第3話「放課後の図書室」
五月に入り、青葉学園の新生活も少しずつ落ち着いてきた。
クラスメイト同士の距離も縮まり、休み時間にはあちこちで笑い声が響く。
そんな中――
悠斗には最近の日課ができていた。
昼休みに屋上へ行くこと。
そこにはいつも四葉がいる。
「おはよう、悠斗くん」
「おはよう」
朝の挨拶を交わすだけで、なぜか少し嬉しくなる。
そんな日々が続いていた。
◇
ある日の放課後。
「先生、この本返してきます」
「頼むな」
担任に頼まれた悠斗は図書室へ向かった。
放課後の校舎は静かだった。
運動部の掛け声だけが遠くから聞こえる。
図書室の扉を開ける。
すると――
「えっ?」
窓際の席に見覚えのある姿があった。
白石四葉だった。
「四葉?」
「悠斗くん!」
四葉は驚いた顔をする。
その机には何冊もの本が積まれていた。
「勉強?」
「違うよ」
四葉は笑う。
「読書」
「こんなに?」
「うん」
悠斗は思わず感心した。
小説。
図鑑。
エッセイ。
様々なジャンルが並んでいる。
「本好きなんだな」
「大好き」
四葉は嬉しそうに頷く。
「嫌なことがあっても、本を読んでると忘れられるから」
その言葉が少し気になった。
「嫌なこと?」
「あっ」
四葉は慌てる。
「大したことじゃないよ」
しかし表情は少し曇っていた。
悠斗は無理に聞かなかった。
聞いてほしい時は、自分から話してくれる気がしたからだ。
◇
「悠斗くんも読む?」
四葉が一冊の本を差し出す。
タイトルは――
『幸せを探す四つ葉の物語』
「なんか四葉らしいな」
「でしょ?」
二人は小さく笑った。
そして自然と隣同士で本を読む。
静かな時間。
言葉はほとんどない。
それなのに居心地が良かった。
ページをめくる音だけが聞こえる。
そんな穏やかな時間だった。
◇
一方その頃。
校門前。
「悠斗遅いなぁ」
美咲は腕を組んでいた。
今日は一緒に帰る約束をしていた。
しかし待っても来ない。
「どこ行ったんだろ」
そこへ彩花がやってきた。
「まだ待ってるの?」
「うん」
「藤崎くんなら図書室じゃない?」
「図書室?」
「さっき見たよ」
美咲は嫌な予感がした。
「誰と?」
「白石さん」
その瞬間。
美咲の眉がぴくっと動いた。
「そっか」
笑顔だった。
しかし彩花は知っている。
こういう時の美咲が一番危ない。
◇
図書室。
「この話好きなんだ」
四葉が本のページを指差す。
そこにはこんな言葉が書かれていた。
『幸せは見つけるものではなく、誰かと育てるもの』
悠斗はその一文を読む。
「いい言葉だな」
「うん」
四葉は優しく微笑んだ。
「私もそう思う」
その時。
ガラッ!
図書室の扉が勢いよく開いた。
「いたー!!」
大きな声。
悠斗は振り返る。
「美咲?」
そこには頬を膨らませた美咲が立っていた。
「約束!」
「え?」
「一緒に帰るって言ったじゃん!」
「あ……」
完全に忘れていた。
「ごめん」
「むー!」
美咲は不満そうだった。
すると四葉が慌てて立ち上がる。
「ごめんなさい!」
「え?」
「私が引き止めちゃったから」
四葉は申し訳なさそうだった。
しかし美咲は首を振る。
「四葉ちゃんは悪くないよ」
そう言いながらも悠斗を見る。
「悪いのは悠斗!」
「はい」
反論できなかった。
◇
図書室を出た後。
三人で並んで歩くことになった。
しかし妙に空気がぎこちない。
「……」
「……」
「……」
沈黙。
耐えきれなくなった悠斗が話題を探す。
「そういえば今度の校外学習――」
「四葉ちゃんって好きな食べ物なに?」
美咲が割り込んだ。
「え?」
「好きな食べ物!」
「オムライスかな」
「へぇ!」
会話が始まる。
気付けば女子二人だけで盛り上がっていた。
悠斗は置いてけぼりだった。
しかし少し安心する。
仲良くなってくれたら嬉しい。
そう思った。
だが――
二人の心は少し違っていた。
四葉は思う。
(美咲ちゃん、悠斗くんと本当に仲良しなんだな)
幼なじみへの少しの羨ましさ。
そして。
美咲は思う。
(四葉ちゃん、やっぱり可愛いな……)
だからこそ。
負けたくない。
そんな気持ちが芽生え始めていた。
◇
帰宅後。
四葉は今日借りた本を開く。
だが内容が頭に入らない。
気付けば思い出している。
図書室での時間。
悠斗の笑顔。
優しい声。
「私……」
胸が少しだけ温かくなる。
まだ名前の付かない感情。
だけど確かにそこにあった。
一方、美咲も自室のベッドに寝転びながら天井を見ていた。
「なんなんだろ」
最近のモヤモヤ。
悠斗が誰かと仲良くしているだけなのに気になる。
幼なじみだから?
それとも――。
答えはまだ分からない。
だが高校生活は始まったばかり。
四葉のクローバーが繋いだ出会いは、少しずつ恋へと近づいていく。
そして次のイベント――
校外学習が、三人の関係をさらに動かすことになる。
第3話 完




