第1話「春風と四葉の約束」
四月。
桜の花びらが風に舞い、新しい制服に袖を通した生徒たちが校門をくぐっていく。
私立青葉学園。
この春から高校一年生になった少年――
**藤崎悠斗**も、その中の一人だった。
「高校か……」
新品の学生鞄を肩に掛けながら、悠斗は空を見上げる。
期待。
不安。
その両方が入り混じった気持ちだった。
中学時代は特別目立つ存在でもなく、友達もそれなり。
恋人なんてもちろんいない。
だからこそ高校では何か変わりたい。
そんな思いを胸に抱いていた。
「おーい!」
突然後ろから声が聞こえた。
振り返ると幼なじみの少女が走ってくる。
「悠斗ー!待ってよー!」
「美咲か」
同じ高校に進学した幼なじみ。
朝倉美咲。
肩まで伸びた黒髪と明るい笑顔が特徴の少女だ。
「入学初日から遅刻するかと思った!」
「しないって」
「怪しいなー」
美咲は笑う。
昔からこうだ。
元気いっぱいで、人懐っこい。
悠斗とは家が近く、小さい頃からずっと一緒だった。
「同じクラスだといいね」
「そうだな」
二人は昇降口へ向かった。
そして教室。
一年二組。
悠斗は自分の席を探す。
すると――
「隣だ」
席表を見ると隣は美咲だった。
「やったー!」
美咲が飛び跳ねる。
「一年よろしくね!」
「はいはい」
周囲からは少し羨ましそうな視線が飛んでいた。
幼なじみで隣同士。
まるで恋人みたいだからだ。
しかし二人は全く意識していなかった。
少なくとも今は。
◇
昼休み。
悠斗は校舎裏へ向かっていた。
教室の賑やかさが少し苦手だったからだ。
「静かだな……」
ベンチを見つけ腰掛ける。
春風が心地いい。
その時だった。
「あっ……」
小さな声が聞こえた。
振り返ると一人の少女がしゃがみ込んでいた。
長い栗色の髪。
透き通るような肌。
どこか儚げな雰囲気を持っている。
少女は地面を見つめていた。
「何してるんだ?」
思わず声を掛ける。
少女は少し驚いた顔をした。
「えっと……クローバー探し」
「クローバー?」
「うん」
少女は微笑む。
そして一本の草を見せた。
「四葉のクローバー」
「へぇ」
悠斗は少し興味を持った。
「好きなのか?」
「うん。小さい頃から」
少女は照れたように笑う。
「四葉のクローバーを見つけると幸せになれるって言うでしょ?」
「言うな」
「だから探してるの」
なんだか不思議な子だった。
だが嫌な感じはしない。
むしろ話しやすい。
「見つかった?」
「まだ」
少女は肩を落とした。
「今日はダメかも」
その時だった。
悠斗の目に何かが映る。
足元。
草むら。
「ん?」
しゃがみ込む。
そして一本摘み上げた。
「これじゃないか?」
「え?」
少女が目を見開く。
そこには確かに――
四枚の葉。
四葉のクローバーだった。
「うそ……!」
少女は立ち上がる。
「本当に四葉だ!」
顔いっぱいに笑顔が広がる。
その笑顔は桜よりも綺麗だった。
「すごい!」
「たまたまだよ」
「ありがとう!」
少女は大切そうに受け取った。
「私は白石四葉」
「え?」
悠斗は驚く。
「名前も四葉なのか」
「そうなの」
四葉は恥ずかしそうに笑った。
「だから余計に好きなんだ」
「なるほど」
「君は?」
「藤崎悠斗」
「悠斗くん」
初めて名前を呼ばれた。
不思議と胸が少しだけ高鳴る。
「また会えるかな?」
四葉が尋ねた。
「同じ学校なんだから会えるだろ」
「そっか」
四葉は嬉しそうだった。
チャイムが鳴る。
昼休み終了。
「じゃあまたね!」
四葉は手を振りながら去っていく。
悠斗も軽く手を振り返した。
だがその背中を見ながら思う。
――また会いたい。
そう自然に思っている自分に気付いていた。
◇
放課後。
悠斗は教室で帰り支度をしていた。
すると美咲がやってくる。
「誰?」
「何が?」
「昼休みに話してた女の子!」
「見てたのか」
「見えるもん」
美咲は頬を膨らませる。
「可愛かった」
「そうか?」
「可愛かった!」
なぜか力強い。
「名前は?」
「白石四葉」
「へぇ」
美咲は少し考え込む。
「ライバル出現かな」
「何のだよ」
「なんでもない」
ニヤニヤ笑う。
悠斗は意味が分からなかった。
◇
帰り道。
夕日が街をオレンジ色に染めていた。
美咲と並んで歩く。
いつもの道。
いつもの景色。
だけど今日は少し違う気がした。
四葉との出会い。
新しいクラス。
新しい毎日。
高校生活は始まったばかりだ。
そして悠斗はまだ知らない。
この出会いが未来を大きく変えていくことを。
四葉のクローバーが結んだ小さな縁。
それはやがて――
友情と恋が交差する物語へと繋がっていく。
春風は優しく吹いていた。
まるで新しい物語の始まりを祝福するように。
第1話 完




