第2話「屋上の秘密」
入学から一週間。
悠斗は少しずつ高校生活に慣れ始めていた。
クラスにも馴染み、新しい友達もできた。
しかし最近、彼には気になることがあった。
それは――
白石四葉。
昼休みに出会ったあの少女だ。
あの日以来、校内で何度か見かけるようになった。
だが話す機会は意外と少ない。
「あれ?」
ある日の昼休み。
中庭を歩いていた悠斗は四葉の姿を見つけた。
しかし声を掛けようとした瞬間――
四葉は校舎の非常階段へ向かって歩き出した。
「どこ行くんだ?」
なんとなく気になった悠斗は後を追う。
非常階段を上る。
三階。
四階。
そして屋上。
普段は生徒の立ち入りが許可されている場所だった。
ガチャ。
扉を開く。
春の風が吹き抜ける。
そして――
「いた」
フェンスの近く。
四葉が座っていた。
膝を抱えながら空を見上げている。
どこか寂しそうだった。
「白石」
「えっ?」
四葉が振り返る。
「悠斗くん!?」
かなり驚いていた。
「どうしたの?」
「いや、たまたま見かけて」
悠斗は隣に座る。
しばらく沈黙。
風の音だけが聞こえる。
「ここ好きなの?」
悠斗が聞いた。
四葉は小さく頷く。
「うん」
「なんで?」
「静かだから」
四葉は空を見る。
「私、人がたくさんいる場所が少し苦手なんだ」
「そうなのか」
「教室も嫌いじゃないよ?」
四葉は慌てて付け加える。
「でも疲れちゃうことがあるの」
悠斗は少し分かった気がした。
自分も似たところがある。
「だから昼休みはここに来るんだ」
「なるほどな」
四葉は少し安心したように笑った。
「変だと思わない?」
「別に」
「本当?」
「俺も静かな場所好きだし」
すると四葉の表情が明るくなった。
「よかった」
その笑顔を見ていると、なぜかこちらまで嬉しくなる。
◇
その頃。
教室では――
「絶対怪しい」
美咲が腕を組んでいた。
「何が?」
友人の佐々木彩花が聞く。
「悠斗と四葉ちゃん」
「もう仲良いの?」
「たぶん」
美咲は机に突っ伏した。
「なんかモヤモヤする」
「嫉妬?」
「違う!」
即答だった。
しかし顔は真っ赤だった。
彩花は苦笑する。
(完全に嫉妬だなぁ)
◇
屋上。
「そういえば」
四葉が小さな箱を取り出した。
「お弁当作ってきたの」
「へぇ」
「よかったら食べる?」
「いいのか?」
「うん」
蓋を開ける。
卵焼き。
唐揚げ。
ウインナー。
彩り豊かだった。
「美味そう」
「本当?」
「いただきます」
一口。
卵焼きを食べる。
「うまい」
四葉の目が輝いた。
「やった!」
まるで自分のことのように喜んでいる。
「料理好きなの?」
「好き!」
即答だった。
「お母さんとよく作るんだ」
「だから上手いのか」
「えへへ」
四葉は照れ笑いした。
その表情は年相応で可愛らしかった。
◇
昼休み終了五分前。
二人は屋上を歩いていた。
その時。
「あっ」
四葉が足を滑らせた。
「危ない!」
悠斗は反射的に腕を掴む。
ぐいっと引き寄せる。
四葉の体が悠斗の胸に当たった。
「……」
「……」
二人とも固まる。
顔が近い。
近すぎる。
四葉の長いまつ毛が見える距離だった。
「ご、ごめん!」
四葉が慌てて離れる。
顔は真っ赤。
悠斗も心臓が激しく鳴っていた。
「いや、怪我なくてよかった」
「う、うん」
気まずい沈黙。
だが不思議と嫌ではなかった。
◇
放課後。
悠斗が教室へ戻ると――
「遅い!」
美咲が待ち構えていた。
「なんだよ」
「昼休みどこ行ってたの!」
「屋上」
「誰と?」
「白石」
美咲は数秒固まる。
そして。
「ふーん」
明らかに機嫌が悪い。
「なんだよ」
「別に」
「怒ってる?」
「怒ってない」
完全に怒っていた。
悠斗はため息をつく。
女子は難しい。
◇
帰宅後。
四葉は自室の机に向かっていた。
その上には今日見つけた四葉のクローバー。
大切そうに押し花にしている。
「悠斗くんかぁ」
自然と名前を口にする。
優しい。
話しやすい。
一緒にいると落ち着く。
そんな人だった。
四葉は窓の外を見る。
夕焼け空。
そして少しだけ微笑んだ。
「また明日会えるかな」
その頃。
悠斗も同じように空を見上げていた。
まだ恋ではない。
だけど確かに特別な存在になり始めている。
そして気付いていないもう一人。
幼なじみの美咲もまた――
自分の気持ちに少しずつ戸惑い始めていた。
四葉のクローバーが結んだ縁。
その物語は、少しずつ動き始める。
第2話 完




