「それ褒めてる?」
「たぶん」
◇
開店時間。
メイド喫茶は大盛況だった。
「いらっしゃいませ!」
「こちらへどうぞ!」
来客が途切れない。
評判は予想以上だった。
特に四葉の人気が凄かった。
「可愛い」
「天使か」
男子客たちがざわつく。
そのたびに悠斗は少し複雑な気持ちになる。
◇
「嫉妬?」
休憩中。
玲奈が聞いた。
「違う」
即答。
しかし。
「顔に出てる」
玲奈は笑う。
図星だった。
悠斗は言い返せない。
◇
文化祭は大成功。
クラス全員が笑顔だった。
だが。
まだこの文化祭には大きなイベントが残っている。
それは――
文化祭後夜祭。
そして伝説の。
キャンプファイヤー。
その炎の前で結ばれたカップルは幸せになれる。
そんな噂が青葉学園には昔からあった。
そしてその夜。
悠斗と四葉の恋は、さらに大きな一歩を踏み出すことになる――。
第16話 完
次回予告
第17話「キャンプファイヤーの奇跡」
文化祭後夜祭スタート!
揺れる炎。
流れる音楽。
そして悠斗が四葉へ伝える新たな想い。
二人に訪れる青春最大の甘い夜――。
第17話へ続く。




