第4話「校外学習と三つの想い」
五月中旬。
青葉学園では校外学習の日を迎えていた。
行き先は市内でも有名な自然公園。
広い芝生や森林エリアがあり、クラスごとに班行動をすることになっている。
朝。
校門前には生徒たちが集まっていた。
「眠い……」
悠斗があくびをする。
すると後ろから元気な声が飛んできた。
「おはよー!」
美咲だった。
「朝から元気だな」
「校外学習だよ!?」
美咲は笑顔全開だった。
その時。
「お、おはよう」
少し控えめな声。
四葉だった。
白い帽子を被り、小さなリュックを背負っている。
「おはよう」
悠斗が返す。
すると四葉は少し嬉しそうに笑った。
その様子を見ていた美咲は何とも言えない顔になる。
◇
班分け発表。
そして――
「同じ班だ」
悠斗が呟く。
班のメンバーは、
悠斗
美咲
四葉
彩花
男子二人
女子一人
の七人だった。
「やった!」
美咲は喜ぶ。
四葉も少し嬉しそうだった。
こうして校外学習が始まった。
◇
午前中。
自然観察コース。
森の中を歩きながら植物を調べていく。
「これ何の花だろ」
四葉がしゃがみ込む。
すると悠斗も隣に座る。
「さあ?」
「調べてみよう」
二人で図鑑を見る。
その姿はまるで仲の良いカップルのようだった。
少し離れた場所で見ていた美咲。
「……」
無言。
彩花が肩を叩く。
「顔怖い」
「怖くない」
「怖い」
即答だった。
◇
昼食時間。
大きな芝生広場。
生徒たちはシートを広げて弁当を食べ始める。
「いただきます!」
みんなで手を合わせる。
その時。
四葉がお弁当箱を開いた。
「わぁ」
彩花が声を上げる。
「すごい!」
中には綺麗なオムライス。
ハンバーグ。
サラダ。
彩り豊かなおかず。
「全部手作り?」
「うん」
「すごい!」
女子たちが盛り上がる。
悠斗も感心した。
「本当に料理上手だな」
「ありがとう」
四葉は照れたように笑った。
すると。
「悠斗!」
美咲が呼ぶ。
「見て!」
弁当箱の中には大きな唐揚げ。
「朝五時に起きて作った!」
「それ市販だろ」
「バレた!?」
みんなが笑う。
その瞬間。
美咲もつられて笑った。
少しだけ心が軽くなる。
◇
午後。
自由散策。
班ごとに園内を回ることになった。
そこで事件が起きた。
「きゃっ!」
四葉の声。
振り返ると――
四葉が小さな段差で足をくじいていた。
「大丈夫!?」
悠斗が駆け寄る。
「う、うん……」
しかし顔が痛そうだった。
立とうとしても上手く立てない。
「無理するな」
悠斗はしゃがみ込む。
「背中」
「え?」
「保健室まで運ぶ」
四葉の顔が真っ赤になる。
「で、でも」
「歩けないだろ」
結局。
四葉は悠斗の背中におぶわれることになった。
「軽いな」
「言わないで……」
恥ずかしさで消えそうな声だった。
悠斗の背中は温かかった。
安心できた。
だけどその分、胸の鼓動が速くなる。
(近い……)
四葉は必死に平常心を保えていた。
◇
少し後ろ。
美咲はその光景を見ていた。
胸が痛い。
理由は分からない。
いや。
本当は分かっている。
でも認めたくない。
「美咲」
彩花が隣に来る。
「なに?」
「好きなんでしょ?」
その言葉に美咲は固まった。
「誰を?」
「藤崎くん」
数秒の沈黙。
そして――
「……分かんない」
それが本音だった。
だけど。
もし好きじゃないなら。
こんなに苦しくなるはずがない。
◇
夕方。
校外学習終了。
帰りのバス。
疲れた生徒たちは眠り始めていた。
悠斗の隣には四葉。
その後ろには美咲。
静かな時間。
窓の外には夕焼けが広がる。
「今日はありがとう」
四葉が小さく言った。
「気にするな」
「でも助かった」
「友達だからな」
その言葉に四葉は少し嬉しそうに微笑む。
友達。
今はそれで十分。
だけど――
いつかもっと特別な存在になれたら。
そんな願いが胸に生まれていた。
後ろの席で聞いていた美咲もまた、窓の外を見る。
夕日が滲んで見えた。
◇
その日の夜。
四葉は押し花のノートを開いた。
そこには以前見つけた四葉のクローバー。
そして今日、公園で見つけた新しい四葉のクローバー。
二枚並べて貼る。
「また増えた」
小さく笑う。
その隣に今日の日付を書いた。
――悠斗くんに助けてもらった日。
気付けば自然にペンが動いていた。
恋の芽は少しずつ育ち始めている。
そして同じ頃。
美咲もまた自分の気持ちから目を逸らせなくなっていた。
三人の関係はゆっくりと変わり始める。
次に待つのは――
青葉学園最大のイベント。
体育祭。
そこで新たな波乱が巻き起こることを、まだ誰も知らなかった。
第4話 完




