第5話「体育祭の約束」
校外学習から二週間。
青葉学園は体育祭ムード一色になっていた。
校庭では毎日応援練習が行われ、生徒たちの声が響き渡る。
一年二組も例外ではなかった。
「次はクラス対抗リレーの選手決めるぞー!」
体育委員の声が響く。
教室はざわついた。
「悠斗速そうじゃん」
男子の一人が言う。
「そうか?」
「中学の時サッカーやってたんだろ?」
「まあ」
結局、悠斗はリレー選手に選ばれた。
すると。
「私も出る!」
美咲が手を挙げた。
運動神経抜群の彼女も当然のように選出される。
「四葉ちゃんは?」
彩花が聞く。
四葉は慌てて首を振った。
「わ、私は応援で……」
運動はあまり得意ではないらしい。
「じゃあ応援団やろうよ!」
美咲が言う。
「え?」
「絶対似合う!」
「む、無理だよ!」
顔を真っ赤にする四葉。
その様子に教室中が笑った。
◇
昼休み。
いつもの屋上。
「体育祭か」
悠斗がフェンス越しに校庭を見る。
四葉は隣に座っていた。
「悠斗くん、リレー頑張ってね」
「ありがとう」
「応援するから」
その言葉だけで少しやる気が出る。
すると四葉が小さな袋を取り出した。
「これ」
「ん?」
中には小さなしおりが入っていた。
透明なラミネート加工がされている。
その中には――
四葉のクローバー。
「手作り?」
「うん」
四葉は少し恥ずかしそうに笑う。
「お守り」
悠斗は驚いた。
「俺に?」
「嫌だった?」
「いや」
むしろ嬉しい。
とても。
「ありがとう」
四葉は安心したように微笑んだ。
◇
その日の放課後。
美咲は偶然その場面を見てしまった。
屋上の階段から。
四葉がお守りを渡しているところを。
「……」
胸がぎゅっと痛んだ。
嫌な気持ちじゃない。
四葉のことは好きだ。
優しいし可愛いし良い子だと思う。
それでも。
「ずるいなぁ……」
ぽつりと呟いた。
自分でも驚くほど寂しそうな声だった。
◇
体育祭前日。
放課後。
校庭では最後の練習が行われていた。
「よし!」
悠斗がスタートダッシュを決める。
かなり速い。
「すごい!」
四葉が拍手する。
すると美咲が隣へ来た。
「負けないからね」
「何が?」
「リレー」
「同じチームだろ」
「気持ちの問題!」
意味はよく分からなかった。
しかし美咲は笑っていた。
いつもの元気な笑顔。
だけどどこか無理をしているようにも見えた。
◇
そして――
体育祭当日。
快晴。
絶好の体育祭日和だった。
グラウンドには大勢の保護者や生徒が集まっている。
開会式が終わり競技開始。
一年二組は順調だった。
綱引き。
玉入れ。
障害物競走。
どれも好成績。
そして午後。
最大の見せ場。
クラス対抗リレー。
「いよいよだな」
悠斗はスタート位置へ向かう。
緊張する。
その時だった。
「悠斗くん!」
四葉が駆け寄ってきた。
「頑張って!」
満面の笑顔。
そして。
「お守りの効果あるから!」
胸ポケットには四葉のクローバーのしおり。
自然と笑みがこぼれる。
「優勝してくる」
「うん!」
◇
位置につく。
スタートの合図。
パンッ!
一斉に走り出す。
バトンが繋がれる。
そして最終走者。
悠斗。
現在二位。
前との差は数メートル。
「行けぇぇぇ!」
クラスメイトたちの声。
悠斗は全力で走る。
風を切る。
足が重い。
それでも前を見る。
ゴールだけを見る。
残り五十メートル。
四十。
三十。
追いつく。
そして――
ゴール直前。
抜いた。
「うおおおお!!」
歓声が響く。
一年二組優勝。
◇
レース終了後。
悠斗は芝生に倒れ込んだ。
息が苦しい。
足も動かない。
すると。
「おめでとう!」
四葉が飛び込むように駆け寄ってきた。
「ありがとう」
「すごかった!」
本当に嬉しそうだった。
まるで自分のことのように。
その姿を見ていると疲れも吹き飛ぶ。
だがその時。
「悠斗」
後ろから美咲が呼ぶ。
振り返る。
そこには少しだけ真剣な表情の美咲がいた。
「放課後、少し話したい」
「え?」
「大事な話」
そう言って去っていく。
四葉も少し不安そうな顔をしていた。
◇
体育祭終了後。
夕暮れの校庭。
オレンジ色に染まるグラウンド。
悠斗は約束の場所へ向かう。
そこには美咲が待っていた。
静かな風が吹く。
「話って?」
悠斗が聞く。
美咲はしばらく黙っていた。
そしてゆっくり顔を上げる。
「私ね――」
その瞳は今まで見たことがないほど真剣だった。
二人の幼なじみの関係を変える言葉が、今まさに口にされようとしていた。
第5話 完
※次回、第6話「幼なじみの気持ち」へ続く。




