第6話「幼なじみの気持ち」
体育祭が終わった夕方。
校庭にはもうほとんど人がいなかった。
赤く染まる空。
静かな風。
悠斗は美咲の前に立っていた。
「話って?」
美咲は少し俯いている。
いつもの明るい彼女とは違った。
緊張しているようにも見える。
「私ね……」
声が震えていた。
悠斗は黙って待つ。
そして。
「最近ずっと考えてた」
美咲は小さく笑う。
「悠斗が四葉ちゃんと仲良くなってから」
「美咲……」
「最初は変な気持ちだったんだ」
夕日が二人を照らす。
「なんでこんなにモヤモヤするんだろうって」
美咲は拳を握る。
「幼なじみだからだと思ってた」
でも違った。
そう続けた。
「私――」
一度深呼吸する。
そして。
「悠斗のことが好き」
時間が止まったような気がした。
◇
悠斗は言葉を失った。
美咲が。
自分を。
好き?
頭の中が整理できない。
「返事はいらない」
美咲は慌てて言った。
「え?」
「今すぐじゃなくていい」
少し笑う。
だけどその笑顔はどこか寂しかった。
「ただ伝えたかっただけ」
ずっと隠していた気持ち。
ずっと誤魔化していた想い。
それをようやく口にできた。
「ありがとう」
悠斗はそう答えるしかなかった。
美咲は小さく頷く。
「じゃあ帰ろっか」
そう言ったものの。
二人の距離は今までとは少し違って見えた。
◇
翌日。
教室。
悠斗は落ち着かなかった。
授業も頭に入らない。
当然だ。
人生で初めて告白されたのだから。
しかも相手は美咲。
幼なじみ。
家族みたいな存在。
大切な人。
でも――
恋愛感情なのかは分からない。
「はぁ……」
ため息をつく。
すると。
「どうしたの?」
四葉だった。
「顔色悪いよ?」
心配そうに覗き込む。
近い。
そして優しい。
「いや、大丈夫」
「無理してる顔だよ」
四葉は本当に人の変化によく気付く。
悠斗は少しだけ笑った。
「ありがとう」
「うん」
四葉も微笑む。
その笑顔を見ていると不思議と落ち着く。
◇
昼休み。
いつもの屋上。
しかし今日は少し空気が違った。
「何かあった?」
四葉が聞く。
悠斗は驚く。
「分かるのか?」
「なんとなく」
さすがだった。
少し迷う。
話すべきか。
でも美咲の気持ちを勝手に話すのは違う気がした。
「友達のことで悩んでる」
結局そう答えた。
四葉は頷く。
「そっか」
そして少し考えてから言った。
「悩むってことは、その人を大事に思ってるんだね」
その言葉が胸に残った。
大事に思っている。
確かにそうだ。
美咲も。
四葉も。
◇
放課後。
四葉は図書室にいた。
しかし今日は読書に集中できない。
理由は分かっていた。
悠斗だ。
最近、気付けば目で追っている。
声を聞くと嬉しくなる。
会えないと少し寂しい。
それが何なのか。
もう分かっていた。
「好きなんだ……」
小さく呟く。
認めた瞬間。
顔が熱くなる。
でも同時に不安もあった。
もし悠斗に好きな人がいたら?
もし迷惑だったら?
考えるほど胸が苦しくなる。
◇
数日後。
六月。
梅雨入りが近づいていた。
放課後の帰り道。
突然の雨。
「うわっ!」
悠斗が空を見上げる。
傘を持っていない。
走ろうかと思ったその時。
「悠斗くん!」
四葉だった。
傘を差している。
「入る?」
「いいのか?」
「もちろん」
二人は一本の傘に入った。
距離が近い。
肩が触れそうになる。
雨音だけが響く。
「……」
「……」
お互い緊張していた。
すると。
「悠斗くん」
四葉が小さく呼ぶ。
「ん?」
「今、好きな人いる?」
心臓が跳ねた。
突然だった。
四葉自身も言ってから真っ赤になる。
「ご、ごめん!」
「いや」
悠斗は困った。
正直に言うべきか。
少し考える。
そして。
「分からない」
そう答えた。
「え?」
「大切な人はいる」
美咲。
四葉。
どちらも大切だ。
だけど恋なのかはまだ分からない。
四葉は静かに聞いていた。
そして少しだけ微笑む。
「そっか」
その笑顔は優しかった。
だけどどこか切なかった。
◇
その夜。
四葉は部屋で押し花のノートを開く。
たくさんの四葉のクローバー。
そして今日、新しく見つけた一枚。
ノートの端に小さく書く。
――恋をしました。
文字を書いた瞬間。
少しだけ泣きそうになった。
嬉しいからか。
苦しいからか。
自分でも分からなかった。
一方。
悠斗もまたベッドの上で天井を見ていた。
美咲の告白。
四葉への気持ち。
答えを出さなければならない日が来る。
だけど今はまだ分からない。
恋とは何なのか。
本当に好きとはどういうことなのか。
三人の心は少しずつすれ違い始める。
そして次回――
青葉学園にやってくる転校生が、三人の関係をさらに大きく揺らすことになる。
第6話 完
※次回、第7話「転校生と新しい風」へ続く。




