第17話「キャンプファイヤーの奇跡」
文化祭当日。
夕方。
一年二組のメイド喫茶は最後のお客様を見送り、無事に営業を終えた。
「終わったぁぁぁ!!」
美咲が机に突っ伏す。
「疲れたー!」
「でも楽しかったな」
悠斗が笑う。
「過去最高売上らしいよ」
玲奈が報告する。
教室が歓声に包まれた。
拍手。
笑顔。
達成感。
みんなの表情は輝いていた。
この一か月、準備を頑張ってきた成果だった。
そして――
文化祭はまだ終わらない。
夜には後夜祭が待っている。
◇
午後六時。
校庭。
空は少しずつ茜色から群青色へ変わり始めていた。
校庭の中央には巨大なキャンプファイヤーが組まれている。
周囲には生徒たち。
先生たち。
吹奏楽部の演奏。
文化祭の最後を飾る一大イベントだった。
「すごい人だな」
悠斗が呟く。
「毎年こうらしいよ」
四葉が答える。
二人は並んで歩いていた。
付き合っていることはクラス全員に知られている。
だから以前のように隠れる必要はない。
それが少しだけ嬉しかった。
◇
やがて。
校長先生の挨拶。
実行委員長の挨拶。
そして――
点火。
大きな炎が夜空へ立ち上がった。
「おお……」
歓声が広がる。
炎は力強く燃えていた。
赤く。
明るく。
まるで青春そのもののように。
◇
生徒たちは音楽に合わせて輪になる。
友達同士。
カップル同士。
みんな笑顔だった。
美咲もいた。
玲奈もいた。
二人とも楽しそうに笑っている。
失恋したとは思えないくらいに。
もちろん本当は色々な気持ちがある。
それでも。
今日くらいは笑いたかった。
青春を楽しみたかった。
◇
「四葉」
悠斗が呼ぶ。
「ん?」
「少し歩かない?」
四葉は驚く。
そして頷いた。
「うん」
二人は校庭の端へ向かう。
キャンプファイヤーの光が届く静かな場所だった。
◇
夜風が吹く。
文化祭の喧騒が少し遠く聞こえる。
二人だけの空間。
「文化祭終わっちゃったね」
四葉が言う。
「早かったな」
「うん」
一か月以上準備していたのに。
終わる時はあっという間だった。
少し寂しい。
でも。
それ以上に幸せだった。
◇
「ありがとう」
四葉が言った。
「ん?」
「実行委員」
悠斗は首を傾げる。
「私一人だったら無理だった」
「そんなことないだろ」
「あるよ」
四葉は笑う。
「悠斗くんがいたから頑張れた」
その言葉は本心だった。
文化祭準備。
勉強。
恋愛。
色々なことがあった。
でも。
いつも隣には悠斗がいた。
◇
悠斗は少し照れながら頭を掻く。
「俺も同じ」
「え?」
「四葉がいたから頑張れた」
四葉は目を見開く。
そして顔が赤くなる。
本当に。
この人は時々さらっと恥ずかしいことを言う。
◇
その時だった。
ドーン。
夜空に花火が上がる。
文化祭フィナーレの打ち上げ花火。
「綺麗……」
四葉が見上げる。
赤。
青。
金色。
大輪の花が夜空に咲く。
その横顔を悠斗は見つめていた。
気付けば。
何度もそうしていた。
花火よりも。
景色よりも。
四葉を見ている自分がいる。
◇
「どうしたの?」
四葉が気付く。
悠斗は少し笑った。
「いや」
「?」
「やっぱり好きだなって思った」
四葉の思考が止まる。
顔が真っ赤になる。
「な、ななな何言ってるの!?」
大混乱。
悠斗も少し照れていた。
でも。
今はちゃんと伝えたかった。
◇
「俺さ」
静かな声。
「四葉と出会えて良かった」
「……」
「本当に」
四葉の瞳が潤む。
胸がいっぱいになる。
こんなにも幸せでいいのだろうか。
そう思うくらい。
◇
花火が次々と上がる。
歓声が聞こえる。
でも二人には関係なかった。
今だけは。
お互いしか見えていなかった。
◇
その時。
ふわりと風が吹いた。
四葉の髪が揺れる。
悠斗は自然に手を伸ばした。
そして。
そっと髪を整える。
「……!」
四葉の心臓が跳ねる。
距離が近い。
近すぎる。
顔が熱い。
◇
「四葉」
「は、はい」
緊張で敬語になった。
悠斗は少し笑う。
そして。
ゆっくりと手を差し出した。
「これからもよろしく」
シンプルな言葉。
だけど。
何より嬉しかった。
◇
四葉は涙ぐみながら頷く。
「こちらこそ」
そして。
その手を握った。
ぎゅっと。
離さないように。
◇
遠くではキャンプファイヤーが燃えている。
友達の笑い声。
吹奏楽部の演奏。
夜空の花火。
その全てが二人を祝福しているようだった。
◇
少し離れた場所。
美咲と玲奈がその様子を見ていた。
「幸せそうだね」
美咲が言う。
「うん」
玲奈も微笑む。
悔しさが消えたわけではない。
でも。
今は素直に思えた。
二人なら大丈夫だと。
◇
後夜祭終了。
文化祭は幕を閉じた。
長かった準備期間。
たくさんの思い出。
たくさんの笑顔。
その全てが青春の宝物になった。
そして――
二学期はまだ始まったばかり。
次に待っているのは体育祭。
さらに深まる恋。
新たな試練。
未来へ続く毎日。
四葉のクローバーが導く物語は、まだ終わらない。
第17話 完
次回予告
第18話「体育祭とライバル」
体育祭シーズン到来!
リレー選手に選ばれた悠斗と四葉。
さらに転校してきた新たな生徒が四葉に急接近!?
悠斗の胸に初めて本格的な嫉妬が芽生える――。
第18話へ続く。




